第37話
「お兄ちゃんなんか元気ないの?」
宿屋を出てからしばらくしてフォニアがシバを心配そうに見つめ言った。
「ん?あー、元気は元気だ、」
(金がないんです、ごめんなフォニア、なるべくベルカさんのお金は使いたくないからな、)
「よ、よし!ここら辺にたくさん屋台あるからどれか食べたいもの選んでいいよ、」
「ほんと!?やったぁー!どれにしようかなぁ、」
フォニアはしっぽを左右にゆっくり大きく振り辺りを見渡していた。目を爛々と輝かせている幼女は本来ほほえましい光景のはずだが現在シバにはそんな余裕はない。安いもの安いもの、とただただ念じるのみである。
(見渡した限り一番危険なのはあの肉屋だな、まず匂いにつられる、ふと目を向けるとそこにの油でカラッと揚げた大ぶりの肉を串に刺した串焼きは要注意だ、)
「お兄ちゃん、決まったの、」
(きたっ、頼む串焼きだけはやめてくれ、俺はフォニアを悲しませたくない、)
「お兄ちゃんが食べたいの選んでいいの、」
「ん?え、遠慮しなくていいんだぞ、あ、あの肉とか食べたいんじゃないのか?」
「ほんとはあのお肉食べたいけどフォニアにはまだもったいないの、でも昨日も今日の朝も豪華なご飯食べさせてもらったから欲張りはよくないの、」
奴隷として粗末な食事、強制労働、さらには目の前で母親と弟が殺され一時感情を失った少女が自分にはもったいないと言う。こんなに幼い少女がまだ自分の生い立ちに引け目を感じているのだ。シバはフォニアをそっと抱きしめた。自分がこの子を守らなければと。
「お兄ちゃん?どうしたの?」
「いや、何でもない、」
「それとね、お兄ちゃんとお出かけできてるからそれだけで楽しいの!」
「、、て、天使だ、」
この天使のようなかわいい猫耳の女の子の笑顔を絶対に守ると改めて心に誓ったのだった。
一方その頃、、、
「ちょっと!二人とも休まないでよ!」
壁に空いた大きな穴を木材で塞ぐ作業をしていたエイミーが言った。
「だってぇー、結果的に壊したの私じゃないもん、そりゃ、私が壊したって言うなら率先して働くよ?でもこれやったのエイミーちゃんとアイちゃんじゃない、」
宿屋のテーブルに腰掛け額の汗をぬぐいながらマーニは答えた。
「、、、壁を壊した割合はエイミーがほとんど。」
「はいはい、三人で直してください。冒険者の方々が出かけているうちに何とか終わらせてくださいね。」
ベルカが三人を労うように飲み物を運んできたがその口調は決して優しくはない。
「「「はーい、、、」」」
結局シバはフォニアには悪いと思いながらも所持金の範囲内で買えるごく普通のパンを二つ買うことにしたようだ。
「パン、二つ下さい。」
「なんだい、あんちゃん、二つだけかい、ちゃんと後ろの嬢ちゃんにも腹いっぱい食わせてやれよ、半分ずつなんて大きくならないぞ、三つだ、」
そう言って親父は指を三本突き立てた。シバはフォニアに目をやった。相変わらずフォニアの体は同年代の人間と比べるとやはり細くお世辞にも健康的とは言えなかった。
(まあ、確かにもっと大きくならないとな、ベルカさん少しだけ借ります、)
結果としてシバはパンを三つ購入した。そのまま切り上げようとしたがパン屋の親父が目をシバに向けた。
「あんちゃん、パンだけだと栄養に偏りが出る、この都市の出店ならバランスよくできるからちゃんと嬢ちゃん“たち”に食べさせてやれ、」
そう言うとパン屋の親父はシバにパンの入った紙袋と一緒にこの都市で使える割引券をくれた。その後は結局匂いに惹かれシバたちはいろいろ買った。
「さっきのおじさんいい人なの?」
「うーん、まあ今の俺たちにとってはいい人ではあったな、」
パンを買い人混みではぐれないようにしっかりとフォニアの手を握り都市を進んでいくと小さな広場に出た。そこは冒険者をはじめ様々な人の憩いの場となっていた。シバたちはそこで一休みすることにした。紙袋からパンを一つずつ渡していく。
「ほい、どうだ?おいしいか?」
「んー!おいしーの!」
「ほんとですね、おいしいですー!」
「ああ、そうだな、、」
シバは一呼吸おいた。
「あのさ、お前さっきからついて来てたけど何か用か?」
シバの言う“お前”とはフォニアに続いてシバからパンを受け取り、今それを夢中に頬張っているきれいな銀髪が肩まで伸びた少女のことである。
その銀髪の少女は黒を基調とし白いレースやフリルで飾られたブラウスに黒いギャザーを数段重ねたティアードスカートに身を包んでいる。膝下丈の黒地のハイソックスにも白いレースがあしらわれていて編み上げのブーツを履いている。どこかの貴族の雰囲気が醸し出されているが少女の洋服と美しい銀髪と相対して白のフリルの付いた黒いカチューシャが年相応の幼さを出している、いわゆるゴシックロリータファッションと呼ばれるものだ。
「おい、食うのをやめろ、」
シバはゴスロリ少女の首根っこをつまみ上げ自分の目線と合わさせた。彼女はモグモグと口いっぱいに入れたパンを咀嚼しゴクリと飲み込むと満面の笑みを浮かべた。
「はぁー、おいしかったですー、久しぶりにまともなものを食べられました。」
八重歯がチラリと光るゴスロリ少女はフォニアと同年代のように見えたが言葉遣いやその容姿から年齢よりも大人びている。食事に対する執着はとてつもないのだが。
「それより、離してくださいよー」
ゴスロリ少女はシバの手から降りようとジタバタと暴れた。
「おい、急に暴れるな、ったく、離すぞ、」
言われるままシバは少女を離したが当の本人は着地するわけでもなくそのまま地面に落下した。
「いきなり離すなんてひどいですよー、痛いじゃないですか、」
「いや、お前が離せって言ったんだろうが、」
ゴスロリ少女はお尻をさすりながら口をとがらせて言った。
「お兄ちゃんもっと優しくしてあげなきゃダメなの、」
そう言うとブツブツと何かを言いながらスカートをはたいて砂ぼこりを落としている少女にフォニアは駆け寄った。
「、、だ、大丈夫?でもお兄ちゃんは良い人なの、」
「そうですかー?今さっき私のこと乱暴に扱ったじゃないですか、」
「さっきはそうだったけど、ホントはすごく優しいの、」
「まあ、あなたがそう言うのであれば、、そ、れ、よ、り!」
シバに対して文句を言っていたゴスロリ少女は態度を一転させ何やら恥ずかしそうに言った。
「あなたと私同じくらいですよね、よ、よければお友達になりません?」
「お、お友達、、?」




