魑魅魍魎2
『まもなく終点ー、まもなく終点に到着しますー』
車内中に流れる無機質なアナウンス。
「ん?」
ふわあぁ…
大きく欠伸をしながら白は伸びをする。
座席の上に座ると両前足で顔を洗った。
そして目の前に無防備でうたた寝している辭を小さな体で揺り起こす。
「起きろ、辭。」
「んー…お稲荷さん…」
「もうすぐ終点だとよ。」
まだ…と駄々を捏ねる辭。
そんな辭を見たお稲荷さんは彼女は子供みたいだと思った。
実際、辭はまだ二十歳になっていない十九の娘。
人間社会じゃこの年齢は大人として扱うのが、世の中のルールだ。
俺達妖にとっては、人間なんて子供だろうが成人だろうが年老だろうが関係ない。
妖達にとって人間は皆子供みたいな存在なのだ。
それは妖達が老いぼれ揃いだからだと言っても過言ではない。
実際年寄りだもんなぁ…各言う俺も。
まぁ長老さん達から見たら、俺はまだまだ若い方らしいが。
果たして喜ぶべきなのだろうか…
あれ、俺今何歳だっけな?
そういえば百を過ぎた辺りから数えていなかった。
長生きしてたら年なんか忘れてしまう。
抹茶、緑茶好きだし、和菓子好きだし、炬燵にミカンは欠かせないしなぁ…
考え方が古臭くなってきてる。
大分俺も老けたもんだと溜め息をついた。
今までずっと吸ってなかったが…
久しぶりに吸おうと思い、パイプを取り出した。
アンティーク調で陶器の小柄パイプだ。
ハーブを入れ、狐火で火をつける。
柄を咥えスーと吸い、ハーと吐くと久しぶりからなのか少々香りに酔った。
パイプからはいい匂いが漂う。
「いい匂いなのです…」
「おっ、やっと醒めたか?」
「はい。ところでお稲荷さん。」
「んぅ?」
「この匂いはハッカです。
お稲荷さんがハッカを吸っていらっしゃるなんて知りませんでした。
しかも今時パイプでなんて珍しいです。」
あぁ、これのことか…とお稲荷さんがそれを私に見せてくれた。
「昔、知り合いから貰ったものなんだ。」
「そうなのですか。とても綺麗なのです。」
「そうだろう?俺も気に入ってる。
それよりも…そんなに珍しくて意外か?
俺がハッカ吸うのは。」
再びパイプの柄を咥え、フッと笑うお稲荷さん。
私がジッとその姿を見ていると、どうだ?かっこいいか?と聞いてきた。
む、かっこいいと言うよりも。
なんだか…
「なんと言いますか。
どこにでも出没する不良みたいです。」
「んなっ!?不良って…!」
「どうしたのですか?」
「いや、何でもない…」
地味にショックを受けているように見えるお稲荷さん。
お前にはまだこの良さが分からないか。などと呟きながら、再びパイプの柄を咥えていた。
電車のスピードが徐々に落ちていく。
もうそろそろ目的地の近場の駅に到着するようだ。
キキィ…
鈍くも甲高いブレーキ音を響かせながら、私達が乗った電車は、駅のホームに停車した。
『ご利用くださいまして、誠にありがとうございました。
終点へ到着いたします。お降りの際はお忘れ物のないようにお願いします。』
変わることのない無機質なアナウンスを聞きながら、私は荷物を持ちお稲荷さんを肩に乗せると下車する。
降りて辺りを見渡すと降りたのは辭達だけ。
本当に電車を利用する人は少なかったのだと、改めて感じさせられた。
降り立ったのは自然が溢れる町。
山奥にある町だ。とは言っても町にはコンビニもあれば、スーパーもある。
いい町だ。
空気はおいしいし、景色も綺麗。
町の中は小川が流れていて、水は透き通るほどだ。
妖の気配を辿ってみたが、町のどこからも感じられない。
大方、姿を潜めているのだろう。




