第12話 巨大なカラス
カラスは光っている白い花に近づく。
「おー! これこそが探していた原初の花!」
カラスは両手でそっと触ろうとする。いつの間にカラスは僕たちについて来たのだろう? 反対方向へ行ったはずなのに。
「どうして」
「どうして僕が今ここにいるかって? どうやら僕はここでは部外者のようだ。同じところをグルグル歩いていて気づいた。通常ではありえない状況、それに巻きこまれていない四人。そして僕だ。僕はどうやら歓迎されていないようだ。だから反対側の暗闇へ歩いた。すると入口、最初の木の根の部屋に戻された。君たち三人だけでようやく正しい場所へと導かれた、場所が分かれば僕は君たちのもとへ来るだけでいい」
カラスは両手でそっと白い花を掴もうとする。しかし、カラスの両手は白い花を掴むことが出来ない。両手が花をすり抜ける。
「やっぱり僕じゃ原初の花を掴むことができないか。よし君、この花を取ってごらん」
カラスはドロップを指さす。ドロップは僕の背に乗っているから、僕が白い花に近づいていく。
「わわ、杖が」
ドロップが声をあげる。僕は首を動かすが見えない。
「どうしたの?」
ダンネが僕の上を指さす。
「杖が震えてる!」
急に眩しい光が辺りを照らす。光がすぐに小さくなると白い花から僕の上へ一直線に光る線を伸ばす。僕は光の先を追ってくるくる回り始める。
「動かないでガウル!」
ダンネに大声を出されて驚いたけど、その場でじっと我慢する。僕はいま怒られたのだろうか? ダンネにそっと目を向ける、また僕の上を指さしている。
「ドロップの持っている杖に白い花の光が伸びてるの。だからガウルは動かないで」
僕はダンネの言う通りその場で待つことにした。白い花から伸びていた光が消え始め、白い花も光を失い始める。カラスが白い花にそっと触る。
「ふむ。こうなるとただの白い花だな」
ダンネが白い花に近づく。
「これって薔薇じゃない?」
「バラ?」
「薔薇と言う花なんだけど。白い薔薇は図鑑でしか見たことない」
僕は光を失った白い花……薔薇を見る。
「僕は見たことある」
ダンネとカラスが僕に顔を向ける。
「どこで見たの?」
僕は急に気持ちが悪くなってきた。白い薔薇を見たことがある。それを何故か思い出せない。白い服を着て……髪に白い薔薇をつけて。誰かが振り返って笑顔を見せているんだ。見せているはずなのに顔が思い出せない。母さん? 違う、違う誰かだ。
「ガウル?」
ダンネの声が聞こえる。けれど返事する余裕はない。顔が浮かばない。思い出そうとする度に体が拒絶するのを感じる。
とてもじゃないが立っていられない。俺はゆっくりとドロップを降ろしてしゃがみ込む。そのまま頭を地面に置く。
「ちょっと大丈夫?」
ダンネが俺の顔を覗き込む。
「すごい気持ち悪い」
吐きそうな気分なのに吐く物がない。体の奥底から何かが出ようとしているが出ない。それが気持ち悪さに拍車をかけている。
「ふむ、取り込み中のところ悪いけど、君。その杖を僕にちょうだい」
カラスはドロップの杖を握る。
「だ、駄目だよ」
「原初の花を吸ったのはその杖だ。つまり僕が探している力の源はこの杖に隠されているに違いない」
俺は顔を上げてカラスを見上げる。
「本当にその杖が必要なのか?」
「あー必要だとも。この杖で村人たちを皆目覚めさせ」
「そいつに杖を渡すな、嘘をついている」
カラスが俺に顔を向ける。仮面ごしでもしっかりと俺を見ていることが分かる。
「そうだね僕は嘘をついている。世界の傾きがどうなろうと知ったこっちゃない、僕は僕のためにこの力が必要なのさ。さあ杖を僕に渡すんだ」
ドロップは必死に杖を渡さないようにしていたが、カラスの力に負けて杖を取られてしまう。カラスは杖をじっくり眺めている。
「心配しないでくれ。ここまで案内してくれたお礼はそれなりにするさ」
ダンネがカラスを指さす。
「ドロップの杖を返せ! 子供を利用する卑怯者め!」
カラスの動きが止まった。
「卑怯者?」
「そうよ! 子供から杖を取り上げる身勝手な大人よ!」
「いま大人と言ったか?」
「言ったわよ! だってどう見たって大人の背丈じゃない!」
「僕をいま大人と言ったか?」
「言ったわよ! 何回も同じこと聞かないでこの馬鹿!」
一瞬、カラスの姿が波打つように見えた。
「この僕をあの俗共と一緒にするなど許さん! この場で根絶やしにしてくれる!」
カラスから異様な、無数の骨が折れるような音が聞こえ始める。両腕が黒い大きな翼となり大きく広がる。体が徐々に変化していき服が破れ帽子が落ちる。巨大な黒い鳥が姿を見せ始め、足が鳥の足になっていく。そして胴体からもう一本の鳥の足。足が三本の黒い巨大な鳥が毛を逆立たせ大きな嘴から辺りを震わすほどの鳴き声が放たれる。




