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構い続けてくる少女。

超能力を使った少年少女が闘うという在り来りな設定ですが、どうしても書いてみたかった。つい、やってしまった。後悔はしていない。

「・・・って聞いてるのかぁ!?」

「聞いてない」

 怒ったような、呆れたような表情を器用に浮かべていた。

 昼休みが始まってから五分間。話しかけ続けたのにシカトされ続ければそうなるかな。

「放火魔だぜ。連続放火魔!二週間前に始まってもう五件!一番最近の事件は隣町だぜ?怖くねー?」

「怖くない」

 本心だ。紛いもなく。

 強がっちゃって~とにやける顔が欝とおしい

 いつまでも僕が表情を動かさずにいると、向こうの表情に困惑が浮かぶ。沈黙に耐え兼ねて向こうが口を開いた。

「あれぇ・・・?まじで怖くない感じ・・・?いや、だってさ、花火とか調理実習とか、火を扱うの極端に嫌うじゃん・・・・・?」

「嫌いなのと怖いのは別だろ」

 僕は火が怖いんじゃない。火が嫌いなのだ。

「んー・・・?そうなん?なんで火が嫌いなん?」

 他人に話す内容じゃないので僕は口を紡ぐ。こいつは昔から察しが良いのですぐに諦めてくれた。こいつが僕に話しかけるくせに友人が多い所以の一つ。

「まぁいいや。放火魔って言えば、最近ここらじゃまず話題になることだぜー?うちのバイト先には警官までパトロールに来て注意してったくらいだしなぁ」

 まぁそうだろう。警察にも面子とかあるだろうし。

「んーだっけなぁ、親父が言ってたけど自警団?とか組織するとかも言ってたぜー?男の子なんだし駆り出されるんじゃねーの?」

 げっ。それは面倒だ。とてもとても面倒だ。学校から解放された僕の唯一持てるパーソナルタイム、至福の時間を削られるのは頂けない。頑張ってくれ国家権力。

「露骨に嫌そうな顔するなって。ほら、もし次の放火魔のターゲットになったらと思うと怖いだろー?」

「だから怖くないよ」

 僕はとっさに窓の外を見る。放火魔から見れば生憎の雨天だ。

「怖いって言うなら、6年前のこんな雨の日に起きた村中惨殺事件とか、7年前ここらで起きた連続通り魔事件の方がよっぽど怖いよ。どっちも犯人捕まってないし」

 僕は窓に映る自分の顔に注目する。こいつと違って陰鬱とした、覇気のない顔だ。年齢だけ見れば16なのに、若々しさを感じない。

 しかし、こいつも何故か、この話題を振った途端に僕と同じように窓の外を眺め、表情を曇らせたのだ。

「あぁ、そんな事件もあったっけなぁ」

 珍しい表情に、思わず僕が眺めてしまう。

「・・・ん?なーに?」

 視線が合い、僕は逃げるようにそっぽを向いた。

「・・・・・しかし、勿体ねぇよなー。そのキャラクターって無口キャラとか無愛想キャラとか気取ってたりするの?顔だけは良いんだからさぁ、もっと社交的になればモテるし友達も俺以外にできるぜ?多分」

 心底、いらない。ごめん被る。

「それを言うなら君だろ。その男みたいな口調と僕に話しかけるのを辞めれば彼氏の一人や二人できるだろ」

「一人はともかく、二人彼氏できるのはまずいだろう」

 困ったように風香は笑った。




 午後の授業を難なくこなし、下校の時間となった。

 嬉しいような、放火魔がうろつく今だけは悲しいような、雨はすっかりやんでいた。

 人付き合いを避ける僕は部活に所属していないのでこのまま帰宅。本来なら一人でウォークマンでも聴きながら帰るんだけど、最近はなかなか一人で帰れない。

 原因はこいつ。

「おっすおっす!一緒に帰ろーぜ」

 風香だ。二週間前から頑として一緒に帰ると言って聞かない。家が隣同士の幼馴染な為に断る口実が思いつかない。

 さらに風香はさっぱりした見た目にサバサバした性格。短く切りまとめられたさわやかな髪、小顔に大きい目は良い意味で目立つ。活発な性格をして運動神経も良いが運動部には所属していない為、肌は白い。唇は薄いが綺麗な桃色で、よく動く。幼馴染の目から見ても可愛いし、とても取っ付きやすい性格だ。男子にも女子にもファンが多い。

 二人きりで帰宅。それはかなり、怨みや反感を買うのではなかろうか。

 静かに一人でやり過ごしたい騒がしい日常。余計な暗雲がちらほらと。

 二週間前から急にとなれば、まあ放火魔の件だろうなぁ。僕より身体能力あるくせに何を怖がっているのやら。

「んでさー、今日シフト変わってもらって暇なんだよー」

 暇なのになんでシフト変わってもらったのか。

「なんでシフト変わってもらったんだよ」

 聞いてみた。

「あぁ?だから放火魔がうろついてる時、家に母さん一人にするの心配だからって言ったろ」

 聞いてませんでした。

「じゃあ二週間まるまる休んでるの?」

「だからこれも言ったと思うけど、前回の放火があってから休みもらってるんだって。なあー家に遊びに来いよー。暇だろー?」

 行けるか。一緒に二人きりで帰ってるってだけで、他の風香ファンからしたら重罪なのに、これ以上罪を重ねたくない。

「あれ?お兄さんは?お兄さんいるだろ」

「兄貴はダメだ。こんな状態だってのに、彼女に構ってて可愛い俺の事も母さんのこともほったらかしー」

 両手をあげて万歳の形。まさにお手上げって状態。

「僕が防犯に役立つとは・・・・・」

 僕がいて何ができるんだ。

「いやほら、男がいれば安心できるじゃん?」

 例えば100mを11秒台で走ったり、砲丸投げを15mも投げるような奴が言うことじゃない。

「まあそれは建前でさ。灯ちゃんさぁ、物心つく前からお隣さんの幼馴染なのにさ、俺ん家来てくれたことないっしょ?俺も灯ちゃん家行ったことないしさ」

 それはそうだ。故意に人付き合いを遠ざけてきたんだから。

 それでも風香は僕の態度に関わらず構ってくるけど。

「あー、気になってるんだけどさ。灯ちゃんって彼女とか、いないの?」

 不意の質問に思わず吹き出すところだった。いるように、見えますか。

 見てわかってほしいものだ。友人すらいないのに。

「浮ついた噂とか聞かないけどさー。どうなんよ?」

 そもそも浮ついてない噂すらされてないだろ。僕について何を話すっていうんだ。

「ないよ。君はどうなの。あんまり聞かないけど」

 そもそも風香以外と会話しないから、噂なんて耳にする機会がほとんどないんだけど。

「あー俺?俺は中学2年の頃から彼氏いたよ。ほら、中学卒業時に殺されちゃった今治くん。あの子と付き合ってた」

 あー、今治くんね。知らない。

「まさか中学卒業の日に通り魔に会うなんてなぁ。5年ぶりの悪鬼再来かとか騒がれたんだぜ?」

 しかし、通り魔に放火魔。なんて物騒な。平穏をください、神様。

「そうかぁ・・・。彼女いねーのか」

 風香にしては珍しく、感情の読み取りにくい表情を浮かべていた。

 なんとなく気まずい空気を感じ、僕も風香に習って正面を向いた。

 暫く歩いて家に着いた。

「よし、じゃあおいで!」

 行くとは言っていないのだが、制服の首根っこを掴まれて強制連行。

 力で風香に敵うはずないので抵抗はしない。

 ずるずると引きずられる形でお邪魔することに。

「・・・・・お邪魔しまーす」

「はーいいらっしゃい!」

 僕は引きずられているから構図としては奇妙な画面。

「あっ・・・!!っべー・・・!」

 靴を脱いで先に上がった風香が急に叫んだ。まだ座って靴を脱いでる僕はそれを流す。

「すまん!ちょっと一階の居間で待っててくんね!?ちょっと部屋片付けてくる!」

 ドタドタドタドタ。怪獣が歩くような音を立てて脇にある階段を駆け上がっていく。

 駆け上がる風香の白い下着が見えて思わず目を背けた。風香は自分が女子だという自覚が足らない子。

「はぁ・・・」

 まず、初めて来た家のどこが居間だかわからない。不用意に扉を開けて確認などしていいものじゃない・・・よね?それに居間っていうのは本来、家族団らんをする部屋で、客を通すところじゃないだろ・・・。

 しかし、ぼーっと玄関に突っ立っているわけにもいかない。

 玄関から見て左手にすぐ扉がある。正面にまっすぐ廊下が続き、その左脇に扉がさらに一つ。右にも一つ。その奥に扉がまたあり、扉についたガラス越しに冷蔵庫が見える。冷蔵庫のそばには台所が付き物だろう。台所のそばに居間があるん・・・だよね?

 廊下を進み、扉を開ければ案の定。ダイニングテーブルと家族分ある椅子を発見。左手にはテーブルとそれを囲うようにソファーが置かれ、向かいにテレビが設けられている。

「・・・あれ?」

 息遣いが僅かに聞こえてくる。ソファーからだ。向かってみると、風香の母親、遥香はるかさんが眠いっていた。

 ・・・・・放火魔に怯えてたりしてねぇじゃん。

 いよいよ僕が来た意味がなさそうだ。

 僕の気配に気づき、遥香さんが目を覚ました。

 ぼんやりとした顔で僕の方を振り向いた。

「あらぁ・・・?あぁ、灯ちゃんじゃないか。珍しい!」

 この親にしてあの子あり。ショートボブに強気な目。化粧をしてないのに実年齢より若く見えるのは、肌が綺麗でかつハキハキしているからだろう。口調は遥香と同じく男のよう。

「んー?あれ?風ちゃんは?いっしょじゃないのかね」

「あぁ・・・部屋を片付けに行きました」

「ははっ。バカタレめ。だからあれほど普段から片付けろと言っているのに。聞きやしない。誰に似たんだかなぁ。灯ちゃんからも言ってくれ」

 貴方だ。貴方に似たんだ。

 口にしないけど。

「そういえば香織かおるは?お客さんが来てるのに香織も降りてこないのか」

「あれ?お兄さんいらっしゃるんですか?」

「そりゃあここはアイツの家でもあるからね」

 話が違う。ほんとなんでここにいるの僕。

 そんなこんなでまた廊下の先からドタドタドタ。爆音を響かせて扉を開け放った風香さん。

「おっ待たせー!!って、母さんいたのか」

 戻ってきた風香は制服から私服に着替えていた。梅雨入り前の季節ということで、Love&Peaseの文字とハートマークが入った白Tシャツ。それとデニムのホットパンツ。うん、目の毒だ。

「ここをどこだと思ってるの。部屋の片付け普段からしろとあれほど・・・」

「あぁー!あぁー!分かった分かった。分かったから!!お説教は後で聞くから!」

 僕の手を引いてそそくさと居間をでる。力強くて何故か加減が出来てないから結構痛い。何故か耳まで真っ赤なようだけど、少し冷静になって欲しい。

 引かれるがままに部屋まで着いた。女の部屋にしてはものが少ない。ぬいぐるみ等のファンシーな類のモノがない。勉強机には小説がずらり。あ、僕が貸した戯言シリーズが置いてある。夏目漱石の吾輩は猫であるなど、以外と文学少女なのかも。

 それに意外でもないんだが、サッカーボールに野球ボールとバットにミット。テニスラケット、卓球のラケット。流石風香。部活や習い事はしてないくせに、運動全般そつなく熟す。

「ったくさぁ。喧しいんだ、母ちゃん。母ちゃんだって部屋散らかすくせにさぁ」

 こまめに片付けてるみたいだけど。と風香は後付けした。見習うべきだ。

 心なしかまだ風香の顔が赤い。

「そういえば、香織さんいるみたいだけど」

「んぁ?あれぇ、珍し。今日は帰ってるんだなぁ」

 僕はもう帰っていいですか。

 口にしようか悩んでいると、扉が開いた。

「おっす、少年少女」

 遥香さんだった。

 手にはトレイ。その上にお茶の入ったコップが二つとお菓子。

「差し入れー。んふふ、じゃあ後は若いモノ同士」

 にやける遥香さんの顔に僕も風香も呆れ顔。

 さり際に一度遥香さんは一度振り向いた。

「不純異性交遊は認めませんからねー?」

 するか馬鹿。

「しねえよばあか!!」

 おぉ、シンクロした。笑いながら部屋を出て行った。茶目っ気の多い大人だなぁ、遥香さん。

 頬を染めたままの風香はどこか、勝手がいつもと違っていた。こっちが黙って欲しいのに、絶えず話しかけてくる普段と違った。気まずい空気を打破してほしいのに黙りこくっている。人付き合いを拒否し続けた僕としては何と話しかけてよいのやら・・・。

 一人でいる時の静寂は好きでも、他人がいるときの沈黙は耐え難い。

「えっと・・・」

 緊張して上手く声が出ない。風香には聞こえていないようだ。

「んあぁ!もぅ!」

 風香が吠えた。びっくりして変な悲鳴をあげそうになった。なんだなんだ。

 僕がスライム(ドラクエ)さながら目を丸くして見ていると、風香は自分の頬に張り手をした。

「何、灯相手に緊張してんだ俺!しっかりしろ!うん!!」

 呼び捨てかよ。

「さてさて、灯ちゃんは普段お家では何をしてるのかなぁ?」

 あ、戻った。その口調やめてほしい。

「・・・・・ゲーム。あとは本読んだりパソコンいじってる」

「わーお根暗オタクまっしぐらの典型的パターンじゃないか!」

 流石に傷がつく。オタクの定義もまともにわからんくせに!

 僕が黙って睨んでいると、風香がとても楽しそうに笑う。

「ははっ。ごめんごめん。じゃあさ、外でキャッチボールでもしますかい?たまには運動しねーと体壊すぞー」

 僕がそもそもここに連れてこられた、基お呼ばれした理由は防犯の際に男手があると安心するから、じゃなかったかな。

 まぁこのまま部屋にいてもすることないだろうし、それはそれで構わないのだけど。

 風香の家にゲームがあると思えないし。

 僕の考えを見透かしたかのように風香が言った。

「ちな、ゲームならあるぞ。兄貴と兼用だけどな。PS3があるぜ」

「え、ならそっちがいいんだけど・・・」

 外に出て誰かに見つかっても面倒だし。噂をされるだけなら構わないが、僕が被害を直接被るのは勘弁してほしい。

「んじゃーとってくるわ。リビングにあるんだ。何かしたいゲームあっかー?」

「そもそも何があるの?」

「色々あるぞー。アクションモノ、シューティングモノ。シュミレーションっつうの?信長の野望なんだけど。あと三国志。あとRPGもあるぞ。兄貴のだけど」

 多種多様にもってるな。ちなむことじゃないけど、僕がよく遊んでいるゲームの種類はシューティングゲーム。俗に言うFPS(ファースト・パーソン・シューティングの略)だ。それとアクションRPG。読んで字のごとくアクションとRPGをかけあわせたものだ。なので風香の持っているゲームのうち、アクションとシューティングのモノを見てみたい。

「アクションとシューティング、何持ってるか見せてよ」

 僕が言うと、風香は立ち上がって部屋を出た。

「んぁー。分かった。とってくるから待ってろー」

 思ったけど、PS3をしたから一人で持ってくるって困難じゃないか?手伝いに行ったほうが良かっただろうか。

 下手に他人の家で勝手をするものじゃないと思いとどまることにした。まぁ、無理なら向こうから声を掛けてくるだろう。

 ややして扉が叩かれる。そして扉の向こうから大声が。

「ぼーい、あべふふれ!」

 流石にいっぱいいっぱいか。・・・多分、おーい、開けてくれ。だろう。

 僕が扉を開けると、片手でPS3を抱え、左手に纏めたコード類、口にディスクケース。まぁ、器用なこと。

「僕も行けば良かったな」

「んば、べぶび」

 ひとまず僕は風香の口を塞ぐディスクケースを受け取る。

「んはぁ。うむ、苦しゅうない。何やるか選んでくれていいぞー」

 風香はそのまま部屋の角にあるテレビの前でセッティング開始。

 さてと、僕はディスクケースを開いた。おぉ、僕と趣味が合っている。

「これやろう」

 取り出したのは、今流行りのシューティングゲーム。2003年にPS2で初期作を出し、今年の2013年の10年間にわたり新作を出し続けている有名どころ。

 ストーリーモードとオンラインでのマルチプレイモードがあるが、今回は風香と二人なのでストーリーモードにしよう。

「ストーリーを交代でやろう」

 起動してみればストーリーモードのセーブデータがない。こいつ、まさか。

「えっ。風香さ、ストーリーやってないの?」

「んぁ?やってねーよ?だってマルチが本来遊ぶモードっしょ?」

 こいつ、舐めてやがる。僕は怒り混じりに口を開く。

「いいか?このゲームのストーリーモードは物語もさることながら、ムービーの綺麗さも相まってさながら映画のようだと評価され・・・って」

 聞いてねえ。ゲーム起動してプレイしてやがる。分からせてやろうとか思うけど、肉弾戦じゃ敵いやしない。悔しい。

「おー、死んだ。以外にストーリー難しいな。ほい、交代」

 受け渡されてプレイ。

 暫くゲームを二人で交代にプレイしていると、扉をノックするものが。

 コンコンコン。返事を待たずして扉が開かれる。

「うーっす若人共。元気してるかねー?えっちなことしてないかね?」

 喧しい。つか返事を待たないならノックする意味がない。

 風香ももう慣れたようで、顔を赤くすることなく呆れ顔で返事した。

「なんだなんだ」

「ふふん。随分な態度だね。まあいいよ。君たち、買い物に行ってきなさい!」

 といって手に持った手提げ袋を前に突き出した。

「灯ちゃんが初めてうちに来てくれたからね。それにパパも今日は早く帰ってくるって連絡あったし、今日は腕によりをかけてカレーを作るよ。メモはここに入れておくからね。灯ちゃん、親には連絡するからうちで晩御飯食べて行きなさいな」

 いやいや、断ろうとするが、それよりも早く風香が二つ返事する。

「よっしゃ分かった!いくぞ灯ちゃん!」

 僕の腕をとり、遥香さんから手提げ袋を受け取って部屋を出た。痛い痛い。

 風香が玄関で靴を履いて準備万端、笑顔でこちらを振り向いた。

 はぁ、こうなっては何を言っても無駄そうだ。諦めて僕も靴を履くことにする。遥香さんの手料理かぁ。あの人ってほんとに家事出来るんだ。勝手な第一印象と偏見を照らし合わせたら、摩訶不思議な物を錬成しそう。

 僕も靴を履いて外をでる。時刻は六時前。梅雨入り前なのでまだまだ明るいほうだ。

 雲も晴れてきて中々綺麗な空をしている。

 風香が僕に習って空を見ながら口を開いた。

「俺の母ちゃんのカレーはうめぇぞ。ホントは二日目が良いんだけど、まあ贅沢はなしな」

 僕の不安を知ってから知らずか、風香は遥香さんのフォローを入れる。ほんとに風香は察しがいい。

「うん、楽しみにしておく」

 風香が得意げに笑う。

 駅前にあるスーパーがかなり安い上に、この時間はタイムセールがあるかもしれないと風香と僕は少し脚を早めた。

 帰路についた人海の中に、見たことのある人影があった。風香のお父さんである。僕よりも早く見つけていた風香はすでに手を振っていた。

「お帰りおやじー。早いな、珍しい!」

 心底嬉しそうに風香は言った。ただでさえ微笑んでいるような顔をした風香のお父さんはさらに柔らかく微笑んだ。

「こらこら、そのオヤジって呼称はやめなさいとなんども・・・。いやぁ、今日はどうも体調が悪くてね。早退させてもらったんだ。おや、珍しい○○くんじゃないか。遥香から話を聞いてるぞ。買い物、お願いするね」

 本当に、柔らかい顔をしている。羽虫すら殺さなそう。

 それじゃあね、と別れを告げて、僕らはスーパーに向かう。

 スーパーは夕食前の買い物客で賑わいを見せている。僕らはメモに書かれた物をカゴに入れていく。人参、玉ねぎ、じゃがいも、イカとエビとホタテの缶詰・・・?どうやらシーフードカレーになるようだ。

 買い物を済ましてそのまま帰路へ。風香は女子の割にあれこれと余計に見ることはせず、淡々とメモに書かれた物だけをカゴにおさめていったので早く済んだ。

 帰路になるころ、空は夕焼け。東のほうは夜の気配を孕んだ暗い色をしていた。

 他愛のない会話を交わしながら、行よりも心なしかゆっくりとした足取りで帰路を歩いた。こんなに人と会話したのは、人と接したのは親以外には初めてかもしれない。学校で風香が僕に構うといっても、ほぼ一方的なものだった。

 上手く、喋れない僕に、なんでこいつは構ってくるんだろう。

 ただ家が隣なだけだ。学校がずっと一緒なだけでクラスは違う。学校が終わったり休日に遊んだこともない。

 モヤモヤしたものを抱えながら歩いていると、風香の顔つきが変わっていた事に気づく。

「なーんかくだらないこと考えてるだろー?あんなー、顔見ればわかるぜ。別に○○が気にしすぎなだけなんだってー。みんなさ、思ってる以上に嫌ってないよ」

 普段、ちゃん付けしてるだけに、真摯さが伝わって余計に響く言葉だった。

 強いて言うなら、僕は嫌われてるだろうから人付き合いを避けていた訳ではない、ということ。

 暫く、妙な沈黙が続いた。僕が相手という時点で、本来沈黙は少しも妙ではないのだが、この場においては、何か妙だったんだ。

 そのまま歩いた。人付き合いを拒絶してきた僕にこの沈黙を打破する方法論なんて持ち合わせていない。

 沈黙を破ったのは意外なモノだった。強制的に力技。それは聞こえてくるサイレン。そして人のざわめきだった。ヒントは二週間前から出ている。答えは火災。タイミングから、間違いなく放火だろう。

 問題は、僕らの、帰る方向の先。

 答えが出たのは風香が先だった。目の色を変え、息を飲み、全速力で駆け出した。

 僕はその背を見てから駆け出した。

 


灯くんはともかくコミュニケーション能力が乏しく、書いていて少し辛かったりしたりして。

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