第8話 ポチとハチ
大きな欠伸をして起きるとベッドの上で起き上がる。臭い。
「あ、起きた?」
ドロップがベッドに腰かけ杖を手にしている。
「ここどこ?」
「宿屋。ガウルが外で寝てダンネが怒って港に船を見に行ったんだ。僕たちはダンネが帰ってくるまでここで待っててって」
「そう」
僕は臭いけどベッドに横になる。とりあえず自分の臭いをつけよう。ベッドの上でゴロゴロしていればここは僕のベッドになる。
「ねえ聞いてもいい?」
「なに?」
「僕が前に記憶喪失じゃないって嘘ついたら、それが嘘じゃないんでしょ? それにバカラスさんが僕の記憶が封じられているかもしれないって。僕の記憶ってなんなんだろう?」
「知らない」
僕はベッドでゴロゴロしている。
「ねえ、僕が嘘じゃないことを偶然言えれば逆に分かるのかな? 例えば、僕が知らないことでもそれが嘘ならガウルは分かる? もしかしていま忙しい?」
僕はベッドでゴロゴロしている。やめて起き上がってドロップを見る。ドロップは何も言わない。
「何か言って」
「あ、ごめん。じゃあ……僕が女の子です。なんて嘘なのはすぐ分かるか」
ドロップは何も言わずに考え始めた。僕はじっと待つ。
「じゃあ、僕の記憶は誰かに封じられている。とか」
僕は首を横に振る。
「そうなるとバカラスさんの言っていたことが違うのか。こういうときダンネがいれば助かるんだけど」
「あいつ嫌いだ」
「え? そうなの?」
「一回も勝てなかった」
次は勝ってやる。
「嘘をつくって難しいね。ちっとも思い浮かばない」
ドロップはまた考え始めた。僕はベッドでゴロゴロする。
「僕って結局どこの誰なんだろう?」
僕はベッドでゴロゴロするのをやめる。ドロップがちょっと落ち込んでいるように見える。僕はただじっとドロップを見る。
「落ち込んでる?」
「え? ううん」
ドロップが首を横に振る。
「嘘だ」
「え?」
「いま嘘ついた」
ドロップが大きため息を吐く。そのままベッドに倒れこむ。
「僕は本当にどこの誰なんだろう? 何ひとつ思い出せない。この杖も服も知らないんだ。僕は何も知らないんだ」
「イヌ」
「え?」
「イヌ」
「うん。そうだね僕はイヌだね。耳は垂れてる尻尾は短いし」
「オオカミでもキツネでもない」
「あ」
ドロップは起き上がる。そして自分の頭の上にある耳を触る。
「確かにそうだ。僕はイヌの子供だ……狼でも狐でもない」
「バカラスがふたりのこともあるし北へ行けって」
「北へ行けば何か分かるのかな?」
「わからない」
「そうだね。ここで考えても何も分からない」
僕はまたベッドでゴロゴロする。
「それ何してるの?」
「このベッドは僕のベッドじゃない。だからゴロゴロしているんだ」
「縄張りだっけ? なんか大変だね」
僕は気にせずベッドでゴロゴロしている。ドロップも同じようにベッドでゴロゴロし始める。つまりあっちはドロップのベッドになる。
ふたりでずっとダンネの帰りを待った。帰って来ない。
ドロップが杖を持って部屋の周りを歩いている。
「ここで待っててと言われたけど。探しに行ったほうがいいよね?」
「でもダンネに待っててと言われた」
「そうなんだよねえ」
ドロップはまた部屋を歩きはじめる。立ち止まって僕を見る。
「やっぱり探しに行こうよ。ダンネ女の子だし、ひとりしちゃいけないよ」
「分かった」
僕たちは部屋を出てカウンターいた店主の人と顔を合わせる。
「おや、出るのかい?」
ドロップが頷く。
「ダンネが帰って来ないから見に行こうと思って」
「そうか。まあ道なりに進めばつくよ。何かあればいつでも戻って来てくれ」
「ありがとう」
ドロップが頭を下げ宿屋の外へ向かう。僕はドロップの後に続く。道なりにダンネが向かった港町へ向かい歩いていく。そして夜になってしまった。僕は幽霊が怖いのでドロップにしっかり抱き着く。
「放してよガウル! 歩きにくいよ!」
もう辺りは真っ暗だ。僕たちは火の付け方を知らない。知っているのはダンネだけだ。そしてダンネはいないんだ。このままじゃ幽霊が出てくる。だから僕は精一杯ドロップに抱き着いている。
「放してよ!」
「嫌だ」
こうすれば幽霊が出てきても怖くない。
「僕だって怖いの我慢してるんだ! お願いだから自分の足で歩いてよ!」
「嫌だ」
ドロップはずっと僕を引きずって行った。
ドロップは杖を突きながら僕を引きずり。ついに明かり灯る港町でたどり着いた!
「街についた」
それを僕が言った瞬間にドロップがすごい睨んでくる。すごい息を切らしている。
「ガウル……本当に……怒るよ」
ドロップに怒られそうになったので僕は離れる。ドロップが地面に力なく座り込む。
「大丈夫?」
声をかけるとドロップが泣きそうな顔で僕を睨む。ドロップは杖を立てて寄り掛かりながら立ちあがる。
「とにかく……ダンネを……探そう」
「うん分かった」
僕は街へ進もうとするとドロップが僕を掴む。
「さ、流石におんぶして」
ドロップがそういうので僕はしっかり背負う。やっぱりドロップは暖かい。歩いたからかな?
街の中へ入るとすごい大きい船が浮かんでいるんだ。でも大きな布は畳まれているし暗いから見ててもつまらない。水の音を聞きながら歩いていると笑い声が聞こえてくる。あそこにダンネがいるかもしれない。僕はとある建物に駆けていく。扉に近づくと笑い声がいっぱい聞こえてくる。扉を開けると、なんかすごい臭い。なんの臭いだろう。皆机で椅子に座って何か飲んでる。あと声がすごいうるさい。
「あーよく出たよく出た」
外から入って来た大人に僕は脚でどかされる。背の高いオオカミの人が僕を見下ろす。その人はズボンのベルトを締めようとして手を動かけど上手く閉まらない。
「わりい! 気づかなかったよ!」
フラフラしながら男の人が僕を見下ろし僕と目を合わせる。なんか変な感じがする。見透かされてるみたいな。
「そうだ子供たち。キツネの女の子見なかったか? ダンネとかいうキツネらしいんだけど」
「知ってる」
僕は答えた。
「へえ! 知ってるのか! ちょっと待ってろ。ポオチい! ポオオオチい!」
フラフラと周りの机や人に当たりながら男の人が奥へ行く。待ってろと言われたので僕は待つ。けれどすごい臭いんア。だから早く外に行きたかった。
「おーい子供たちい! こっち来ーい!」
男の人が手を振って呼んでいる。だから僕は嫌だけど奥に行った。
「ポチい。これがいま言った子供」
男は笑いながら僕たちを指さす。カウンターに座っているオオカミの人がとても大きく見える。すごい大きい。その人がゆっくり振り返ると顔がうっとりしている。
「ダンネを見たって? 念のため聞いておくぞ。どんな狐だった?」
僕はダンネを思い出す。一度も勝てなかった。
「僕あいつ嫌いだ。一度も勝てなかった」
男の人は何か飲んでいる。ドロップがちょっと前に乗り上げる。
「どっかの国のお嬢様とか文武両道とか言ってた」
それを聞いた男の人が何故か僕を真っすぐに見つめる。すごい真っすぐな蒼い眼だ。
「ところで、イヌ背負っているお前は誰だ?」
「ガウル」
聞かれたので答えた。それと。
「ドロップ。この人きっと強いよ」
「え?」
よく分からないけどたぶんそうだ。それを聞いたフラフラしていた人の気配も何故か変わる「へえ」とフラフラしながら真っすぐな蒼い眼で僕を見るんだ。この人もきっと強い。よく分からないけどそんな感じがする。
「まあ子供相手に酒場で長話もあれだ。部屋行くぞ」
「ええ! 俺まだ飲みたいよお!」
「散々飲んだろうが!」
座っていた男の人が立ちあがると。本当に大きい。僕とドロップが見上げるぐらい大きい。周りの大人たちよりも背が高いんだ。
「ほらこっちこい。部屋はこの上にとってある」
僕は大きい人について行く。
部屋はベッドがふたつに窓ひとつだ。そこに何か棒? がふたつ置いてある。なんだろう? 気になって僕は棒に近づくとフラフラしてた人が僕の前に立つ。まだフラフラしてる。それで僕の後ろを指さす。
「なんで背負われてるんだ?」
「ドロップが背負ってって」
「もう大丈夫だよ」
そう言ってドロップが降りる。
フラフラしてる人がベッドに倒れ込み、大きな人が僕たちを見下ろす。
「それでダンネをどこで見た?」
「ずっと一緒にいたけど、いなくなったから探しに来た」
大きな人が自分の顔を撫でながらため息を吐く。
「探せば探すほどに姿を消すな」
「おじさん誰?」
僕は大きな人と目を合わせる。大きな人が自分に指をさす。
「俺がポチ、あっちがハチ」
大きな人がポチで、ベッドに倒れている人がハチと言うのか。ふたりとも嘘ついてる。
「あっちの飲んだくれのハチは気にしなくていい。それでそっちのイヌが」
「僕、ドロップです」
「そうか。しかし船乗ってまで逃げるかね家出お嬢様が」
僕はドロップの顔を見る。
「家出ってなに?」
「なんだろう」
ポチが手をひらひらさせてる。
「まあなんだ。家を飛び出したってこと。親に怒られて拗ねて家を飛び出したチビッ子キツネを探しに来たら。まさか船乗ってまで家出するとわね。元々あいつは何かと頭の良いキツネだから。帰って来ないのを見かけて俺が途中から探しに来たって訳」
ポチは嘘をついてない。ついてないけど、やっぱりこの人は強いと思う。なんでそんなこと思うんだろう。
「ちなみに最後はどこで見た?」
「僕たちダンネを探しに来たんです。港街の様子を見に行くからって」
ポチは顎をさする。
「ほーう。あいつは馬鹿じゃないのが厄介だ。子供の癖に大人みたいな動きをしやがる。さては俺たちの気配を気づいて隠れたな。面白いじゃんか」
ポチは嬉しそうな顔を見せて人差し指を立てる。
「よしお前たち! 俺たちと一緒にダンネを探そう!」
「わかった」
僕は返事をする。ポチはドロップに顔を向ける。ドロップが怯えて僕の背後に隠れる。
「しかしまあ白薔薇協会様はここにまでいらっしゃるとわ」
ドロップが顔を出す。
「知ってるの?」
「まあ知らない奴はいないだろう。ドギルス王国を通って来たけど協会はデカかったし。見たことなくても知らない奴はいないだろう」
「白薔薇協会は優しいんだぞ! 俺にご飯をくれた!」
ベッドで横になっているハチが急に大声を出すから驚いた。そのポチが両でを大きく上げ大きな拍手を二回する。呼ばれたと思った僕はハチのベッドの隣へ移動する。ハチが僕へ笑顔を見せている。急に起き上がって肩肘ついて僕の顔を見続けている。
「ポチさんやポチさんや。この子きっとあれですぜ」
「まあそうだろうな。とは言えまだ幼いしな」
僕はポチとハチを交互に見る。なんの話をしているんだろう?
「お前たち今日はここで寝ろ。ハチのイビキはうるせえけどな」
僕たちは頷く。




