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感情を不要と切り捨てた王子ですが、妻を愛してから様子がおかしいです  作者: ましろゆきな
第一章:契約結婚(ビジネス・マリッジ) 

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第一話:氷の策士

「――東部の堤防を決壊させろ。下流の集落は見捨てる」


 王宮の執務室に響いたその声には、一片の躊躇も、熱も含まれていなかった。


 報告に来た側近が、信じられないものを見る目で息を呑む。


「で、殿下!? あそこには百人近い領民が……!」


「そうであっても、今、水を逃がさなければ、王都の物流拠点が水没する。そうなれば、冬を越せずに飢える民は一万人に及ぶだろう」


 第三王子、サイラス・サファイア・グレイは、手元の地図から視線を上げることなく、淡々と告げた。


 その瞳は、彼の二つ名であるサファイアそのものだった。髪の色と同じく、深く、美しく、そしてどこまでも硬質で冷たい深青色(サファイア)


「百人と一万人。天秤にかけるまでもない。……実行しろ」


 整った美貌で表情を僅かにも変えることなく彼は、すべてを淡々と論理と計算だけで処理する。


 一万人の国民の命を救うために百人を犠牲にすることを躊躇いなく選ぶ。


 そこに「心」が入る余地など、1ミリたりとも存在しないかのように。


「はぁ、わかったよ、サイラス兄さん。それでも、避難できるよう最後まで足掻くよ」


 真っ青になった側近の言葉を繋いで、第四王子アレクセイは肩を竦めると、執務室から音もなく消え去る。


「……まったく、命じたわけでもないのに甘いやつだ」


 だが、弟のアレクセイはいつも彼の決定に反し、たった一人の犠牲も出さずに済むように奔走する。


 感情に判断を左右されるなんて愚か者のすることだ。


 サイラスからすれば、感情は判断を狂わせるノイズでしかないのに、それに右往左往するのは理解できなかった。


 サファイアの髪と瞳を持つ氷の策士はため息を付くと、再び書類に目を落とすのだった。

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