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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第七章 竜の愛し子と魔法使い
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14.辿りついたその先に




 竜王の執務室の比較的近く、リヴァイの執務室にある応接セットに竜王は深く腰掛けていた。


 リヴァイがこの国に特使として仕えてから長い歳月が流れた。昼間は城の一室でミミルファ国や精霊についての案件に携わっていたが、文官の能力は流石なもので、ミミルファとの滑らかな外交ができているのはリヴァイの力の賜物であった。

始めは城の外れに設けた部屋で執務を取っていたが、リヴァイのその才能を生かすには城の中心で好きに動かした方がいいと即座に判断し自由にさせていた。力では竜王に敵わないのだから、城内を勝手に動かれても問題はない。それに、リヴァイの本当の忠心をもう疑ってなどいなかった。

ただリヴァイには、一生魔導師には会うことは出来ないという罰が下っている。

リヴァイの近くに魔導師様の気配を感知するときは、部屋から一歩も出てはいけなかった。罰はたったそれだけ。簡単でいて厳しい、リヴァイに課せられたもの。

 その部屋のソファの背もたれに寄り掛かり、高い天井を仰いで竜王は言った。そのリラックスした様子からは、二人の間には壁のような隔たりは最早感じなかった。




「リヴァイの言っていた海域に、島が出現したよ」


「そうですか…」


「ああ」


「ミミルファから東、ここからですと南東の方角。負の感情に侵されていた当時、様々な場所で引き寄せられる言いようのない波から位置を特定しようと試みておりましたが、やはり私の推測は間違っていなかったのですね」


「竜の国でも定期的に調査をさせていたが発見できずにいたが、なんでも精霊の力で隠していたそうだ」


「ミミルファはまた、瘴気に見舞われるのでしょうか」


「島の監視を強化している。国に向かう前に一掃するようだ」


「左様で。安心いたしました」



「……相変わらず、ミミルファへの忠義は厚いな」


「……」


「もうお前の忠心を疑ってはいない。お前の幸せを見つけてもいいころだと私は思っている」


「……」


「何度も言っているが、もうそろそろ身を固めたらどうだ。せめて側仕えや侍女など身の回りの世話をしてくれるものを召し抱えろ」



「……私は、何も誰も欲しくはないのです。私がこうして、この場所から魔導師様をお慕い申し上げていると言うことがまだ許せぬのでしょうか。結婚して子供もできお幸せに暮らしていると言うのに、私のようなものの想いすら許せないとおっしゃるのですか」


「……お前の執務が更に捗るように整えたいだけだ。ゆっくり体を休める場所もいい加減必要だろう」



「立派な家屋敷も身の回りを世話する者もいりません。私が住まう塔は竜王様が幼少期に過ごされたと言うだけあって立派な居室でございます。竜の国に来た当初の地下の岩石だらけの牢は、私にとっては忘れようもない場所、今がどんなに幸せな環境かわかっております。私のお力をお認めいただき、この地より魔導師様にお仕えできることが至上の喜びです。これ以上の事は私は望んではおりません。このままここから魔導師様の幸せを祈ることをお許しください。それともこんな私にでも、まだ嫉妬なさるのですか」


「……リヴァイ、もう良い。お前の気持ちはよーくわかった。お前の好きにすればいい」


「主の仰せのままに」


「お前の主は魔導師なのだろう?」


「そうですね。私はミミルファ国の特使でしたね」


「では、そのミミルファの為に竜の国が出来る事をもう一度整理しよう」




 二人は来たるべき日に備えて何度も話し合ったことをさらに熱く語った。やれるべき事考えられる全てのことを漏らすことなく万端の準備で迎える為に。






******






 海上では瘴気が今が限界とばかりに膨らみ今にも弾けそうだった。

一見すると何も見えないがその実、結界のようなものが張られていて、それが瘴気を外に漏らさないようにしているのだろう。だがその膜も日々薄くなっているように魔導師には見えた。あれが破れ、瘴気が漏れ出すのは時間の問題だろう。そうなれば、その黒い霧は一気にミミルファへと襲い掛かる。だが、今回は国の沿岸で待ち受けているのではない。破れた瞬間に封じ込めにかかるのだ。

前回の蝗害の後、収集した蝗達を研究した。途中から精霊研究のスペシャリスト集団といってもいいヘファイス国の研究者も加わり、研究を重ねた。しかも今は竜の国の武もある。

この海上で一気に仕留めることは可能だろう。

だが、その後は?島の位置が特定できたなら、生まれ出る瘴気の原因究明に今後は向かえるかもしれない。ヘファイス国ともさらに連携を強めている。



「今日の様子はどうだった?」


「依然、様子は変わらず。ですが結界がもう限界のようです。じき破裂するかと」



 島の監視を取りまとめているものに報告を聞く。膜の様子から数日で限界に到達しそうだった。

竜族の戦士たちがこの場に着くのとどちらが早いか。魔導師はしばらく島を見つめていたが、魔法陣を展開させると上空からふっといなくなった。






******







 ああ、また、だ。また抑えられなくなったようだ。

 この十年ほどは安定して穏やかに過ごせていたのに、ここにきて一気に崩れてしまったな。



 黒い霧に包まれ自身を椅子の背に凭れ、ぐったりとしている。ここを押さえないとこいつらがミミルファを襲ってしまう。ソーイに会えたら、こんな奴らなんて簡単に抑え込んでしまえるのに。だけど、ここを離れた時点でこいつらは暴走してしまうだろう。



 ああ。会いたいな、ソーイ。

 ソーイも私に会いたいと思ってくれているだろうか。



 精霊は光がいくら眩しかろうとも、それが例え自分を焼き尽くすものであったとしても、それを恋焦がれたのだ。

 







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