第38話
(まったく、一体何なんだこいつ、ちょっと探ってみるか、)
シバはフォニアと話しているゴスロリ少女に注目した。体にぼんやりと薄黒い光が纏い右目に魔力を集中させた。すると赤い魔法陣がシバの右目の瞳孔を囲む形で浮かび魔眼が発動された。魔眼で例の少女を見るとやはり隠蔽魔法とその奥に暗い靄がかかっていた。つまり鍵魔法がかけれているのだ。鍵魔法キリドマを確認し解析魔法アナリスを使おうとしたその瞬間であった。
(なに!?)
解析魔法に取り掛かるのとほぼ同時に靄の奥から突然真一文字に大きく鋭利なものが振りかざされた。シバはとっさにそれに反応し魔眼を解いた。
「あ、危なかった、あのまま行ったら右目が死んでたな、マーニさんの言ってた通りだ、」
隠蔽魔法に鍵魔法をかけることができるのは限られたものだけだ。ましてやいくら大人びているとはいえあんなに幼い少女にそれほどの魔力があるとは到底思えない。シバは増々現在フォニアと仲良く話しながら買ってきた食べ物を食い漁っている少女に不信感を募らせるばかりだった。
「っておい!そんなに一人で食べるなよ、お前の金で買ったものじゃないだろうが!」
(ほんとはベルカさんのお金なんだけどな、マジで謝らないと、)
シバは今もなお手を止めずに食べ物に手を伸ばすゴスロリ少女を咎めようとしたがフォニアがシバの前にやってきてシバを遮った。
「勝手に食べてるわけじゃないの、フォニアが食べてって言ったの、おなかすいてるみたいだったから、」
フォニアは申し訳なさそうに目を伏せた。
「フォニア、、」
その様子にシバも怒りを抑えた。
「そ、それに初めての、お、お友達だから、お兄ちゃんもフォニアと初めて会ったのにご飯たくさん食べさせてくれたの、皆に優しくしてもらってすごくうれしかったの、だから、」
今にも泣きそうな勢いのフォニアの頭にポンと手を置き優しくシバはフォニアの頭を撫でた。フォニアは自分が困ったときにシバたちに助けてもらったので自分も目の前の少女の力になりたかったのだ。
「フォニアは優しいな、友達ができて良かったな、大切にするんだぞ、」
「うん!」
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『良ければお友達になりませんか?』
『お、お友達?』
『そうです、私、同年代の女の子と初めて会ったんです。ずっとお姉さまと二人っきりでしたから、』
『で、でもフォニアはあなたみたいにきれいなお洋服じゃないし話し方も変だし、』
フォニアは怖かった。かつて奴隷として粗末な食事、薄汚い服を着ていた自分と目の前の少女ではあまりにも合わないと。自分が着たこともないようなきれいな洋服、大人のような言葉遣いをする少女とは住んできた世界が違うのだと。かつては友達など作る暇もないほど厳しい労働生活だった。そんな自分とは言わば真逆の人生を送って来たであろう少女と友達になるなど許されていいのだろうか、いや許されるわけがない、彼女にも迷惑が掛かってしまう。こんな奴隷だった少女と仲良くしていたら周りに何と言われるのかと。自分よりも年上のシバやアイ、エイミー、マーニ、ベルカに対しては素直に受け入れられた。しかし、同年代でこんなにも自分とかけ離れた少女と相対して初めて感じたのは劣等感であった。
『それが何か問題ありますか?』
『え?』
『私もお友達はいたことありませんでしたけど多分お友達になるのに着ている服や言葉遣いなんて関係ないと思います。』
少女は笑顔で続けて言った。
『大切なのは気持ちだと思います。』
今のフォニアには奴隷を示す首輪はない。シバたちと過ごした時間はそう長くはない。しかし家族を失った自分を彼らは優しく迎え入れてくれた。安心して過ごせるようにしてくれた。おいしい食事、安心して眠れる部屋、そして自分を助けてくれたシバ、少し騒がしいアイ、エイミー、マーニの三人、優しいベルカ。彼らがいるおかげでフォニアは素の自分を出せてきた。しかし、それらすべては自分の手を伸ばして手に入れたものではない。すべて与えられたものだ。
『フォニアと仲良くしたらあなたが周りの人から悪いこと言われちゃうかもしれないの、』
『そんな人がいたら戦ってやっつけてしまえばいいんですよ、』
『やっつける?』
『はい!お姉さまがいつも口にしていることです、この世界は弱肉強食だって、』
『じゃくにくきょうしょく?』
『強い者が弱いものを制する、強ければ何も言われません、』
『フォニア、強くないの、』
『ならこれから強くなればいいんですよ、最初から強い者なんてそういませんよ、』
そい言うと少女はフォニアに手を差し出した。
『一緒に強くなって何も文句を言われないくらいになりましょう、ねっ?』
フォニアはゆっくりと手を伸ばした。誰かに背中を押されるのはこれまで、これからは自分に手を差し伸べてくれる友人と手を取り強くなる、そう決意した。フォニアは差し出された手を取った。
『よ、よろしくなの、』
『はい!私の名前はアデルフィー、よろしくお願いします、フォニアちゃん!』
ぐぅううーー
二人の少女は顔を見合わせた。音の正体はアデルフィーのおなかの音のようだ。
『へへ、恥ずかしいです、』
『これ、一緒に食べるの!』
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「フォニア、そろそろ帰るぞ、」
日が傾き始めシバはフォニアにベルカの宿屋に戻ることを伝えた。だがフォニアはどこか不満そうだった。
「おい、フォニア帰るぞー、」
「、、、」
「おーい、フォニア、帰るぞー、」
「、、、」
「、、フォニアさんや、帰りますよ、」
シバが呼び掛けてもプイっとそっぽを向いて頑なに帰ろうとしない。フォニアのしっぽがパタパタと小さく早く動いている。
(まったく、誰に似たんだか、)
アイたち三人の影響を受けたのかどうか定かではないがシバの話を無視するという姿勢を貫き通している。
「黙ってたら何もわからないぞ、どうしたいんだ?」
シバもフォニアの気持ちがわからないというわけではない。生まれて初めて同年代で友達ができたのだ、まだ遊びたいのだろうがあまり甘やかしすぎるのも良くないと思ったシバは敢えてフォニアに尋ねた。
「もっとアデちゃんと遊びたいの、」
「私もフォニアちゃんと遊びたいです、」
アデルフィーもフォニアに同調するようにハキハキと言った。
「だがな、もうじき暗くなる、その子の家族が待ってるだろ?また今度遊べばいいだろ、」
「でも、、」
しっぽをだらんと下げしょんぼりとした様子のフォニアを見てアデルフィーが言った。
「確かに私のお姉さまも心配してると思いますし、また明日遊びましょう、」
「アデちゃんがそう言うなら仕方ないの、」
ようやくフォニアはあきらめたようだった。
(うーん、なんかすごく悪いことをしている感覚なんだが、親代わりっていうのも大変だな、)




