魑魅魍魎12
白の横顔を見ながら、私はまだかまだかと言葉を待つ。
好奇心旺盛なのはいいことなのか、悪いことなのか…
お稲荷さんは自分が話以外のことを考えていることに気がつき、ふるふるとその雑念を振り払う。
さて、一体全体どう話せばいいのだろうか。
あの祠で見たことを、何があったのかを。
簡単に言えば、ありのままを話せばいいじゃないか、と思うだろう。
だが、それだけではきっと実的証明にはならない。
妖関連のことはこの目で確かめたりしない限りは、実的証明にはならないのだ。
つまりは言葉だけでは証明にすらならない、というわけだ。
なんて面倒なことだ、このご時世は。
言葉だけでは証明にすらならないなど。
悶々と考えを隅から隅まで張り巡らせた白は、苦し紛れにやっとのことで言葉を紡ぎ出す。
「辭、俺が今から話すことには嘘偽りはない。
それを分かった上で聞いてほしい。」
最初に前置きする。
お稲荷さんが前置きにそう話すので、私はコクリと頷いた。
珍しいと思った。
彼はほとんどの話に前置きなどしない。
私達は言葉にこそ出さないが、お互いの持ち合わせている全ての情報が嘘ではないことが分かるのだ。
その口から話されることは、決して嘘偽りなどではないことを、私は分かっている。
だからこそ、今更ながらに前置きの中の前置きをするなど、彼らしくないと不思議に感じた。
彼の性格上、私が怒るようなことはしない、話さない、隠さない。
ありのままを私に話すだろうから。
誰の為にもならない嘘偽りをついたって、私やお稲荷さんの得にならないからだ。
「あの祠に着いた俺が見たのは、魑魅魍魎達の集会だった。」
紡ぎ出された言葉に私は目を見開いた。
集会…
宴会とは違うその響きに、私は生唾を呑む。
何だろう、この響き方の違和感は…
宴会だと凄く楽しそうな響きなのに。
集会だと嫌な響き方しかしない。
現代で言えば黒ミサのような集団の集まりみたいな。
そんな嫌な響きを感じる。
あんまり考えたくはないことだが。
私の脳裏にその考えが過った。
「そもそもこの町は最初からおかしかった。」
お稲荷さんの言う通りだ。
どこにでもある活気のあるいい町。
だけどこの町は、最初からどこか変な感じだった。
町の存在感が全体的に薄い。
ここまで存在感の薄い町を、私は見たことなどなかった。
「それもそのはず。
辭、信じられないかもしれないが、この町は…
最初から存在などしていなかったんだ。」
その言葉は私の脳裏を過った考えを真実だと認めざるを得ない。
これは真実なのだ、と…
まざまざと眼前に突きつけられた現実に、私は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
どうしてこうも嫌な考えというのは、百発百中の確率で当たるのだろうか。
お稲荷さんが珍しく前置きをすると思ったら、こういう訳だったのだ。
最初から存在などしていない?
そんなの先程の前置きさえなかったら私は、今頃この横に座っている白を罵っていたに違いない。
いや、完全に罵っていた。
馬鹿にしていただろう。そんなはずはないと。
存在しない町などありはしないのだ、と。
いかんせん、納得はいかないがそもそも不思議な点はいくつもあった。
最初、この町へ向かう際に購入した切符を駅員に見せた時。
あの時駅員は驚いた顔をしていた。
私はあの時は何故そこまでに驚くのかと、逆に不思議に思ったくらいだが。
今思えば、この町が存在しないのならば合点がいく。
こんなご時世に、誰が既にない町の切符を買ってそんな所に好き好んで行くだろうか。
答えはNO。誰もいない。
そんな人、誰もいないだろう。
なるほど、あの時から既に化かされていたというのか…
最初、政府から任が来た時、聞いたことのない町だと思った。
私は日本にある大方の町の名前くらいは覚えている。
だからこそ、不思議だったのだ。
私が聞いたことのない町があることに。




