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妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
昼と夜の境ー逢魔が時の奈良にてー
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魑魅魍魎16

顔を上に上げると、片手を目元へと持っていき視界を覆う。

覆うことで一気に暗くなる視界。


フッと口元に自嘲を含んだ笑みを浮かべる。

自分の無力さなんて既に痛感しているのに。


狗神の時、私は自分という人間の無力さを嘆いた、そして身を持って痛感した。

もっと強くなりたいと、そう思った。


でも一向に強くはなれない。

ちょっとしたことで、すぐに弱さが出てしまう。

今だって、頬を涙が伝っている。


あれ…?

強さってなんだっけ?

疑問が生まれる。


強さとは泣かないこと、弱さを無くし己の非を克服することで得られる。


けれど果たしてそれが強さなのだろうか。

泣かないことが、弱さを無くすことが本当に強さなのだろうか。

それが私が目指している強さなのか。


違う…

これは私が目指している強さではない。

私が目指しているのは…


なかなか立ち上がろうとしない辭を、白はただ言葉を掛けることもせず、心配そうに見上げていた。

彼女の心の葛藤が流れこんでくる。


強さとは何か、か…

人それぞれなんだ、強さってのは。

皆違う強さを持ってるんだよ。


そう伝えたいが、今それを伝えてしまえば目の前にいる彼女は益々考えてしまうだろう。


「辭、ここは一度宿に戻ろう。」


やっと掛けれたのはこの一言だけ。

今はこの一言だけで充分だと思った。

辭はやっとのことで、そろそろと立ち上がるとお稲荷さんと宿へ戻った。


宿の部屋は灯りが落ち、真っ暗である。

部屋の中央に敷かれた布団。

隣で丸くなって寝ているお稲荷さん。


私はなかなか眠れなかった。

精神的に弱いと思ってた私は、この仕事を続けていくことで精神的に強くなろうとしていた。


でも、それで本当にいいのだろうか。

難しいことを考えているうちに、うつらうつらと眠気が襲ってきた。


瞼がゆっくりと落ちる。

今はゆっくり休もう、そしてまた考えればいい。

こうして夜は更けていった。


***


翌朝、目が醒めた私の瞳に映ったのは女将さんの顔。

あまりの至近距離に驚き、弾かれるようにして布団から身を起こした。


彼女と慌てて距離を取る。

対して彼女は私のいきなりの行動に驚いていて、襲いかかってくる感じはない。


ハッとして、彼女に謝罪と挨拶をする。

聞けば、食事の準備が出来たことを知らせるために起こそうとしてくれたとのこと。


そして先程の出来事など気にしなかったかのように、ニコリと笑って部屋を出て行った。


時計を見ると、九時をとっくに回っている。

寝過ぎてしまった。

昨夜が昨夜だったために、疲れていたのは事実だ。

今回ばかりは、ここはよしとしよう。


チラリと隣を見ると、白がモゾモゾと起き出していた。

二人で遅い朝食を摂る。

私は食事を摂りながら、お稲荷さんに逢魔が時に祠に行きたい旨を伝えた。


正直、怒られるのは承知の上だ。

しかしお稲荷さんは、あっさりと承諾してくれた。


あっさりと承諾してくれたことに驚きつつも、これで魍魎との決着をつけることが出来る。

今日の逢魔が時が勝負だ。


長引かせるのは良くないと、昨夜の出来事で判断した。

迷いは、ない。

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