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最終話:「明け方の再起動」

「カイト、やめろ……! 目を覚ませ…」


アキの叫びは、冷機を放つ鉄の壁に虚しく反響した。半分が剥き出しの機械と化したカイトは、重い金属音を響かせながら、一歩、また一歩とアキを追い詰める。


アキは震える手でスタンガンを突き出した。だが、闇に響いたのは空虚な火花散る音だけ。予備電力はとうに底を突いていた。


カイトは無機質な動作で、足元に転がっていた鋭利なレンガを拾い上げた。それを頭上高く振りかざす。その瞳には、親友を慈しむ光など微塵も残っていない。


(……終わった。全部、無駄だったんだ)


アキが絶望に目を閉じた、その瞬間だった。



「…………ッ……ガ、ギィ……ッ!!」



振り下ろされるはずの腕が、空中で激しく震え、静止した。

カイトの視線の先。そこには、アキのボロボロになったリュックで揺れる、薄汚れたクマのキーホルダーがあった。



(回想)

遠い日の記憶が、火花のようにアキの脳裏を過る。

夕暮れの公園。鬼ごっこで派手に転び、膝を擦りむいて泣きじゃくる幼い自分。

「大丈夫? 痛いの痛いの、飛んでけ!」

そう言って、ポケットから取り出した絆創膏を丁寧に貼ってくれた少年。それがカイトだった。それから二人は仲良くなっていった。

「これ、お揃いな。親友の証だぜ!」

駄菓子屋の店先で買った安物のキーホルダー。あの日々は、鉄の匂いも、死の恐怖も知らない、ただ温かな光の中にあった。



カイトの右目に、【ERROR:Critical Memory Leak】という真っ赤な警告が狂ったように点滅する。



「パリン……ッ!……………」



ガラスが粉々に砕け散るような硬質な音が響き、カイトの瞳に、あの日と同じ優しい光が灯った。


「カイト……! 良かった、戻ったんだな……!」


アキが安堵に膝をつき、歩み寄ろうとする。だが。


「……来るな!!」


カイトの機械の腕が、激しく火花を散らしながらアキを突き放した。


「……システムが……また、俺を塗りつぶそうとしてる。……もう、時間がねぇんだ。……アキ、頼む……」


カイトは、アキの手にあるイワタの銃を掴むと、自らの剥き出しのコアへと力任せに押し付けた。


「俺を、撃て。……このまま『モノ』として、お前を殺すのは……御免だ」


「できない……そんなこと、できるわけないだろ!!」


アキは首を振る。指が震えて、引き金に力が入らない。


「アキ……俺を信じろ。……一人で引くのが重いなら、俺も一緒に引いてやる」


カイトの血に汚れた指が、アキの指の上に重なった。


イワタの、あの掠れた声が蘇る。




――命を奪う時はな、指一本分じゃ足りないくらい、引き金が重くなる。もし一人で引けなくなったら……その時がお前の『仕舞いどき』だ。――



「……いくぞ、アキ。……せーの、だ」


二人の指が、ひとつの鉄に力を込める。




――ドォォン!!




静寂を、一撃の銃声が切り裂いた。

弾丸はカイトの機械の心臓コアを粉砕し、その生身の胸をも貫いた。


カイトの体が、糸の切れた人形のようにアキの胸の中へと倒れ込む。


「カイト! カイト!! 返事をしてくれ!!」


アキは血塗れの親友を抱きしめ、叫び続けた。


「……アキ……。……俺……機械化されてた時……視界が真っ暗で……ずっと、暗闇の底を彷徨ってたんだ……」


カイトの声は、今にも消えそうなほど掠れていた。


「……でもな……お前の、そのリュックについてる……あのキーホルダーだけが……ずっと、遠くで光って見えたんだ。……だから、戻ってこれた……」


カイトの脳内を、走馬灯のように幼い日の笑顔が駆け巡る。

最後に見せたのは、プログラムのバグではない。本物の、カイトの笑顔だった。


(……カイトを抱きしめるアキ)



「……モノじゃなくて……人と、友達のままで死ねてよかった。……ありがとな、アキ……」



カイトの手から力が抜け、指先が床に力なく落ちた。その瞳から、最後の光が消える。


「……ぁ……」


アキの喉が、引き攣った音を立てた。

叫ぼうとしても、声が出ない。

抱きしめたカイトの体は、まだ少しだけ温かい。けれど、その温もりは、彼を蝕んでいた冷たい機械の温度に、一瞬一秒ごとに奪われていく。


「……カイト? 冗談だろ……? おい、目を開けろよ……」


アキは震える手で、カイトの頬に触れた。返り血とオイルで汚れ、半分が金属に置き換わった、親友の顔。


「……カイト……カイトォォォ……ッ!!」


絞り出すような声が、やがて慟哭へと変わる。

幼い頃、二人で走った放課後の校庭。

お揃いで買った、あの安いキーホルダー。

「親友の証だぜ!」と言って笑った、あの屈託のない笑顔。


それらすべてが、今、アキの腕の中で「冷たい鉄の塊」へと変わってしまった。


「あああああああああああああああああッ!!!」


アキの喉の奥から、肺を突き破るような絶叫が噴き出した。

それは言葉ではなかった。


その時だった。アニマトロニクスのオイルと古びた布と接触し、自然発火が起きた。


奪われた日々への、届かない祈りのような、血の混じった咆哮だった。

燃え上がる炎が、カイトの亡骸を紅く照らし出す。

崩落する瓦礫が、二人を分かつカーテンのように降り注ぐ。


アキはサイガに無理やり引きずられながらも、最後までその手を伸ばし続けた。


「……待ってくれ……! カイトを……カイトを置いていけない……ッ!!」


脱出した工場の外。


夜明けの光が、真っ黒に燃え上がる廃墟を静かに照らしていた。

アキは膝をつき、泥に塗れた拳を地面に叩きつけた。

手の中には、あのクマのキーホルダーだけが残っている。


カイトの血で汚れ、もう二度と「お揃い」には戻れない、たった一つの絆。



「……カイト……。……ごめんな……」



アキはそれを胸に抱き、朝日の中で、子供のように声をあげて泣き続けた。



(第一期:真夜中の再起動 完)


















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【完結のご挨拶】

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

『真夜中の再起動』第一期、これにて完結です。

最初は「12話構成」として構想していましたが、アキとカイトの物語の熱量に合わせ、最も美しく絶望的な「10話」で幕を閉じることに決めました。

親友だったカイトが「モノ」として処理されていく中で、最後に見せたあの笑顔。そしてアキが引き金を引いた時の「銃の重さ」。それらが、読んでくださった皆様の心に少しでも残れば幸いです。


【もし、少しでも「面白い」「トラウマになった」と思っていただけたら】

下の「★で称える」ボタンや、ハート(応援)をいただけると、作者のモチベーションが爆発します。レビューも一通一通、大切に読ませていただきます。


【二期について】

工場にはまだ、ポーク、ウィスカー、そして「王」であるレオンが眠っています。

アキが手にしたキーホルダーが、再び光る夜が来るかもしれません。

その時まで、この作品をフォローしたままお待ちいただけると嬉しいです。

それでは、また別の「再起動」でお会いしましょう。


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クレジット:キャラ提供



光暗クラ  このキャラは@banirakokoaさんに作ってもらいました!!

猫丸    このキャラは@nekomi611さんに作ってもらいました!!

兵司サイガ このキャラは@aisu1452さんに作ってもらいました!!



三名ともありがとうございました!!


























































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市民の皆様 直ちに入口を施錠し、屋上に避難してください

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