かぜ
冷たくも湿った嫌な風が吹いている。
そんな夜だった。
少年が寝る前にトイレに行くと、トイレの窓から冷たい風が吹き込んでくる。
ぶるぶると少年が身を震わせると、外の庭木がザワザワと音を立てている。
今日はやけに風が強い日だ。
少年はそう思った。
それにこれほど冷たいのに、どこか湿っていて嫌な風だ。
少年はトイレで用を足している最中、真っ黒な闇を映す窓が見える。
窓は短い間隔の格子と分割された曇りガラスで構成されていて、その曇りガラスの隙間から、絶えず冷たい風が吹き込んできている。
曇りガラスと別の曇りガラスには五センチくらいの隙間があり、窓に設置されているレバーで開閉が可能だ。
なんだか嫌な風だと感じた少年は用を足しながら、手を伸ばし、そのレバーをいじり窓の隙間を閉めようとした。
レバーに手を伸ばしたところで、少年は固まる。
窓の外、曇りガラスのほんのわずかな隙間から、誰かが覗いているのだ。
少年はすぐにでも逃げ出したかったが、今は用を足している最中で逃げるに逃げられない。
そのまま少年は固まり、用を足し終えるまで、闇から覗く二つの目とじっとにらめっこをし続けた。
恐らくは人の目。少なくとも形としては人の持つ目だ。
ただ生きている人間の物か、と問われれば少年には自信が持てない。
青白い目元、濁った瞳、少し白髪交じりの眉毛。
それだけが、トイレの窓、その曇りガラスと曇りガラスの間から見えているのだ。
用が足し終わった少年は、ゆっくりと静かに動き、窓のレバーを下げる。
そうすると少年の手の動きに応じて、トイレの窓ガラスがゆっくりと静かに閉まっていく。
曇りガラス越しに、ぼやけた人影は見えるが、しばらくするとそれも闇に溶け込むように消えていった。
少年はあれは何だったのだろう、そう考えるがわからない。
ついでに、少年の家のトイレの窓は二階にあり、人がトイレの窓を覗き込めるように立てる場所はない。
かぜ【完】




