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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第七章 竜の愛し子と魔法使い
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08.ソーイの場合




 初めての竜の国はソーイにとっても心躍る楽しい旅だった。

岩だらけの山々に驚き、精霊の少なさに心が沈み、だけど見たことのない景色に心が洗われ、新しい風に気持ちが軽やかになった。



 トーイは父上と一緒に探索の名のもとに竜族の国の各地を巡っている。ソーイは母の魔導師とともに城に留まり、昼は魔道具の説明と指導に追われ、夜は歓待の宴を受けていた。ソーイも母と一緒に歓待を受け、料理も宴の曲も踊りもそれら全てが初めて目にするものばかりで刺激を受ける日々ではあったが、気がかりが一つあった。


 小さなころからの友人のことだ。





「竜族の国へはそんなに長くは滞在しないみたいよ。すぐに帰ってくるから、わたしのことを待っていてくれる?」


「ああ、もちろん待っている。だけど、こんなに長いこと離れていたことはない。心配なんだ。私は君無しで正気を保っていられるだろうか」


「わたしもあなたが心配だわ。行く前に私を十分補給していってね」


「ありがとう。でも、用事が片付いたら、一刻も早く戻ってきてほしい」


「そうね。でもわたしの意思では日程は組めないの」


「ああ、わかってはいるんだ、でも……」




「こうやってミミルファにやってこられる様に竜族の国にもこられないの?」


「竜族は精霊信仰の国ではないから、ミミルファのように気安くは行けないんだ。仮に行けたとしてもなにかあったらと思うとね」


「そうなんだ。精霊の力も不自由なのねえ」


「ふふ。ソーイのように精霊の力をそんなふうに簡単に括ってしまう人はみたことがないな」


「そう?起きている出来事が真実なのよ。力があるとか、加護が大きいとか言われてもわたしにはよくわからないのだもの」


「そんなソーイだから私は心安らぐのだろうな」




 心安らぐと言われて、とても嬉しかった。私の方がその大きな温もりに包まれているようで、側に居るだけなのに幸せな気持ちになった。溢れだしたそんな思いに比例するかのように魔力も漏れ出してしまったのだが、その黒い霧はそれらをからめとると満足そうに声をこぼした。



「ああ、ソーイの魔力は甘い蜜だ。金色に輝いて蕩ける。これで私もしばらくの間は力を保てるだろう。だけど、早く帰っておいで」


「ええ。わたしもさびしいもの……。あっ、トーイがやってくるわ。見つかっちゃったかしら」






「二人とも、みーつけた。ダメだよソーイ。魔力をもらしただろ。そんなんじゃ、かくれんぼにならない。今頃ユーキも魔力に気付いて、心配してるに違いない」


「そうね。きっと隠れていられずに、やってきちゃうわね」


「あれ以来、かくれんぼは禁止されてたのがようやく復活したんだ。これでまた禁止されてしまったら困るだろ」


「そうね。おしゃべりしてたらつい、気分がね。気を付けるね」


「あ、ほら。ユーキがやってきたよ」




 トーイはユーキに向かって駆けだすと「ユーキみーっけ!」と大きく叫んだ。




 わたしの迂闊さのせいであのあと彼にきちんと挨拶できないままで竜族の国に来ることになってしまった。彼は、大丈夫だろうか。今までこんなに離れたことがなかったから心配でたまらないのだ。ヘファイス国やエノシガル国に出かけた時だって彼は現れてくれたのに。理の違う国ではままならないことがあるのだと幼いソーイは身をもって知ったのだ。



******



 昼間、母親である魔導師のする説明を聞いていた。

魔道具は魔導師の知る魔力を感知するようにつくられているそうだ。母はそんな道具を使わなくとも魔力を感知できるし、残骸ですらある程度見極められるらしい。

母の力は偉大で誇らしい気持ちになったソーイだが、母はそれだけでは納得していなかった。竜の国がそうであったように精霊の力を感知できない者が世の中には多数いる。ミミルファにはいなかったけれど、そのことを利用し悪用するものもいるかもしれない。精霊の力がそんなことに使われるのは許せない。そう考えた魔導師は力を可視化する術を求めた。そして、竜の国の魔力も見てみたいと考えた。

 そうして生まれた魔道具だったが、普段は竜の国で王城勤務の試験に使われていたりする。精霊に好かれるもの、精霊の加護を多く得られるものを見極めるのに使用している。

この魔道具開発にはヘファイス国も携わったのは言うまでもなく、ヘファイス国でも同様の使われ方がなされているそうだ。


 いつもいっしょにいる優しい母が周りから崇め讃えられているのを見ていると我が事の様に嬉しい気持ちで溢れる。自国に居て両親がすごいことは周りの様子からわかってはいたが、竜族の国に来て改めて思い知った。

 会談の席でミミルファ国の魔導師が言った。



「竜の国からおおよその話を聞いておおよその内容検討はしておりました。アドニスあれを」



 魔導師がそばに控えていた者を促すとアドニスと呼ばれたその男は、手に持っていた美しい箱を机の上に置いた。






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