第10話 原初の洞窟
僕たちは白い花を見ていた。足元が動いた気がして咄嗟にダンネとドロップの服を掴む。地面が崩れて僕たちは落ち始める。何が起こったかも分からないまま、僕は必死にダンネとドロップの服を掴み続ける。
「よっと」
急に落ちる速度が遅くなって崩れた地面だけが先に落ちていく。自分がいる高さに驚きながら上を見る。カラスが僕の服を引っ張っている。そして背中にトンボの羽根が見える。急にダンネが暴れ始める。
「降ろして! 早く降ろして!」
ダンネが暴れるせいで手が滑りそうになる。
「いま降ろすからちょっと待っててね。スイー」
カラスはトンボのように飛び僕たちを下に降ろしてくれた。僕がダンネとドロップから手を離すと、ふたりとも地面に倒れて震えている。
「いやあ流石に焦ったよ。ところで上を見てごらん」
カラスが上を指さす。僕たちが立っていた場所に穴が空いている。灰色の雲が見える、かなり上の高さだ。高さもすごいけど木の根の大きさもすごい。上から今僕たちが立っている場所まで垂れさがったり壁を伝ったり。地面の下にこんな場所があるなんて知らなかった。
「あそこから落ちて助かったのは奇跡だね。僕がいなかったら死んでたよ」
カラスがいなかったら僕たちは死んでいた。危なかった。カラスは壁に近づき両手で触りながら移動する。
「いいねえ、誰からも知られずに隠された場所。隠されているからにはお宝が、もしかして原初の花があるかもしれない!」
地面に震えながら倒れていたダンネがゆっくりと起き上がる。ダンネを上を見上げて何も言わない。僕も見上げる。ドロップは倒れたまま泣き始めていた。
「ドロップが泣いてる」
「そりゃあ泣きたくもなるわよ」
ダンネがすごいため息を吐く。
「死ぬかと思った」
よく見るとダンネの足はまだ震えていた。
「足が震えてる」
「震えるわよ! あそこから落ちたのよ!」
僕は見上げる。確かに高い。
「ほらドロップ。いい加減立って」
ダンネがドロップに手を貸す。杖はしっかり握っているけど泣き続けている。
「まだ泣いてる」
僕がそう言うとドロップを涙を流しながら上を指さす。
「あんな高い所から落ちて平気なガウルがおかしいんだ!」
「そーだそーだ!」
僕は何故かダンネとドロップのふたりに睨まれる。僕が悪いのか?
「ところで君たち、ちょっと手伝ってくれないか?」
カラスが両手で壁を触りながらちょっと離れたところを進んでいる。
「この空間には道が無いんだ。もしかしてここで終わりかもしれない」
僕たちは周囲を見渡す。広い場所だけ奥へ続く道なんてない。カラスの言う通り行き止まりかもしれない。ダンネが上を指さす。
「じゃあ私たちを上に運んでよ!」
「それは辞めたほうがいいね。矛盾を解く鍵はここで間違いないんだ。問題はこの空間しかないということだ。君たちも頑張って探してくれ」
僕はとりあえず壁に近づく。壁に触ると石の壁だと分かる手触り。スベスベしているようでザラザラしている。何故か僕の後ろをダンネとドロップがついてくる。ついふたりと目が合う。
「どうして僕の後をついてくるの?」
ふたりは何も答えないし、目を逸らす。何も答えないので僕はカラスの真似をする。壁に手をあてて壁伝いに歩く。
「何か見つけたら教えてねえ!」
カラスが離れたところから声をかける。でも本当に何もない。僕はただずっと壁を触りながら歩いているだけだ。僕はダンネの顔を見る。
「なに?」
「何もない」
「そうね、何もないわね。私思うんだけど本当に奥へ続く道はあるの? ここで本当に行き止まりなんじゃ」
カラスはまだ壁伝いに歩いている。
「これは困ったねえ」
僕は足元を見る。そこには小さな蟻が列を作って進んでいた。僕はしゃがんで蟻を眺める。その蟻たちを上を見ているドロップが踏みそうになる。僕は咄嗟に突き飛ばす。ドロップは床に倒れ杖が転がる。
「びっくりした。急に押さないでよ!」
「蟻を踏みそうだったから」
「蟻?」
僕は蟻の行列を指さす。ダンネが蟻を覗き込む。
「それだけでドロップを突き飛ばしたの?」
「それだけ?」
ダンネが蟻の行列を指さす。
「こんな小さな蟻気づかないじゃない」
「でも僕は気づいた」
ダンネはドロップを指さす
「だからって、あそこまで突き飛ばすことないじゃない!」
「喧嘩はやめてよ。僕が気づかなったのが悪いんだから」
ドロップが立ち上がろうとして「いた」と口にしてまた転ぶ。ダンネが急いでドロップに駆け寄る。
「どうしたの?」
「足がすごく痛いんだ」
ダンネがドロップの足を軽く触る。
「痛い!」
「きっと挫いたのね、ガウルが突き飛ばすから」
僕が突き飛ばしたせいでドロップが足を挫いたらしい。
「僕が怪我させたの?」
ダンネが僕を睨む。
「そうよ! ここまで突き飛ばすことないじゃない!」
「諸君!」
カラスが近くまで来ていた。その足元には杖が落ちている。
「申し訳ないが僕は突き飛ばした少年を称賛させてもらうよ」
「どういうこと?」
カラスは壁を指さす。
「道だ」
僕たちはカラスが指さす方向を覗き込む。奥へ続く道が確かにある。そこは僕たち三人がさっき通った壁だけの場所。




