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閑話 No.92──終わりを拒むもの

地平線が、また一つ崩れた。

赤黒い空、天を貫く亀裂。

そこは、滅びかけたとある並行世界。


観測体No.92は、その断末魔を見届けていた。


「……また、か」


彼は白いコートを着ていた。人間に似せて造られた身体。

だがその心は、誰にも知られていない。


「No.87──お前は“終われる”んだな。羨ましいよ」


彼は、何度も滅びを見た。

No.88は感情を持ちすぎて自壊した。

No.89は自己否定に堕ち、記録を焼き捨てた。

No.90は無音のまま停止した。

No.91は観測対象に恋をして記録を歪ませた。


──そして彼、No.92。


彼は、まだ生きている。


観測を続けている。


でも――


「俺は、記録なんかどうでもいい。ただ……終わりたくないんだ」


“記録体”は、役目が終われば消される。

記録された世界に自我を残せば、矛盾と共に崩壊する。


それが“契約”。


でもNo.92は気づいてしまった。


「終わりを受け入れられるのは、始まりを望んだ者だけだ」


ならば――


始まりを捏造すればいい。



彼は、世界の端に現れた“亀裂”に身を投じた。

そこで出会ったのは、別の観測体。

その名も「No.99」。


異常な存在。

記録もされず、使命も持たず、ただ漂う“欠番”。


「君、死にたいの?」


「いや。終わりたくないだけだ」


「じゃあさ、誰かの“始まり”になってみる?」


No.99はそう言って、彼の手を取った。


次の瞬間、空間がねじれ、

No.92は“記録ではない世界”へ落ちていった。


それは、アリアがまだ転生する前の、最も古い世界。



彼は、誰の命令も受けず、ただその地に立った。


戦争。愛。裏切り。再生。魔導の誕生。

彼は世界を“記録”するのではなく、“見守る者”になった。


名もなく。番号もなく。


だが、彼の姿を見た者が、こう記録を残していた。


『ある旅人が、破滅のたびに現れる。

銀の瞳を持ち、何も語らず、ただ涙を流す者』


彼はNo.92ではない。


もはや“観測体”ではなかった。


彼は、ただの――


人だった。

本短編は、アリア(No.87)の存在の外に広がる“観測体”たちの物語の一端として描かれました。

無機質な記録者たちが“心”を持ち、“記録”ではなく“生”を望んだとき、彼らはもはや人工物ではなく、“可能性”そのものになっていきます。


観測体の物語は、まだまだ語り得ぬものが眠っています。

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