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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第七章 竜の愛し子と魔法使い
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13.デュモールサン




 父上と母上が忙しそうに過ごす日々に、その声は朗らかに響いた。


「よっ」


 なんとも気安い声にソーイは嬉しそうに駆け寄っていくが、トーイは即座に近寄るのも躊躇われた。トーイの目からすれば、デュモールサンはなんだか胡散臭い。ソーイに並々ならぬ関心を寄せていることも気に入らない。好意とは違う眼差しだろうが、その正体が全くわからない。



「デュモールサン様!お久しぶりですね。この頃お忙しいのですか?ちっとも会いに来てくれないんですね。それとも、こんな子ども達の世話なんていやになっちゃいました?」


「まっさか~。ちびちゃんたち二人は僕の癒しだよ~。ソーイ様は側に居るだけですっごく癒されるし、トーイ様はなんていうか、その、安心?するんだ」


「ふふふ、大人なデュモールサン様が安心って。でも、わたしもトーイがいると安心しちゃうから、デュモールサン様のこと言えないわ」



 ソーイとデュモールサンの緩い会話に和む。ソーイに安心感は与えたいが、デュモールサンへはトーイにとっては不本意だ。



「特にソーイはさ、身を削られないっていうか、どちらかといえば満たされる気がするんだよね」



 こんな小さな子ども相手におかしいよね、ってデュモールサンは笑っていた。

「わかる気がする」と全く思っていない言葉を小さくつぶやいてみた。聞かせるつもりもない、自分の良心を納得させるためだけの台詞。だけどその言葉はデュモールサンには聞こえていたようで、「やっぱり混ざり合うからかな」と言ったようだった。意味が分からなかったけれど、そう答えるのが何だか癪で曖昧に笑顔で濁しておいた。



 ソーイに見せる態度は気に入らないけれど、デュモールサンは人として面白い人物であることは間違いない。世界各国を旅しているだけあって、知識は豊富だし面白い体験談を話して聞かせてくれる。やることも大胆ゆえに失敗談も群を抜いていて、その親しみやすい性格にソーイは疑うことも知らない。デュモールサンが訪れればいつもまとわりついて離れなかった。そしてその様子にデュモールサンが喜び、トーイは面白くないといったエンドレスループが完成していた。


二人が成長するにつれ会いに来る感覚は開いてはいったが、相変わらずミミルファ国には来ているようだし、母である魔導師の元には定期的に訪れてはいるようだった。トーイは幼いころ一度デュモールサンに尋ねてみたことがある。



「うちの母上のことが好きで会いに来てるの?それともソーイ?」



 デュモールサンは一瞬驚いた顔をしていたが、笑いながらやさしく答えてくれた。



「魔導師様は俺の体を治療してくれたんだ。今は治療後の健診みたいなもので、定期的に見てもらってるだけだよ。ソーイのことは好きだけど、それはトーイに対するものと同じように好きだと思っている、今はね」


「今はってことは、」



 そこまで言いかけて、近くにソーイの近づいている気配を感じて口を閉じた。デュモールサンの笑みが違う種類のものに変化したが、それを突っ込めるような時間もなく、やってきたソーイはまたデュモールサンに纏わりついた。




******




 今またデュモールサンに纏わりついているソーイはとても楽しそうに旅の話を聞いている。最近は竜の国で過ごすことの多い二人だったので、デュモールサンがわざわざこの国にまで会いに来てくれたことがソーイにはとても嬉しいことのようだ。ころころと笑うソーイにトーイも癒されるが、この笑顔にデュモールサンも癒されているかと思うと少し面白くない。じとっとした視線を纏わりつかせていたが意に介さない様子で、デュモールサンが小声で二人に話をし始めた。城にあるサロンの窓からは緑豊かな景色が広がっている。美しい風景を眺めながらゆったりと話すデュモールサンはしばらく当たり障りのない話をした後、手を差し出して指をくいっと動かす。

「顔を近寄せて」の合図だ。声を潜めてデュモールサンが話すことはいつものことで、その話に二人は身を震わせたり、きゃっきゃと声を出して笑ったりというのも毎回のこと。なので、側に仕えている侍女も扉の前の騎士も温かい眼差しで三人の様子を眺めていた。今日は一体どんな話をして子どもたちを揶揄うのだろうと大人たちは見ている。





「竜族の国ってお二人はご存じですよね?」


「ええ、竜の国より北にあるのよね」


「はい。竜の国とは違って皆が竜の姿をしており、人化できるのは力が強いものだけになるのです」



 以前にはそうやって、竜族の国について二人に話してくれたこともあった。

竜族の国は昔から国交もあり騎士のイフーが時折行くこともあったので噂だけは聞いていた。だけど、寡黙なイフーからは詳しい話は聞けないし、デュモールサンのように面白おかしく話す話術もない。ソーイの<書>はミミルファの事象が中心で、それに次いで竜の国、そしてミミルファの近隣諸国のものが多かった。いまも母である魔導師と細く繋がっているが、それは安定した母の御代が続くことの表れだろう。ならば<書>の知識が穏やかに増えていくことはむしろ喜ばしいことであった。「知らない」と正直に言えることは誇らしいことでもあるとソーイは思っていたから、デュモールサンの話に驚いたり感嘆の声を漏らすことは恥ではなかった。

 だからそんなデュモールサンからいつものように小声で言われた言葉に非常に驚いたのだ。



「ここだけの秘密ですよ。闇の精霊様が竜族の姫を連れ去ったらしいのです」と。


 そして


「ミミルファの遥か東の海上に、闇の精霊の島が出現したらしいですよ。この頃お二人が竜の国にいるのは、ミミルファが瘴気に襲われるのを警戒して避難させているのです。内緒ですけどね」



 秘密とばかりに人差し指を口にあて、にっこりとウィンクまでして見せた。





******





 その晩、寝台に二人は無言で寝転がった。

大きな寝台は特別注文の品で、家族が四人寝ころべるサイズの物だった。この頃は流石に朝まで四人で寝ることはなくなったが、両親のどちらかが、二人が眠りにつく前にやってくる。それぞれの部屋もあるのだが、仲の良い二人はあともう少しだけ一緒に寝たいといって同じ寝台で眠っていた。トーイの宝玉が消えたことと竜族の姫が攫われた事件もあって、両親は二人が一緒に過ごすことを良しとしていたので、二人きりのこの時間は貴重なものだった。


 沈黙を破りソーイが口を開いた。




「ねえ、この間、竜族の国に連れて行ってもらえたのは、きっと調査の為だったのね」


「僕の宝玉の探索も、竜族の姫が僕の番か疑っていたのかもね」


「トーイは番だと思う?」


「わからない。だけどあの国に僕の宝玉はなかった」


「そっか。でも闇の精霊が連れ去ったってどういうことなんだろう」


「彼はなんて?」


「……この頃、会いに来てくれないからわからないわ。でも関りはないはずよ。だって私たちが竜族の国に行く前まで会っていたのだもの。彼が関係していたら、私が竜族の国に行くことに何か言っていたはずだわ」


「ああ、そうだな。あいつがソーイを騙すとは思えない」


「でも……こんなに彼が会いに来なかったことはないの。不安なの。彼にも何かあったんじゃないかって、」



 そこで扉がノックされて開いた扉に竜王の姿が見えた。ふたごは口を噤み何もなかったかのように迎える。父親の大きな掌に頭を撫でられるとそのまま父親の話す穏やかな話に耳を傾け、いつしかゆっくりと眠りの世界に引き寄せられた。










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