魑魅魍魎18
どちらからともなく、間合いを取る。
魍魎は息を切らしていない。
対する私も息は切れていない。
これくらいはまだまだ序の口だ。
「女将さん。
どうして、貴女は嘘をついたのですか?」
私は静かに問いかけた。
もちろん、警戒を解いたりしない。
いや解けないのだ。
知ってる人だからと言えばそうだが、それよりも彼女の周りには依然として殺気に纏われている。
本気で私は来たが、向こうも向こうでかなり本気なのは見て分かる。
目が鋭い光を帯びていた。
「どうして嘘をついたのか、ですって?」
彼女は再び刀を構えた。
タンッと勢いよく地を蹴り、一気に間合いを詰めてくる。
「それはね…!
貴女の警戒を解かせるためよ!」
刀は迷いなく私へと向けられたが、そこで大人しく切られる私ではない。
軽々と攻撃を避け、ガラ空きの彼女の懐へと入る。
「なっ…!」
「はあっ!!」
無防備な懐に蹴りを入れた。
彼女は慌てて防御しようとするも間に合うはずもなく。
私の攻撃を受けた彼女の体は後方へと飛ばされた。
大木へと激しく身体を打ち付けられ、彼女の手から刀が落ちる。
そのままズズッと地面へと倒れこんだ。
私はゆっくりと彼女へ近寄る。
その時、お稲荷さんが叫んだ。
「辭!!」
後ろを振り返ったら、今正に刀を振りかぶろうとしている魍魎がいた。
残像!?
咄嗟に避けるも、刀は私の肩からお腹にかけて斬り裂いた。
辛うじて致命傷は避けれたが、今ので一気に向こうが戦局の優位に立ったのは明白。
迸る一瞬の熱と痛み。
傷口から滲み出る赤。
ポタポタと地面に赤い染みを作る。
痛みはじわりじわりと体を蝕む。
これはいけない。
早く決着をつけないと、こちらが殺られてしまう。
「ぅぐっ…」
装束の損傷を受けた部分は真っ赤に染まっていて、私はふらりと立ち上がる。
多少のリスクは伴うだろうが、使わない手はない。
ぐっと、二本指で構えて呪を唱える。
この術は本当にリスクが高い。
故にこれを好き好んで使うのはごく僅かの者達のみ。
代償は…術師のものなら何でもいい。
例えそれが命だとしても。
私は地面に滴り落ちた赤を見つめる。
代償は、これでいいか…
「代償は、我が血。
この代償を受け取りし、地獄の門番よ。
今ここにその真の姿を現し、敵を捕縛する鎖となれ…!
闇縛鎖術!」
地面の赤が私が立っている所を中心に、何かに引き寄せられる。
そして赤は消えゆくように吸い込まれ、黒い光が辺りを照らした。




