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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第五章 執務官アドニス 十六歳の秋
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05.アドニス爆誕?




 いきなりの魔力波にアドニスは咄嗟に身構えたもののシールドも瞬時に発動させた。自分の身を守るくらいの大きさのものは長い詠唱なんてなくたって展開できる。

男からの連続の攻撃にひたすら受け身になるアドニスだったが、このまま一方的に押されるのも癪だ。魔力差に明らかに大きな開きがあるのは一目瞭然だが、それでも一撃くらいは当てたい。当てられなくてもあっと思わせるだけの、なにか……。


だが魔力だけでなく体力差も目に見えて、アドニスの動きは緩慢になってきた。そしてシールドの展開が出遅れた僅かの隙、男は一瞬口の端を上げたように見え、次の瞬間、大きな魔力波を打ってきた。


 避け切れない……。


 鍛錬場にいた全員が二人のやり取りを終始見ていたが、その誰もがそう思った。

波は大きく早く、アドニスの顔面ぎりぎりに迫っていた。男の波が当たり、アドニスは膝をつくだろう。すぐに治療の手配をしなければと観客と化した魔法士達は思った。

男も確信したように反撃に対する防御の構えは取らず、アドニスをただ見た。


 


 がその刹那、波は弾かれたように男へと跳ね返った。慌てた男が態勢を整えたが間に合わず、それでもと覆ったシールドの端を砕き進んだ。


男の頬から一閃の血が浮かび、つっと顎へと伝った。





「……これほどまでに、クリアとはな。しかもその前の陽動と予め打たれた幾つかの布石。面白かった。また手合わせ願う。明日のこの時間もここで待っている」



 そう言って男は踵を返した。



 男がいなくなった途端、鍛錬場にいた魔法士達が集まってきた。みんなが口々にアドニスを讃える。





「すごいな、お前。あの団長に傷つけるとは」


「後半圧されまくってるとばかり思ってたけれど、まさか作戦だったとはな」


「あんなに見えないシールド張れるなんて」


「ってことは初めから狙ってたってことだろ」


「ずっと綺麗なシールドだと思ってたけど、最後あんなに純度があがるなんて」


「俺なんて、全然見えなくて何が起こったか始めわからなかった」


「魔力もすごいが、頭もいいのな」



 今ここにいる魔法士達は、先ほどの団長を除き先日の沿岸警備には行かなかった者達らしい。行った者達は魔力回復に努めている最中で、ここで鍛錬できる状態ではないそうだ。



「お前も、あん時シールド展開したっていうのに元気だな」


「俺は、短時間だったので」


「その若さでそれだけ出来ればすげーじゃん」


「でも規則を破りました」


「ははっ、やんちゃだな」


「やんちゃって……」


「生徒を守る為の規則だからな。ま、そのうち処分が下されるだろう。

がその前に、だ。この後ちょっと付き合え」





 アドニスを囲んでいた中の一人がそういうと、俺は城の上階にある統括室と呼ばれる部屋に連れていかれた。自由にしていいったって程があるだろ、と俺ですら思う。統括室に向かう道のりでその魔法士は説明してくれた。



「俺は、ケイクロプス。統括室に勤務している。今は息抜きに体を動かそうと修練場に行っていたのだが、おかげで良いものが見られた」


「はあ」



「統括室はその名の通りミミルファの機関を統括しているわけだが。興味はないかな?そもそも君は何を目指していたのだろう。沿岸警備かな?」


「漠然と、魔法士として、しか」


「では、ここにいる間に目標を具体的にすることをお勧めしよう。第一魔法士団の団長もああ言ったことだし、我が統括室も君に興味を持った。まあ、君が何に興味を持ち職業とするのかは、自由だ」



 また、自由……。俺が興味を持ったところで処罰されるのだろうに。



「入室可能なのは前室に限られる。君には現在余暇もあるだろうし午前中は統括室で研修生として学ぶことをお勧めしたいね。午後は鍛錬場、夜は読書。いいサイクルだと思わないか?」



 ここの人間は自由すぎる。しかも読書って、自分の行動を監視されているようで不快だ。事実監視されているのだろうけど。だが、統括室に入るとその思いも吹き飛んだ。






 沿岸地域に住んでいる人間は魔力のあるものは警備に就くものだと、そういうものだと思っていた。だが、城において魔力の使い方はいろいろあることをそこで改めて知った。もともと知力を使った戦いや防衛は嫌いではない。だが、国そのものの運営をすることに興味を惹かれた。


 そしてもう一つ、とても重要なことだったがここにいれば魔導師様にお目にかかれる機会が非常に多いのだった。


 アドニスはケイクロプスの言ったように午前は統括室、午後は鍛錬場、夜は読書という充実した毎日を過ごした。








 そして、アドニスは処分を下される。





 城へ通い一から学ぶこと、と。






*****








「どうしたの、アドニス。疲れているんじゃない?」


「いえ、少し過去の事案について考えを巡らせておりました」


「そう?アドニスへの負担がこの頃更に大きくなっているのはわかってはいるのだけれど、つい頼ってしまって。でも、休んだほうがいいんじゃない」


「いえ、大丈夫です。それにこの後ヘファイス国と会議がありまして改革について意義のある会になると思い非常に楽しみにしているのです」


「ああ、アクローレンさんね。かなり優秀だってお聞きしたわ」


「ええ。ヘファイスは研究者気質のものが多いのですが、彼は考え方も発想も柔軟でして、若さによる勢いにもとても良い刺激を受けます」


「ふふ。楽しそうね、アドニス」


「彼とは、年齢差を超えいろいろと意気投合する部分があるというか」


「優秀なアドニスがそうやってお付き合いできる方ができて良かったわ。わたしにとっての、フェンネラ様のような方なのね。それか妹のようなリアかしら」


「そんなっ、私を魔導師様にお例えするなど恐れ多い」


「もう、アドニスったら真面目なんだから」




 

 魔導師様は無邪気に笑われる。

でも、確かに。彼とは気が合った。共通点もありそうだ。

高嶺の花に恋焦がれたもの同士、とか、ね。


会議の資料を眺めながらアドニスは小さく笑った。







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