廃屋の中で
建物の中は、長年誰も入っていない様子だった。
床には埃が積もり、窓の木枠が腐って崩れかけている。でも石の壁は丈夫で、天井は所々崩れているが、主要な部分は残っていた。
フィアが紙を見ながら、建物の中を歩いた。
「北の壁から三歩、そこから東の壁に向かって五歩」
暗号を読み解きながら、慎重に歩を進めた。
レインは少し後ろから、周囲を警戒しながらついていった。
「ここ」
フィアが止まった。
床の一点を見ている。埃の下に、石畳が見えた。他の床の石と、わずかに色が違う石が一枚。
「動かせますか」
レインが石の端に指を入れて、持ち上げた。重い。でも動いた。
その下に、木の箱があった。
小さな箱だ。両手で持てる大きさで、蓋に鍵穴がある。
フィアが箱を取り出した。鍵穴を見た。
「この錠前……父の作り方だ」
フィアが工具袋を開いた。細い金属の棒を取り出して、鍵穴に差し込んだ。指先の感覚で、内部の構造を確かめながら、慎重に動かした。
職人の手だ、と秀は思った。鍵師というのは、鍵を作るだけでなく、開ける術も知っている。
数分後、かちり、と音がした。
蓋が開いた。
中に手紙が一通と、小さな鍵が一本入っていた。
鍵は古い。でも磨かれていて、錆一つない。
フィアが手紙を取り出した。
父の筆跡だった。
読み始めたフィアの目が、少しずつ揺れ始めた。
レインは隣で黙っていた。急かさなかった。
秀はフィアの横顔を見ていた。
「もう一つの目」の気配が、この場所にずっと近くにあった。
手紙の内容は読めなかった。でもフィアの顔が語っていた。
父がここに残した言葉が、五年越しにフィアに届いていた。




