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死体回収業務は真似っこさん  作者: ⻆谷春那
CaseK.1 真似で救われる人生
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第8話

死体回収業務は真似っこさん

⻆谷 春那

CASEK.1

真似で救われる人生

第8話

「・・・こりゃ、悲惨。」


流石の【怪人】も、荒廃―普段は時間がかかるものであろうが、

複雑にからみ合った三角関係のせいで短縮された「廃退」―に、肩をすくめる。

眉はひそめないが。


表情が全く変わらないせいで、本心かどうか怪しく見える。

「コイツは、【怪人】なのだ。」

そう、【怪人】の中の誰かが、言っているように見える。


「・・・お前、誰だ?」


なにぶん衰退した街である。

なので、人の存在が極めて珍しく思える。

「羅城門」でさえ、人が寄り付かなくなったのだ。


こんな辺境の街が廃れようものなら、いよいよ人は、影すら消えてしまうだろう。


「え?あ、知らない人。」

「そりゃ、そうだが…」

「お前、新人?」

「おま、『お前』って…」


【怪人】に、人の世の理は通じないのだろうか。

いや、【人】によるだろう。

なにぶん、この【怪物】は、世間を知らないのだ。


獣は、自分を大きく見せようと威嚇をするらしい。

ならこの【怪物】はきっと、それをしているのだろう。


生まれたての草食哺乳類は、生きる為に立ち上がるそうだ。


なら、生まれたてのシェイプシフターは、分不相応な【擬態】をするのだろう。


「じゃ、何?名前、あるの?」

「あるに決まってんだろ。」

「へー。で、何て名前?」

「・・・アンタから名乗れよ。」

「・・・アタシは、名無しさんと言うか、何と言うか。」

「は?」

「『アタシの名前は奴隷です。』って、言いたい人、いる?

酷い名前なのよ、あまりにもね。

言いたくないわ。

・・・ヴェルフ爺、居るんでしょ?

出してよ。」


男の背後にある、廃れた「繕い屋」に目を向ける。


「は?爺ちゃんは今、出払ってるよ。」

「いや、居るでしょ。

寝息が聞こえるんだけど。」

「は?」

「臭いもするし。

酒臭い、タバコ臭い。

お前は嗜んでないでしょ?

お前からは、臭わないもん。」

「・・・あ、お前、あれか!

【怪人】か!!」

「・・・外で言って、良いのかしら?」


部神経な青年に対し、セリフだけは呆れる【怪人】。

表情は、変えるのか、変えられないのか。


「良いんだよ。

もうこの街には、誰もいねぇよ。

それこそ、俺と爺ちゃんくらいしか。」


最悪の、自虐ネタである。


「兵隊は?」

「出払ってるよ。

ここは、『捨てられた』んだ。」


「出払う」と言うのは、帰るから使うのではないのだろうか。


一縷の望みを、望んでいるらしい。

それに、わざわざ、全て「事実」にする必要もない。


「嘘だと分かる嘘」「善意の嘘」「ジョーク」は、ただの風流にしかならない。

デマにも、ならない。


「へぇ。

・・・ワーガーネスの婚約者の死体が、欲しい。」


興味はないのか。

それとも、伝わらないのが分かっていて、続けないのか。


「ちょっと待て。

今、爺ちゃん呼んで来るから。」

「面倒くさいわね。

融通利かせてくれたって、良いんじゃないの?

ヴェルフは、結構『柔軟』に対応してくれたわよ。」

「爺ちゃんは呑気すぎるんだ。

それに、それは酔っ払いだから許されたんだ。」

「驚いたわ。ヴェルフにこんな、マトモな人間が就くなんて。」

「足して二で割って丁度良いんだよ。

それが、コンビってやつなんだろ?」

「・・・違わないわ。良いわね。」

「お前の人間は、良識はあるのかい?」

「・・・人によって、ない時もあるわ。

一種の変態なのよ、きっと。」


最悪の、変態である。

確信犯である。

無自覚の場合もある。

気を付けた方が良い。


「・・・そんな事より、早くヴェルフ呼んで来なさいよ。」

「辛辣だな。初対面の人間にくらい、愛想振りまいたってバチは当たらないんじゃないのか?

俺、こう見えて偉いかもしれないぞ?」

「無さそうで、安心したわ。」

「じぇ?!酷いな!」

―――――――――――――――

「・・・よ。久しぶりね、酔っ払い。

まだくたばらなかったみたいね。」

「うっせーなー。

ケもーの臭いとはおーもったがなー。

やっぱー、きトったかー。」

「うっさいわね。モフモフふわふわ、綺麗な動物様よ。」


出てきたのは、【異形】だった。

形容しがたい。

確かに、【異形】ではあるが、どことなく【ヒト】の原型が見られるような。

【怪物】とは明言できず、かと言って「人間」と呼ぶ事には何故か。




心が、脳が。

受け付けない。

抵抗している。

理性と本能が、せめぎ合うのを、脳が感知し、気持ち悪さに片付けられる。


「爺ちゃん、やっぱコイツ、【怪人】か?」

「あ、あぁ。お前、見ルめねぇな~、シュトゥピ、ド。

コいツ、こんナ見タ目してルがな~、ロりばバアだゾ。」

「うっさいわね、糞爺。

お前よりは若いわよ。」

「いンや、多分お前のホが上だ。」

「・・・糞爺。」

「語イ力消えタかー?」

―――――――――――――――

いつの時代、どの世界においても。

「安置所」というものは、異様な空気感と「棺」が漂い、「居よう」とは思えない。


別に、明確な後悔が聞こえる訳でもない。

衝撃は確かに見えるが、理解しようとしない者のものでもない。

未練が、漂う訳でもない。




しかし、ここにはそれら全てが詰まり、発酵されており、胃がむせ返りそうになる。




「発展」の割には、「発達」している世界である。

保存技術は、現在に劣らないだろう。


冷気は、霊が出しているモノではなく、機械が保存状態向上のため、出しているモノである。


発酵されているのは、精神的なモノのみである。


「・・・驚いたわ。」

「ナにがカ?」

「お前が、人間とタッグを組むなんてね。」


【異形】は、少し間を置いてから、煙草を取り出す。

口の場所は、意外と普通の場所である。

口とは見えないが、恐らくあの瘤が、頭部なのだろう。


そう思うと、比較的人間的な位置をしている。


「・・・シュトゥピドは、頭オカシイんだ。」


煙草に、何か「気付け」的な成分が込められていたのか。

それとも、「酔い覚まし」だったのか。


マトモなイントネーション。


【異形】がマトモに喋った所で、どのみち「違和感」なのだ。


「・・・ルーティンは、誰にでもある。

だけどな。シュトゥピドは、それが狂うと、シュトゥピドも狂う。

煙たがられてる。」

「だから何よ。」

「・・・どうせ俺らは、煙たがられる【異形】さ。

【異形】と言われて追いやられた、【異物】さ。」

「ちょっと。

・・・アタシまで【異形】と言ってんのかしら?」

「普通の獣は、【にんげん】に化けようとは、しない。

【異物】だろ?」

「違うわ。アタシはあくまで、『溶け込む』の。

勝手にね。良くも悪くも。

・・・アタシは、【ヒト】の中でしか、生きていけないわ。」

「弱いな~、■■■。」




「その名前で、呼ぶな。」


恐らく、そこが首なのだろう。

別に、どれだけの速度を出そうが、人間の速度では切れない。

この【怪人】の速度では、切れない。


「・・・悲しいな、お前。

俺が、人に化けられないと、思っているか?」

「出自が違うわよ。

前後が逆。

アタシは、『化けるために生まれた』。

お前は、『生まれてから化けようとする』。

・・・ただの『人間』が、しゃしゃり出るんじゃないわよ。」

「もう、やめたさ。

『人間』なんて、愚かな生き物さ。

・・・俺は、人間自身じゃ、人間を管理できないと、知ってる。

人情と、獣臭い欲のせめぎ合い。

結局、全て失う。

だから、俺はここに居る。

お前はどうだ?

流れ流され、じゃないのか?」




「別に俺は、お前を【異形】と言うが、【異物】とは思ってない。

お前はあくまで、理に従って生まれてる。




【異物】は、俺とシュトゥピドさ。

だが、お前?

お前も、化けてる途中は、【異形】だな?

・・・どうだ。そろそろ俺も、お前の中に溶け出すんじゃないのか?」

「馬鹿言わないで。

まだ【人間】気取ってるの?

・・・もう、お前を真似したって、誰も釣れないわよ。」


「シュトゥピド」が、とある箱を持って来た。

比較的、大きめな箱である。


「ほら、もう行け。

俺は、酒が切れる。

呑みなおすからさ、色々と。」

「そ。とっととくたばりなさいよ、糞爺。」

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