07.告白
「……話っていったって、特筆すべきことは何もないだろ」
「そうかもしれませんが、私にとっては……、いえ、何でもありません。レン兄さまが無事ならそれでよいのです」
「無事って。王城に勤めているだけだ。何の危険もない」
「ですがこの頃お疲れと聞いて、心配していたのです」
「……誰から、聞いた?」
「???」
「私が疲れた様子だと、王城での様子を誰に聞いたのだ」
「???イーロスから、ですけど」
イーロスともしばらく会っていない。先日、セティの家の庭で二人の逢瀬を盗み見たぐらいが最近のイーロスとの接触だ。ということは、私の様子は、殿下を通してフェンネラ様、フェンネラ様からイーロスに伝わったということか?
「お前は俺の心配なぞせずに、イーロスのことだけ心配してればいい」
「???なぜイーロスの心配を???」
「……俺に隠さなくていい。先日見たんだ。二人で、その、……いるところを」
「???イーロスとはよく一緒に居るので、なんの心配もしていないですよ?」
「…そうか。お前たちが仲が良いなら、何も言うことがない」
「はい!レン兄さまが紹介してくださって、本当に感謝してます」
ああ、あの時の俺を俺はぶん殴ってやりたい。よりにもよって、何故イーロスなんて完璧な男を紹介してしまったのだろう。
「イーロスは本当に忠義に厚いので、私のことをとても大切にしてくれるのです」
「……そうか」
「はい。今回もお庭で一緒に花を選んでくれて」
「……そうか」
「始めカサブランカを選んだのですけど、きっと可憐なお花の方がいいだろうとアドバイスしてくれて」
「……そうか」
「その後も毎日足していく花の彩りとか匂いの組み合わせとか、とても繊細な指摘をするものですからおかしくって」
「……そうか」
「私よりもよくわかっているんじゃないかって思うくらい」
「……そうなのか」
「学生時代も教室に毎日押しかけていたのですものね。詳しくなりますよね」
「……?そうか」
「それで、いかがでした?」
「……なにがだ?」
「お花ですよ」
「花?……花は、癒される。とくに可憐な小花と爽やかな香りがいい」
王城の仮眠室に飾られた花瓶を思い出してアクローレンは言った。
「……レン兄さまってばやっぱりイーロスと付き合った方がいいんだわ。私よりも気が合うのね」
「やっぱりとはなんだ。イーロスとは断じてない!あるわけがない!!」
「ふふ、そう?ならよかった。安心した。取られちゃうかと思った」
「取るわけがないだろう。こんなにも思いあっている二人なのに」
「!!!……嬉しい。レン兄さまがそんな風におっしゃってくださるなんて夢のようだわ。わたし、どうしたらいいのかしら」
「どうもこうも。愛し合う二人の仲を裂くことのできるものなんていないだろう」
自嘲気味に言ってから、笑ってしまった。セティとイーロスの間を切り裂けるはずもない。こんなに惚気まくるセティに何を言えばいいのだ。
「レン兄さまって、ロマンティストでいらしたのですね。そんな甘い言葉を言われたら、わたし……」
「甘くはないさ。本心だからね」
俺の精いっぱいの強がりだ。なのにセティからまさかの畳みかけるような攻撃。
「わたし、イーロスのこと、信じてよかった」
「……」
「レン兄さまは忙しくって、全然ご自宅には戻られないし、私とは全く会って下さらないし。私、嫌われちゃったのだと思って」
ああ、自分を罵ってやりたい。力の限り、蹴飛ばしてやりたい。
もっと早くにセティへの想いに気付いて、セティの元へ通う日々を過ごしたかった。
「でも、イーロスが信じろっていうから」
「……(イーロスめ~~~。いや、イーロスは悪くない。俺が駄目な奴なんだ)」
「学校を卒業したら、迎えに来てくれるからって。学院にいる間の護衛を自分は任されたのだから心配しなくていいって、何度も何度も言うから」
「???」
「はしたないって思われたくなくて聞けなかったけれど、今日こんなにレン兄さまに愛情のこもったお言葉をいただけるなんて。待っていてよかった」
「???」
「レン兄さま、大好き!……ううん、愛…してます」
「?ああ……???俺もセティのこと…愛してるよ」
何がどうなってこうなっているのか、その時の俺はよくわからなかったけれど、とても幸せな気持ちに包まれたことだけは、よくわかった。




