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妖御伽譚 上  作者: 鮎弓千景
古き屋敷にてー蠱術家の輪廻ー
110/133

蠱術の憑き物28

ゆっくり、ゆっくりと足元をランタンで照らしながら一段一段降りていく。

静かな地下へと続く階段に私の足音が響き渡った。


それにしても長い階段。

まだ終わりが見えないのだが…

しばらく続く階段を降りていった後、やっと終わりがきた。


「ここが、地下ですか…」


開けた場所に辿りつく。

ランタンで辺りを照らしてみた。

天井もかなり高く、地下であるがために日差しが入らず、地上に比べてやけに寒く冷たい。


そして、奥に続く道が一本ある。

何もない。


「…?

奥へ続く道があるのですから、進んでみましょう。」


もしかしたら、何かあるかもしれない。その一本道を歩いていく。

警戒は決して怠らない。

辺りの景色に変わりばえはない。


奥へ奥へ進んでいくと、扉があった。

その扉から明かりが僅かに漏れている。

もしかしたら、誰かいる?


ここまで来てやっと、私の中で恐怖心が芽生えた。

遅すぎる恐怖心が、ジワジワと体内を侵食していく。


でも、ここまで来たならもう後にはひけない。

スーと深呼吸をして、勢いよく扉を開けた。


「…!」


開けた途端、私の視界に映る光景を見て、開けなければ良かったと思うのに、時間はかからなかった。


部屋の中央には見たこともない円陣。

そして視界に映るもの全てが黒。

それが何なのか理解するのは簡単だった。


酷い…

地上のリビングよりも酷いその光景は、私の拒絶反応を起こすには充分すぎる。

思わず両手で口を押さえた。


頭に声が流れ込んでくる…

悲しそうに、でも憎しみに染まった声達。


『憎い…人間が憎い…

苦しい、苦しい。我々はただ、人間を愛していただけなのに…』


声が止むと同時に、今度は映像が流れ込んできた。

人間と楽しそうに戯れる狗達。

可愛がってもらって、愛してもらっていた。


なのに、ある日人間達は狗に暴力という力を奮い始めた。

豹変(ひょうへん)した主人に怯えながらも、狗達は耐え忍んでいた。人間が好きだから、愛しているから。


きっと、すぐに元の優しい主人に戻ることを信じて、ただジッと耐えていた。

でも、主人は元に戻ることはなく、耐えに耐えた狗達は痛みに悶えながら命を落とした。


『助けて…』『痛いっ』『苦しい』『どうして?なんで?』『我々が何をしたというのか』『信じていたのに…』『愛しているのに。大好きなのに。』


『あぁ、憎い。憎い憎い!

あれだけ愛していたのにっ…

己、人間共め…許さぬ!許さぬ!』


ランタンがカタンッと音を立てて落ちる。

流れ込んできた声も映像も頭の中をあっという間に占めていく。

狗達の苦しみ、悲しみ、それでも人間を愛したい、愛していたい気持ちが痛い程伝わってきて、涙が溢れた。


分かってはいた。今でも蠱術を生業としてきたのなら、目も当てられないような凄惨な光景がそこにはあるということを…


込み上がってくるものを何とか落ち着かせ、落ちたランタンを拾って円陣を照らした。


「え…?」


そこには人が乗っていた。黒い、闇夜よりも黒いローブを纏った人。

生気を感じるため、本物であることは確か。


おかしい。

自分の記憶を慌てて巻き戻してみる。

いつからいたのだろう?

最初入ってきた時、円陣の上には人はいなかった。


この人が現れたのは、私がランタンを落として拾った時…

謎の人は手を広げて、何かをブツブツと呟く。と円陣が光り出した。


私はその光景を、言葉が出らず黙って見ているしかない。

光が収まった後、黒いローブを纏った人と私は目が合った。


これが蠱術なのだ、と否が応でも見せつけられている。

生きた人がいたことにも驚いたが、その人が私の目の前で蠱術をやってのけた方が、何倍にも驚いた。


すると、その人はフッと笑うとまるで景色に溶け込むかのように消える。

いや、正確には掻き消えたのだ。

辭はしばらく呆然としていたのだった。

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