異境
筆が乗ってしまって、つい長くなってしまいました。それでも読んでくれたら嬉しいです。
警察署を出た私たちは、地下鉄に乗っていた。話を聞いていた感じ贖罪の街「アトネリア」は、この地下鉄しか繋がっていないらしい。そして、この地下鉄も減速したり、曲がり道が多く速度などの計算で探すことをほぼ不可能にしている。社会から完全に遮断されていて政府の人間すら中の様子を知るものはいない。そのせいなのか、アトネリアは地下帝国だの、雲の上にあるだのあり得ないような説が溢れている。そんな、未知の街に向かっているというのに...視線をゆっくり横に向ける。視界に入ってきたのは、横になって声をかけても起きなさそうなくらい熟睡している御影と、エンジンのかかったチェーンソーのごとく振動している神代の姿があった。風邪を引きそうな温度の差を見て、心の底からのため息が出る。そして、
「これが警察って信じられないんだけど...」
と、心の声をボソッと呟いた。地下鉄はまだ止まる気配はない。
数時間が経過した。御影が目を覚まし眠そうに目を擦っている。神代はいまだに振動している。それを見た御影が、顔をそらし声にならない笑いをしている。そんな様子を見ていると、電車が止まった。そして、電車の扉が開く。そこには、普通の駅の光景が広がっていて上に続く階段がある。その先を見ることはできないが、この先に街があると予想できる。その光景を見て神代と私が足を止めたことに目もくれず、御影が、階段を上がっていく。その様子を見て神代が、
「なんで、そんなスタスタと...」
と、呟きながらあとを追う。その様子を見て、私も歩き出す。登りきると、そこには錆びた扉だけがあった。最後の一段を踏み越えた。待っていたのは拍子抜けするほど簡素な扉一枚だった。御影が扉の前に立ち、ゆっくりと手を伸ばす。ギィィィィ……。
錆びついた蝶番が、長い間動かされていなかったことを主張するように音を立てる。
扉が開く。
その隙間から、風が流れ込んできた。地下鉄の中では感じなかった、外の風。少し湿った空気が頬を撫でる。そして、扉の向こう側が見えた。
「…………」
思わず、言葉を失った。そこには空があった。雲が浮かび、太陽が輝いている。その下には、街が広がっていた。建物が並び、道路には車が走っている。
店の前には看板が立ち、人々が歩いている。遠くには高層建築まで見える。あまりにも普通だった。これまで聞いていたアトネリアの話から、もっと異様な場所を想像していた。
贖罪の街。
社会から切り離された街。
政府ですら中の様子を把握していない場所。そんな情報から勝手に想像していた光景とは、あまりにもかけ離れていた。
「……普通の街じゃん」
神代の呟きが聞こえる。私も同じことを思っていた。むしろ、普通すぎる。御影は何も言わず、扉の向こうへ歩き出した。私と神代も続く。一歩、外へ出る。太陽の光が目に入る。思わず目を細めた。地下鉄に乗っていた時間が長かったせいか、それだけのことが妙に新鮮に感じられた。後ろを振り返る。そこには、私たちが出てきた古びた建物がある。周囲を見ても、駅らしいものはない。地下鉄がどこに繋がっていたのかすら分からない。まるで、最初からここに存在していなかったかのようだった。前を見る。人が歩いている。誰も私たちを気にしていない。こちらを見る者もほとんどいない。それが逆に不気味だった。少なくとも、普通なら多少なりとも騒ぎになるはずだ。なのに――誰も気にしていない。
「……」
歩きながら、周囲を観察する。建物は古いものと新しいものが混在している。道路は整備されている。電気も通っているらしく、街灯や大型の看板も見える。店も多い。飲食店らしきもの。衣服を売っている店。見たことのない道具を並べている店。生活に必要なものは、ほとんど揃っているように見える。
ここが社会から隔絶された街だなんて、とても思えない。むしろ、一つの国がそのまま閉じ込められているようだった。しばらく歩く。その間にも、何度か人とすれ違った。そのたびに、私は相手の顔を見る。普通の人間だ。笑っている人もいる。急いでいる人もいる。子供と歩いている人もいる。誰もが普通の日常を過ごしている。だからこそ、疑問が増えていく。なぜ、この街は存在しているのか。なぜ外と繋がっていないのか。
そして――
なぜ、政府ですらこの街のことを知らないのか。考えながら歩いていると、ふと御影が足を止めた。
私も足を止める。御影が見ている方向へ視線を向ける。街の奥。建物の隙間から、巨大な塔が見えていた。周囲の建物よりも遥かに高い。頂上は雲に届きそうなほどだった。その塔だけが、この街のどこか異質な存在であるように見える。神代も気づいたらしく、しばらく塔を見上げていた。風が吹く。遠くで何かの音が鳴った。鐘のような音だった。
一度
二度
三度
その音が街全体へ広がっていく。すると、さっきまで普通に歩いていた人々が、ほんの一瞬だけ足を止めた。誰も空を見上げない。誰も音の正体を確認しようとしない。ただ、何事もなかったかのように再び歩き始める。その光景を見て、背中に妙な寒気が走った。この街の人間にとっては、当たり前のことなのだ。私たちだけが、その意味を知らない。御影が再び歩き始める。私もその後を追った。未知の街、アトネリア。そこは、想像していたような恐ろしい場所ではなかった。少なくとも、今のところは。
ただ――
普通すぎる。
それだけが、どうしても気になっていた。
戦闘シーン?次にお預けですよー




