第67話
「さてと、シバのところへ行きましょうか、」
マーニは地下の奴隷として働く亜人や魔族たちのもとからギルド支部へと向かった。マーニは魔族であるため直接治癒魔法をかけることはできない分、回復薬や食べ物などを支給しに行っていた。
もちろん地下の奴隷の管理をしているエルゴドーティスにはばれないようにこっそりと行う。だがマーニも慣れたもので侵入してから物資を渡すのにかかる時間もそう長くない。残りの時間は亜人や魔族たちとの時間に費やしている。
そして今マーニがギルド支部に到着し中を見渡しシバを探している。中央に立つシバを見つけ声をかけようとしたがシバと向かい合うブースとの二人の間にただならぬ空気が流れていた。
ディエフの提案によりいつも通りのギルド支部に戻ったがブースは一人納得できずにいた。他の冒険者が掲示板に向かうのとは別にシバに詰め寄って行く。
「おい、貴様に決闘を申し込む!」
シバの目の前に立つとブースは冒険者レベル6を示す水色のバンドをはめた腕をシバに向け高らかに言った。
彼の宣言はギルド支部内に響き渡り他の冒険者そして業務をこなす受付嬢までも手を止めて二人に目を向けた。
「は?なんでお前なんかと、」
シバは呆れたようにブースの申し出を撥ねつけた。
「貴様に冒険者の心構えを叩きこんでやる、貴様の態度は見過ごせない!」
(あー、そういうやつね、ご立派なことだ、)
シバに対する憤りとは別に謎の使命感に駆られたような出で立ちのブースに対しシバは辟易した。
「貴様がこの決闘に応じ性根を叩き直せたなら僕が謹慎の件を取り消しにしてもらえるように取り合ってあげよう、」
「何!?それはありがたい話だな、」
ブースの申し出に応じれば謹慎処分をなしにしてくれるという話にシバは惹かれた。これでベルカの鬼の微笑みを見なくて済むのだと。
ブースの決闘の申し出をシバが受けるかどうかを冒険者、そして受付嬢も、もちろんレスペシオも息をのんで見守った。
「謹慎もなくなる、今まで通りお金も稼げる、何よりベルカさんのあの笑顔を見なくて済む、これ以上にない条件だ、、」
シバの言葉にブースを含め周りの者たちはシバがこの決闘を受けると思った。
「だが断る」
「「「「なんだって!?」」」」
シバにとっては受けるに越したことはない申し出であるのにシバの返答に誰もが驚愕した。
(自分にとって都合のいい話や受け入れて当然と思われる提案をスマートに断る。決まったぜ、、これ一回やってみたかったんだよな!学院の図書館にあった異世界人の残した本にあった使えるとかっこいいセリフ。しかも一回自分で相手の提案を認めた上で断ることでより効果を発揮するらしいからな、)
「お、おい、お前本当にいいのか?ブースはこのギルド支部の冒険者会長だからあいつの提案ならお前の謹慎もなくなるんだぞ?」
近くで見ていた取り巻きの冒険者の一人がシバに駆け寄り考え直した方がいいんじゃないかと助言した。
「相手がその要求を飲むと踏んで提案してきたこと、つまり自分にとって美味しい話をあえて突き放す、かっこいいだろ、、」
(確かこんなポーズをすると尚いいって書いてあったな、)
おかしなポーズで立ち堂々と話すシバに彼は呆れたように溜息をついた。
「お前がそれでいいなら俺はもう何も言わん、」
その冒険者は掲示板の方に行ってしまった。
「少年、おかしな格好してどうしたの?」
丁度そこへマーニがやって来た。シバを変な目で見ている。
「おかしい?何を言ってるんですかマーニさん、」
「おかしいよ、変だから止めな、」
「かっこいいですよね、」
「全然、」
「でm」
「やめなさい、」
「、、はい、」
叱られた子供のようにおとなしくなったシバにマーニが尋ねた。
「なんか異様な雰囲気が漂ってて入るの躊躇しちゃったけど何があったの?」
シバはこれまでの経緯をマーニに説明した。
「断ったぁー!?」
シバがブースの申し出を断ったことを話すとマーニが信じれれないという表情で叫んだ。
「なんで?」
「だってかっこいいじゃないですか!」
「全然、」
「異世界人はかっこいいらしいですよ、」
「全然、」
「、、、」
「おい、貴様私と決闘の話は終わってないぞ!」
完膚なきまでにマーニに言い負けてしまいシュンとしているシバにブースが詰め寄った。
「あー、いいよ、どっちにしろお前とは戦わない、これからは一日中雑用だから、」
つい異世界人の文化?のようなものを使ってしまい後に引けなくなったシバは投げやりに答えた。
「貴様に冒険者としての心構えを叩きこむまでは私は引かんぞ!」
「あのさー、この前関わらないでって言わなかった?忘れたの?」
シバに詰め寄るブースに横からマーニが言った。
「マーニさん僕にはこのギルドの冒険者会長としての責任があるんです!」
「ごめん、あんまりしつこいとうっかり殺しちゃうよ、」
冷徹な眼差しでマーニは言った。ブースはマーニの氷のような視線に尻込みした。
それからはブースに有無を言わせず無視して冒険者としての仕事を一週間失ったシバはマーニに連れられベルカの宿屋へと足取り重く向かった。
「どういうことか説明してくれますか?」
宿屋に着き一通り事の次第をベルカに伝えてから現在微笑みを浮かべるベルカの前で正座し頭を垂れているシバの姿があった。
マーニもこれに関してはシバの自業自得なので何も言わない。
「一週間の謹慎になってしまいました、」
シバは申し訳なさそうに弱々しく言った。
「それは聞きました。これからはどうするんですか?」
ベルカの笑顔の圧力が一層増した気がした。
「厨房での片づけをします。」
「朝昼晩厨房で働いてくれるなんて助かりますよ、シバさん。」
それからシバは厨房で皿洗いをはじめとする雑用に励んだ。マーニは一切手伝うことはなかった。そして日が沈み宿屋の営業に変わったころ新たに客がやって来たことを知らせるベルが鳴った。
「いらっしゃいませ。」
やって来た女性にベルカが対応した。
「夕食をここでいただきたいのですが、それとここにユウさんが泊まっているというのですが、」
「ユウさん?」
彼女の言うユウさんと呼ばれる人物に心当たりがなく戸惑うベルカのもとにマーニがやって来た。
「あれー、なんでレスペシオがここに来てるのー?」
「マーニさん、こんばんは。ユウさんとお食事をご一緒するとお約束しましたので、」
「少年と?」
なぜレスペシオがシバと食事を共にするのかマーニが疑問に思っているとどこから聞きつけてきたのかアイとエイミーもやって来た。その表情は穏やかとは言えない。
「とにかくその“ユウさん”を呼んできますね。」
そう言うとベルカは厨房の方に行った。どうやら話の流れからシバ=ユウだと理解したようだ。
ベルカに呼ばれレスペシオの待つテーブルに向かうシバをベルカが呼び止めた。もちろん他の三人もいる。
「謹慎になったその日に女性とお食事とは随分と余裕そうですね。」
ベルカは皮肉たっぷりに微笑んだ。
「ちょっとシバ、あの人は何なのよ!後で説明しなさいよ!」
「さすがに手が早すぎるんじゃないかなー、しかも受付嬢だなんて、」
「、、、あまり感心できない。」
三人からの言葉で胸を痛めたシバはレスペシオのもとへ向かった。
「大丈夫ですか?顔色があまりよろしくないみたいですが、」
四人の言葉でだいぶダメージを受けたシバにレスペシオが心配した面持ちになる。
「気にしないでください、僕が悪いですから、、」
「そうですか、、」
それから食事を頼みたわいもない会話をしながら食事をしていると突然レスペシオが真剣な面持ちになった。
「あまり大きな声では言えないことなのですが、ユウさんってもともと学院の生徒ですよね、、」
テーブルをはさんで対面するシバに顔を近づけ小さな声でレスペシオは言った。
「受付嬢の仲間が今年の魔法科の一年に過去最低の無能生徒がいて先日学院から消えたって話をされまして、」
受付嬢のオルカとカリンの話からシバ(ユウ)が話題の生徒と同一人物だということを確信したレスペシオがこのタイミングで聞いてきたのだ。
「まさかさっきの念話で高くつくって言ってたのはこれのことですか?」
シバもレスペシオに顔を近づけ言った。
「はい、口裏を合わせたんですから正直にお願いします、」
凛とした態度のレスペシオにシバは正直に話すべきか躊躇った。
(これを言ったらレスペシオさんは報告するのか?レスペシオさん真面目だからな、)
「別に誰かに言ったりはしませんよ。私はただの受付嬢です。干渉はしません。ただ自分の担当する冒険者さんのことはきちんと把握しておきたいので、」
中々答えられないシバの様子を見かねてレスペシオは優しく笑みを浮かべて言った。
「、、実はレスペシオさんの言う通りです、騙すようなことしてすみません、」
「やっぱり、ステータスのこともそうですし、それにユウさんが使ってたあの武器、銃ですよね!」
やや興奮したようにレスペシオは言った。
「レスペシオさんあれ知ってるんですか?」
「はい!学院生時代に図書館で読みました。異世界人の文化に興味持っちゃって、、」
照れながらレスペシオは言った。。
「そうだったんですかー、異世界の本面白いですもんね!」
「はい!周りの人はそれほど興味持たなかったみたいですけど、私は好きですよ、かっこいですし!」
「じゃあ、さっきの『だが断る』かっこよかったですよね!」
異世界人の本の読者に出会えてあのセリフのかっこよさを理解してくれるだろうという期待を込めてシバは言った。
「いえ、まったく、、」
「えー、かっこいいですよー、」
二人はそれから異世界人の本で盛り上がっていった。
「何か楽しげに話しているわね、」
「そうだねー」
「、、、あの女シバに顔を近づけた。」
楽しそうに会話に花を咲かせる二人をアイたち三人は不満げに監視していた。
「ベルカさんあの三人はいったい何をしているのですか?」
三人の様子を見たアデルフィーがベルカに尋ねた。
「だめですよー、あれは見ちゃいけません。」
シバとレスペシオが楽しく会話をしている様子を不満げに見つめる三人を幼女に変質者扱いして見ないように諭すベルカだった。
(アイたちめっちゃ見てんじゃん、、)




