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ガウル  作者: キヌミタロ
第15章 剣のガルガ
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第91話 夜明けの森

 ここはどこだ? 真っ暗で何も見えない。なんか体が痛い。思った時には全身が強烈に痛くなる。

「いた……いててててて!」

 まともに動けず、地面に倒れ横たわってしまう。そもそもここは地面なのか。

「ガウル」

「うわあ! 痛い痛い!」

 暗闇から急に声がして、全身を震わすそれすら痛みが走る。

「誰!」

「僕だよ、カーリーだよ」

「驚かすな!」

「ごめん」

「ところでここは、いてて」

「ガウルはその……えっと……」

 カーリーは何も答えない。俺は立つどころか、少し体に力が入るだけでも激痛に襲われる。

「ここどこ!」

「山下の街から、ちょっと離れた森の中だよ。ガウルはその……うーんと」

 カーリーは何を悩んでいるんだ? さっきから暗闇のどこかからともなく声がする。

「なんかこう……良からぬ影響を受けて。大人になったんだよ」

「……馬鹿にしてるのか?」

「ほ、本当の話だもん! 大人になったガウルが暴れたから、皆で一生懸命止めたんだ! よし! これで大丈夫だ!」

 暗闇で何も見えず、カーリーが嘘をついているかも分からない。分かっていることは、強烈な全身の痛みと、暗すぎて怖い! 眼の前すら見えない!

「なんで俺はこんな暗い場所に、それとこの痛みはなに!」

「それは心配ないよ、筋肉痛だよ」

「筋肉痛?」

「うん。急に体を動かすと怒っちゃうんだ。ガウル結構暴れていたから」

「そうなのか」

「うん……ところでさ」

「なに?」

「鳥使いって……何か分かる?」

 急に訳の分からないことを聞いて来る。鳥使い……鳥を使う?

「鳥を使うの?」

「ごめんね、変なこと聞いて」

 本当に変なことを聞かれた。暗闇の先から、草木の揺れる音が迫って来る。

「幽霊だ! いてててて」

 真っ暗で誰が来たかも分からない!

「ここにいたか! 戻ったのか?」

 声からしてハチだろう。

「戻ったってなに?」

「お前それは……覚えてないのか?」

「ガウルは何も覚えてないよ」

「そうか……それならそれで」

「助けてハチ……全身筋肉痛になった。動けない」

「そりゃあ……大木一本ぶん投げてりゃ」

「大木を投げた?」

 本当に何が起こったんだろう? 大木って……木のことだと思うけど……投げた?

 誰かが急に、俺の体に触って驚く。

「誰! いてててて!」

「俺だハチだ! 見えてないのか?」

「だって真っ暗じゃないか!」

「あたり前だろ、森の奥深くすぎる。ほらとっとと……こいつ動かして大丈夫だよな?」

「問題ないよ」

「カーリー、ちょっと手を貸せ」

 ふたりして、俺の体に触るからあちこち痛い。

「痛い! 痛いよ!」

「ちなみに……怪我はないか?」

「筋肉痛が痛い!」

「ガウルに怪我はないよ」

「ならいい」

 ハチの背にのり、ハチが一歩一歩歩き出す、それすら痛い!

「もうちょっとゆっくり歩いて」

「そんなに痛いのか?」

「痛いよ! いてててて」

 ハチが暗闇の森を歩いて行く。

「どうして見んな怖くないの?」

「何が?」

「真っ暗なの」

「ああ、俺はこの森で育ったようなもんだからな。夜は大抵こんなもんだ」

「こんな真っ暗なところで育ったの!」

「流石に夜は寝るぞ、真っ暗だから」

「真っ暗だか幽霊が出ちゃうじゃないか!」

「出ねえよ! あーでも……そうだな。真っ暗だから幽霊が出たな」

「早くこの森から出なくちゃ! いてててて」

 話すだけでも、全身に筋肉痛が駆け巡る。

「安心しろ。幽霊は……皆で倒した!」

「そうなの!」

「たぶん!」

「じゃあ大丈夫だ!」

 真っ暗で怖いけど。

「なあガウル、本当にさっきのこと」

「ハチ」

 ハチが何か言おうとして、カーリーが止めに入る。

 真っ暗の中誰も話さなくなったので、僕は両眼を必死に瞑りハチに抱き着くように運ばれていく。




「ほらついたぞ。あ!」

 ハチが急に駆け出すから、全身が痛みに教わる。

「痛い痛い! 走らないでよ!」

 ハチを睨むと明るかった。奥に焚火の明かりが見え、ダンネも、ドロップも、必死に焼き魚を食べているニャーがもいる。

「それ俺の魚だぞ!」

「焦げてたニャ! 頂きニャ!」

 ハチがゆっくりと俺を降ろし、ニャーに向かって駆けて行く。ニャーは焼き魚を食べたまま、焚火の周りを駆け始め、ふたりして追いかけっこを始める。

「返せ!」

「返さないニャ!」

 一歩踏み出した俺は、やはり筋肉痛が酷すぎるので地面にゆっくりと、もはや体が勝手に折れて行く。

「いてててててて」

 座ることも辛いので、体は自然と横たわる。

「ガウル!」

 ドロップが杖をもち、横たわる俺に杖を向けて来る。癒しの力が灯り始め、痛みが徐々に和らいでいく。ダンネが焚火の近くで、何か言いたげに体を左右に振っている。

「どうしたのダンネ?」

「その……どうなのかなって」

 カーリーが焚火に使づき、傍に腰降ろす。

「もう大丈夫だよ」

「平気?」

「うん」

 ダンネも俺に近づき、しゃがみ込んで俺を覗く。

「ガウルは?」

「酷い筋肉痛なんだよ。そっとして置いてあげて」

「わかった」

 ダンネが人差し指を、俺の体に押し付けて来る。もちろん、痛みが走りダンネを睨む。

「痛い! なにして、いてててて」

 全身の筋肉痛に耐えながら、ダンネを睨みつける。ダンネは逆に笑顔だ。

「お返し。それに……」

「それに?」

「手掛かりと言えば……手掛かりかなと思って……」

 表情を硬くしたダンネが、焚火に近づき腰降ろす。変わりに、目隠しをしたオオカミが俺を見下ろしていることに気づく。

「うわあ幽霊だ! いててててて」

 何をしても全身の筋肉痛に襲われる。

「この子は誰だ?」

 ドロップが目隠し男を見上げる。

「その……ガウルだよ」

ハチがどこかで「あ!」と言い、急いでこちらに戻って来る。

「この目隠しをしてるのが、俺の育ての親で。こっちがガウル」

「森の奥にいたのか?」

「違う……さっきまで……ほら、大木とかさ……」

「そんな馬鹿な」

 目隠しの男が、しゃがみこんで俺を観察し始める。

「こうなる前に、俺が馬鹿話みたいに説明してたろ……本当なんだよ。もう説明はいらないと思う

「子供じゃないか。先ほどの存在はどこへ消えた?」

 全身の痛みが和らぎつつ、目隠し男……の雰囲気に覚えがある。ゆっくりと起き上がり、ドロップの杖をそっと、目隠し男に向けて行く。

「どこかで……」

「いや、君と会うのは初めてだ」

 情報の点と点が、瞬時に線となり繋がる。

「そうだ! 山下のお屋敷で俺たちを見ていた人だ! どうして、お屋敷で」

「黙れ」

 ハチが目隠し男を眺めている。

「山下のお屋敷で……なんだ?」

 目隠し男は逃げるように、暗闇へと消えて行く。実際、逃げているのだろう。

「おい! ちょっと待てよ!」

「追うな。少し整理をしてくる」

 ダンネが俺の隣にやってくる。

「あの人がどうしたの?」

「山下のお屋敷で、死んだふたりのうちのひとりだよ」

 どうしてそんなことが分かるのか、とても変な感じだ。不気味な現象を理解できるのに、そこに対する恐怖は無い。頭が非常に冴えている、色々と物事が理解できそうなほど、今なら難しい話も理解できるかも。ここから逃げて行った目隠しの男、目隠し越しに見える気配は、山下屋敷の視線となる。強烈でいて、どこか優しさを感じさせる視線。視線と気配が同じなれば、点と点が線となる。と言う訳なんだけど……やっぱり難しい話は好きじゃない。覚えられない。

「んー……」

 声を漏らし、ドロップが俺に顔を向ける。

「どうしたの?」

「思い出せなくて」

 山下屋敷へ向かい、話を聞き、視線に気づき、部屋に残る死に感づいた……そこから先を覚えていない。

「ねえ、山下のお屋敷に行ってから……」

「から?」

 ダンネが俺の袖を引っ張る。

「山下の屋敷を出てから、カーリーの助言でほとりまで行って、ガウルが疲れたから、ガルデさんにおんぶしてもらって、宿をとって寝た。そしたら、ガウルがフラフラ歩いて森に入るのを、カーリーが目撃したから。皆で助けに来た。という流れよ」

「へえ、そうなんだ」

「覚えてないの?」

「うん。気づいたら真っ暗な森の中にいた」

 思えば、カーリーがすぐ傍にいたな。

「ねえカーリー」

「なに?」

「俺どうしたの?」

 カーリーが、あのカーリーが。ゆっくりと体を動かし、俺へ振り返る。いつもは両眼を必死に瞑り、震えているカーリーの眼は……異常なほどに澄んでいる。とても綺麗な眼をしている茶色の眼。暗がりにあってなお、しっかりとその眼が印象深い。

「ガウルは帝国に来てから、感覚が冴えすぎていた。きっと、過去のガウルが暮らした土地なのだろう。分かりやすく言えば、昔を懐かしみ喜んだ記憶が爆発しちゃったんだよ。ガウルの記憶が、過去の記憶に押し負けた。みたいな話かな」

 カーリーが何か話してるけど、まったく耳に入らない。それどころじゃない、カーリーが俺を真っすぐに見て、話をしている。これは一大事だ。

「カーリー、普通に話せるようになったの」

「……うん」

 ダンネとドロップが、カーリーに近づいて行く。俺はゆっくりと立ちあがり、服についた土を軽くはらう。

「すごいじゃない! これから普通に会話できるの?」

「僕も話したい!」

 ふたりに見られ、カーリーが取った行動が、両目を必死に瞑ることだった。

「ごめん……ま、まだ無理かも……」

 駄目なのか。俺が近づいたときには、いつものカーリーに戻っていた。

 残念、俺ももうちょっと話たかった。

「美味しかったニャ」

 ハチの魚を食いつくしたニャーが、手に持つ木の棒で、葉を擦っている。ハチはそれを気にせず、俺に近づいて来た。

「さっきの話。山下の屋敷で何があった?」

「それは……」

 伝えようとして口を閉ざす。

「ねえハチ」

「あの人のこと困らせたい?」

「は?」

「答えてよ」

「困らせたくはないな」

「じゃあ、言わない。あの人のためだよ」

「なんだよそれ……」

 悪態をつきながらも、ハチも理解しているだろう。人には知られたくない事実と言うものを、大なり小なり抱えている。何も言わず、無言でハチは闇を見る。闇が薄まり、森の輪郭が浮かび上がってくる。目隠しの男について、知っていることをハチに伝える必要はない。ただし、ハチに伝えるべき、ひとつのことは確かにある。

「ハチ」

 ハチが素早く振り返る。

「なんだよ?」

「いま、この世の死者が蘇り、普通に生活をしている」

 ハチは「は?」と声を漏らす。

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