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「じゃあ、親父の看病、頼んだよミーア」

「うん……気を付けてね、フィル」

「そうだぞ、フィル」

「無理だけはするなよ。お前がけがしたら、それこそ親父さんが目覚めたときに雷が落ちる」

「ははは、違いない。フィルには“なんでけがなんかしてるんだ!”って怒るだろうし、俺たちには“なんでけがさせたんだ!”と怒るだろうな」

 がははと笑って見せる大人たちに、オレはあきれて突っ込んだ。

「……いや、前半はともかく後半はないだろ」

 むしろ、もっとやれぐらいいいそうだ。

「いーや、意外とあいつは子煩悩だからなあ。訓練ならともかく、それ以外だったら絶対に怒るだろうよ」

 いや、ありえないだろ。そう思ったオレだったが、このまま言い募ってもエンドレスに話がループするだけだと悟ったので口に出すのをあきらめる。

 ぺぺ爺さんとのやり取りが終わった次の日、ことは一刻を争うということで急ぎ準備をして、王都へと旅立つために村の入り口に立っていた。ちなみに準備の大半は自警団の面々が手伝って――途中、あれももってけこれももってけ、と余計な餞別を山ほど持たされそうになり大変だった――くれていたから、あっという間に終わったのだ。

 ついでに王都に行ったことのあるというポールに地図を持たされて、即席の旅人の出来上がりである。

 さほど大きな村ではないこの村では、親父が倒れたニュースがあっという間に広がっていて、見送りにはほとんどの村人が来てくれていた。嬉しい反面、すごく気恥ずかしい。しかし、その分親父が慕われているんだなぁと実感した瞬間でもあった。

「……じゃあ、行ってきます」

 一通りの挨拶を終えて、俺がそういえば口々に「いってらっしゃい」の言葉が返ってきた。

「……幸運の精霊がおぬしを見てくれるよう祈っておる」

 見送りの間中、ずっと沈黙を保っていたぺぺ爺さんが、最後に口を開いた。それにオレは少しばかり複雑な気持ちでうなずいて、それから村に背を向ける。

 いつもお使いや狩りなんかで村を出るのとは違う、どこか別の世界へと足を踏み入れるような気持ちで、最初の一歩を踏み出した。

 まず目指すのは、ここから一番近い町――ダールスの町だ。



◇◆◇◇◆◇◇◆◇



 ディアロ村からダールスの町までは、平坦な森の中の道を進む。歩きで大体一日ぐらいのそこへは、距離こそ少しあるものの大した障害物もなく進むことができた。村人たちも時折物の売買のために行くことがある場所だ。ディアロとダールス、どちらの自警団も定期的に道の周辺を見回って、危険な動物がいないかをチェックしているので、安全な道のりだった。

 なんとか順調な旅の始まりになったことにほっとしながら、オレはダールスの町に入って宿をとる。初めて一人で宿をとるのに緊張した。そもそも、ダールスの町自体、小さなころ親父に連れられて一度来たことがあるぐらいだ。そのときの記憶はあまり多くないから、実質初めて来たといっても過言じゃなかった。

 自警団の人に紹介してもらった安宿には、食事がついていない。村と違って露店のあるこの街では、外で食べたほうが安くておいしいからだ、とは彼らの言だ。

 もう暗めの外を見やって、それでもまだ明かりがちらほら見える町に少し感動を覚えながら、夕食を食べるために外に出る。

「……うわー、うまそ……」

 見慣れないものに目を奪われながら、思わず子供みたいにきょろきょろとしてしまった。

「おっさん、それ一つ」

「あいよ!」

 一番おいしそうなにおいをしていた、パンに肉や野菜を挟んだものを二つほど買って、もぐもぐと食べながらぼんやりと歩く。

 ……本当は、夜通し歩いてでも早く王都に行って、炎の精霊を探したほうがいい気がする。初めての一人旅に少し浮つき気味だった心が冷えた。はやる気持ちを見越してなのか、ドミナスが「今日は必ずダールスに泊まるんだぞ?」と念を押してきたのだから仕方ないけれど。

 いまいち現実味のない、ベッドの上の親父の姿を思い浮かべて息を吐いた。

 と、そんな風に心をディアロ村にはせていたのがいけなかったのか。不意に、どんっと衝撃が走り、オレは思わずよろめく。

「ああ? どこ見てんだてめえ」

「……すいません」

 誰かにぶつかってしまったのだ、と気づいたのは不機嫌そうな声が降ってきてからで、オレは慌てて謝る。相手はオレよりも大きな男で、背中に剣をしょっている。いかにも柄の悪そうな風貌は、村では見慣れないものだから思わずひるんだ。どうした、と男の後ろからこれまた屈強そうな男が数人声をかけてきて、しかもそろって柄の悪い顔つきなので思わずこれはまずいとオレはその場から離脱しようともう一度「ぶつかってすいませんでした」と頭を下げて踵を返す。パンの残りは宿で食べよう。そう思って食べ途中のパンをバッグの中に突っ込む。

「おい、待てよクソガキ」

「そうそう、人にぶつかっておいて誠意が足りねえなあ?

 まあ、逃がしてくれねえよなあ、と諦めて、肩をがしりとつかまれたオレは振り返った。ああ、旅の始まりから最悪だ……。

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