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妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
昼と夜の境ー逢魔が時の奈良にてー
132/133

魑魅魍魎20

「楿様、トドメを刺して。」


彼女の瞳は全てを決意した光が宿っていた。

私は瞳を閉じてスゥ…と息を吸い込む。


そして手を振りかざした。

ツゥ…と女将さんの頬を絶えることなく涙が伝っている。


「これでもう誰も傷つけなくて済む。

ありがとう…」


鎖は光輝き、彼女の姿はガラスが割れるように粉々に砕け散った。

散らばった彼女の破片を手にし、私は涙を流す。


彼女は悔いていた。

人を傷つけていることを、妖であることを。

そして何よりも、自分のことを…


お稲荷さんが優しく腕に抱く。

こうやっていつも暖かく迎えてくれるこの両腕を、いつか失う日が来る。


私は人間だから、お稲荷さんよりも先に逝ってしまうのは分かっていることだ。


その時、私も彼女のように願うのだろうか。

妖になりたいと。

もっと長く生きたいと…


ギュッと白の服を握る。

体は小刻みに震えて、嗚咽が洩れた。

こんなに胸が痛むのもこんな気持ちを知ったのも、お稲荷さん達と出会ってからだ。


弱さを見せられるのも、この白と懍くらいだろう。

あぁ、そっか、私は勘違いをしていた。


「辭、お前が追い求める強さは何だ?」

「…。」


私が追い求める強さ。それは。


「…自分の非を認めて、それを受け止めること。そして仲間を信じることです…」


ただ単に術を磨くだけじゃ、強くなれない。

だからと言って自分の弱さを克服したとしても、それは本当に強いと言えるのだろうか。


否、強さではないと思う。

私が追い求める強さではないのだ。


「そうか、やっと見つけたんだな…」


ニカッと笑って私の頭を撫でる彼の手は、本当に暖かい…


「はい…」


追い求める強さは非を認めて受け止め、そして仲間を信じること。

弱いと認められるのは決して弱くなんかない。

寧ろ強いとも言える。

自分を知ることは最大の強さだ。


弱いと言えるのを、人は弱いと言う。

でもそれは間違ってると思う。

弱いと言えるからこそ、仲間を信じて闘えるのではないだろうか。


やっと見つけた、私だけの強さ。

答えが見つかった。

それを教えてくれたのは妖達。


魍魎が倒された後、町は元のあるべき姿へと戻った。

閑散とした廃墟の町に。

私はお稲荷さんと町を歩いた。


活気があったのは、最早過去の話。

今は廃墟が建ち並ぶ町だ。

脳裏に浮かぶのはこの町の活気がある姿ばかり。


そして宿の女将さん。

魍魎としてではなく、ただ一人の人間としての彼女の姿。


彼女が現代という平和な世界に人間として生まれてきたのならば、きっと…

きっと、優しい笑顔で今でもあの宿で働いていたに違いない。


私は自分の仕事に時々疑問を抱く。

恨まれたり妬まれたり、嫌われたりするのは術師である者は皆、体験してきたこと。


"ありがとう"


だからお礼なんて言われることなどなかった。

侮蔑や批判の言葉は言われても、感謝の言葉は一度もなかった。


彼らと出会ってから、何だかお礼を言われる機会が増えてきたような気がする。


私がしたことで彼女の心が少しでも報われたなら…


ふわりと風が吹いてきた。

それは私を吹き抜けていく。

風が吹き抜ける度に、脳裏に浮かぶ彼女の笑顔に思わず微笑んだ。


何でもないような風だけど、今の私には彼女がお礼を言いに来てくれたような、そんな気がした。


また逢える日を楽しみにしていよう。

彼女ならきっと、来世に生まれ変われることが出来るだろう。


根拠なんてない。

ただ、彼女は何よりも自分というものを知っているから。


「辭、帰ろう。俺たちの家に。」


振り返ればそこには白がいて、私に優しく手を差し伸べた。


「はい!」


夏が近づく六月。

奈良の廃墟の町で出会ったのは、悲しい妖。

その姿を胸にとびきりの笑顔で、その手を握り返したのだった。

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