もう一つの目が見ている人物
「もう一つの目」が追っている人物が誰なのか、秀はしばらくかけて探った。
気配の向く方向を辿り、視線の先を追い、やがてその人物に辿り着いた。
ラメールの外れ、川沿いの小さな工房に、その人間はいた。
二十代半ばの女性だった。
赤みがかったブロンドの髪を無造作に束ね、革のエプロンをつけて、金属の加工をしていた。金槌で叩く動作が、無駄なく正確だ。作っているのは小さな鍵だった。
鍵師、というのが職業らしかった。
名前はフィア・ランデルという。
工房は彼女一人で切り盛りしていた。客の依頼品を丁寧に仕上げ、納期を守り、値段の交渉は苦手だが品質については一切妥協しない。そういう職人気質の女性だと、数日見ていてわかった。
しかし秀には、「もう一つの目」がなぜフィアを追っているのかが、最初はわからなかった。
レインのような劇的な境遇でもなく、サラのような夢への渇望でもなく、ガルドのような傷を抱えた過去でもない。フィアは毎日丁寧に仕事をして、猫を一匹飼っていて、週に一度市場で買い物をして、夜は本を読んで眠る。静かで、穏やかで、どこにでもいる生活だった。
でも「もう一つの目」は、フィアから離れなかった。
秀はその気配に問いかけた。なぜこの人なのか、と。
返ってくるものは言葉ではない。でも気配の質が、少しだけ教えてくれた。
静けさの中に、何かが眠っていること。
その眠っているものが、やがて動くのを待っていること。
秀は改めてフィアを観察した。
金槌を振る手。鍵の歯を一つひとつ削る指先。完成品を光に当てて確認する目。
その目が、時々遠くなることがあった。
鍵を見ながら、別の何かを見ている目。
(そういうことか)
まだ何もわからない。でも確かに、フィアの中に物語がある。
秀は「もう一つの目」の隣で、フィアを見始めた。




