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アホウが


「ごめんください」

 六道珍皇寺の居住区のインターホンを鳴らして、男がそう言う。


『ほいほい、誰かな?』

 と、インターホンから声がする。


「安道晴臣です」

 と、晴臣が言うと、


『おお、久しぶりじゃな。ちょっと待ってな。今開けるから』

 と、少し嬉しそうな声が返ってきた。


「はい」

 と答えた晴臣。

 玄関が開いて、坂井出が顔を出し、


「晴臣、よー来たな。入れ入れ」

 と、晴臣を出迎える。


「お邪魔します」

 そうして、居間に通された晴臣の前に、日本茶が置かれ、向かいに坂井出が座ると、


「墓参りかえ?」

 と、問いかけてきた。


「はい、ついでに一族会議もありましたが」

 と、答えてから、茶を一口飲んだ晴臣。


「晴牙には会ったか?」


「いえ、来ませんでした」

 と、晴臣の答えに、


「あのアホウが」

 と、坂井出が言葉を吐き捨てる。


「まあ気持ちは分かりますが」


「一族会議と言ったの? 議題は?」


「私の次の当主の話です」


「晴輝が継ぐのかえ?」


「いえ、父は晴牙にと」


「晴輝の陰陽師の力だけではダメか」


「安道家は、生き物を使役してこそ、安道ということかと。当主になる条件は、子供を得ている事ですから、なんとかしろと」

 と、ため息混じりで晴臣が言うと、


「晴牙の力は異常じゃからのぉ。やはりあの力の血を残したいわのぉ。いったい何匹手懐けておるのか分からん」

 と、坂井出が言う。


「私と一緒にいた頃で、既に使役していた獣は、50を超えてましたからね」


「あやつの身体が心配じゃ。そう言えば、晴久殿は元気じゃったか? 最近はここに顔出さんので、久しく会っとらんが」

 と、坂井出が晴に尋ねる。


「一応という感じでしょうか。かなり痩せました。安道の力は、自分のエネルギーを生き物に分け与えているようなもの。生命力を削っているのと同じです」


「まあなぁ。だがそれによって陰陽師では対処出来ない事でも、安道家なら対処出来る事がある。まあ、逆も然りじゃがな」


「陰陽師で倒せない妖怪とか、本当に居るのでしょうか?」

 との晴臣の疑問に、坂井出は即座に、


「居る! 晴臣はまだ聞いとらんのかもしれんが、普通の妖怪が可愛く思えるような、強力な妖怪が出る事がある。陰陽師の式神では太刀打ち出来ん事が、昔は何度かあったようだ」

 と、答えた。


「最後に出たのはいつですか?」


「書物には、88年前と記載されておるな」


「かなり前ですね。その時は安道家の者が、始末した訳ですよね?」


「安倍本家や安倍の分家、安道家が共同で倒したようだ」


「どうやって倒したのでしょうね? 烏や鳶の式神で倒せるとは思えませんが」


「鳥以外もおるぞ。普段は使わないようじゃがな。安倍の分家の式神で注意を逸らしつつ、本家の式神を囮りに使って妖怪の意識を固定させ、実体のある安道の使役獣で始末したと書いてあったが、詳しくは分からん。晴久殿や、安倍の本家なら分かるやもしれんがな」

 と、坂井出が説明すると、


「ふむ、父は知っているのかもしれませんが、まだ教えてもらって無いので、安倍が私に教えてくれるとは思えませんね。まあ安道の力は、これからも必要という事ですか」


「陰陽師と獣使いが、この国には必要なのじゃよ。晴輝は陰陽師じゃが、その子孫に獣使いが出るやもしれん」


「陰陽師としては、親の贔屓目抜きで見ても、かなり優秀なんですけどね」


「そうじゃろうの。安道家の血は強いからの。直系の血は特にの」


「始祖、安倍晴明様の二男、安倍晴冥あべせいめい改め安道晴冥あんどうせいめい様、初代安道しょだいやすみち家当主より続いているのに、分家が四家しかないですけどね」


「安倍は本家とは別に、安東あんどう安西あんざい阿部あべ安部あべ安辺あべと五家あり、さらに各家に分家があるからの」


「力を持った者が当主となり、血を残すには効率的ですよね。うちは分家で力を持ったとしても、せいぜい1匹しか使役できていないし、今は使役出来る者は父と晴牙だけですからね」


「この間、晴牙に嫁をと思って、安東の所の結婚相談所に入れようとしたら、凄い勢いで逃げられたからのう」


「そりゃ逃げるでしょ」


「阿部の娘が21歳での。無理矢理話をまとめてやろかと思っておったのだがの」


「ああ、その子、なかなか変わり者らしいですね」

 と、晴臣が言うのだった。




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