○○人形姫
青暗い空が紅く染まり、僕の背中を追いかけてくる。
乳母に手を引かれ息を切らしながら走り続け、心に誓った。
“必ず約束を ―――”
コツ、ゴトン、コツ、ゴトン
〈まぁ、フフ〉 〈お人形姫もいらっしゃっているのね〉
煌びやかな王宮の大広間では、王都で流行りのドレスを纏った女性たちが華やかに今夜の宴を楽しんでいる。
そんな中で、少し流行遅れのドレスを着たひとりの少女へ向けて、囁く声が聞こえる。
〈人形?〉 〈なぜ彼女を人形姫と呼ぶんだい?〉
〈たしかに愛らしいが……〉
〈ウフフ、彼女をダンスに誘えばわかるわ〉
〈片足のお人形姫をね♪〉
悪意の込められた声に向かって少女に寄り添う白髪の紳士が振り向くと、その見た目よりも筋肉質で大きな手を引いて少女は笑ってみせた。
「今日は素敵な宴の日よ! 美味しそうなお料理もたくさん。 お留守番しているみんなの分まで楽しまないと!ね、お父様。」
目を細めて顔を覗き込む娘の笑顔を見て、怒りを秘めた瞳を父は最愛の娘と同じいつもの穏やかなハシバミ色に戻した。
「リーシャ、楽しむのはいいが、料理を持ち帰ってもいいか?なんて、今夜は聞いてはいけないよ。母さんに私が怒られてしまうからね。」
少し困った様に言う父に対し、リーシャは母譲りの栗色の髪をいじりながら軽く口をとがらせ、「ちょっとだけなら、」と言いかけてやめる。母のスパイ(護衛兼お守り係)がすぐそばにいるからだ。
「旦那様。あちらの席が空いているようです、少しお休みになられては……(死角になってるから、お嬢様のお食事姿も隠せますし!)」
母のスパ……もとい、護衛騎士レヴィの心の声を察した父がリーシャの手を取りその場を後にする。
コツ、ゴトン、コツ、ゴトン
先程とは違い、悪意を発する者は誰一人いない。父であるグランバル伯爵とレヴィから殺気が溢れ出て、誰も口を開くことができないからだ。
「パパ、レヴィ、ありがとう。私は大丈夫よ。」




