魑魅魍魎10
白の所に戻ると、その手に持っているストローを刺してあげた。
「何だよ、ストロー?」
いきなりにペットボトルに刺されたストローを、黒い瞳で見つめている。
呆然とはしていたが、すぐにストローを使って飲み始めた。
怒られるかと思ったけど、どうやら気に入ってくれたみたいだ。
その証拠に、白いフワフワのシッポを振っている。
聞くなら今だろうか…
辭は辺りを見渡して他に誰もいないことを確認すると、お稲荷さんに問いかけた。
「今日、何があったのですか。」
沈黙が訪れる。
いつもならすぐに返してくるのに、今日だけは口を固くして開こうとはしない。
白は依然として口を開こうとはせず、ストローを口に含んだままだ。
「……」
お稲荷さんの癖というか、性格は重々分かっている。
もう一年もパートナーとして側にいるのだから。
そう、彼は話したくないことは絶対に口を固くして開こうとはしないのだ。
指切りで脅してもだ。
こうなってしまってはもう聞けない。
諦めるしかないのかと思っていた時、すっかり油断していた私。
「辭。」
「は、はい!」
ついこないだ指切りで約束したばっかりだというのに…。
絶対に話すって。
頬を膨らませていたら、横から声がするではないか。
そう、白がいきなり話しかけてきたのだ。
この件については話してくれないだろうと思っていて、油断の中の油断をしていた私が驚いてしまったのは当然である。
白は私の反応に特に突っ込むこともせず、今まで固くして開こうとしなかった、重い口を開いた。
「辭、魑魅魍魎を知ってるか?」
魑魅魍魎…
これも妖怪の中では結構知られているポピュラーな妖怪だ。
私が頷くと、お稲荷さんは瞳を細めて遠い目をする。




