05.番を探せ
結論から言えば、見つからなかった。
真剣に研究に取り組むイーリヤ様に、いつもの如くオシアノス殿下が執拗にまとわりつきながらの作戦を決行した。
「ねえねえ、この間さ、竜の国の騎士が……」
とユーキの話を研究室内のみんなに聞こえるように大きな声で面白おかしく吹聴した。
隅で静かに作業する研究員の一人がピクリと眉と体を動かしたことを確認し、ユーキの番であろう人物が見つかるのは時間の問題だなとオシアノスは確信した。
のだが、
「シア。ユーキ様の運命の方は、へファイス国にはおられないようですよ」
予想と違う結果にオシアノスは驚きを隠せない。
「この間の話に興味を持った研究員が一人、善意で、調べてくださって。結局、最終的にはフェンネラ様にお話されて、調査してくださったようです」
「フェンネラ様が。それは大変申し訳ないことをしてしまった」
「うふふ。そうでもないようですよ。フェンネラ様は全てのことに研究熱心な方でしたわ。とても楽しんで検証されていました」
「……そうか。それなら良かったけれど。それにしても、見つからないとは、どういうことだろう」
「フェンネラ様によると、へファイス国の記録には、ユーキ様の目撃された人物に当てはまるような方はいらっしゃらなかったようです。
ですが、誰かが転移魔方陣を使用した形跡はあったそうです。しかも、ミミルファ国からへファイス国に、です。
でも、おかしいですよね。ミミルファ国では該当者がいないと既にもや様がおっしゃっているのですから。この謎にフェンネラ様は、俄然やる気を出しております」
「な、謎?い、いいのか?」
「よろしいのではなくて。シアは、私に世間話をしてくれただけ、でしょう。たまたま、研究室で、ね」
「ま、まあ、そうだな」
「進捗状況は、フェンネラ様が教えてくださるそうなので、楽しみにしていて下さいね」
外交問題に発展しそうな内容にオシアノスは戸惑っていたが、フェンネラ様に期待を寄せ、すぐに解決するだろうと自分を納得させた。
相変わらずオシアノスは詰めが甘いのである。
******
「ユーキ…」
低く柔らかな声が、怒気を纏っている。
ここは竜の国の竜王陛下の執務室。
竜王の隣に大魔導師、竜王の前にエノシガル国の王太子オシアノス殿下が腰を掛けている。
竜王とオシアノス殿下の座るソファの間に縮こまって立つのはユーキ。
リアからの情報に一大事とオシアノスは竜の国へ駆けつけ、竜王へと事情を話した。
「待ってください、ユーリ。ユーキは何も悪くありません。私の軽はずみな行動が原因です」
毅然と話す魔導師様に慌ててユーキが言葉を被せた。
「違いますっ。安易にもや様とオシアノス殿下に話した私が悪いのです」
「ユーリ……。私も含めて、誰もがまさかこんなことになるとは思っていなかったの。ユーキ様を叱るなら、私も受けるわ」
そう話すもやにユーリは、複雑な表情をする。
そうだ、誰もがこんな結果を想像していなかったのだ。
その時間、どの国にも転移魔方陣を使用した<番>と思われる人物に該当するものがいたと言う記録は見つからない。なのにミミルファ国からヘファイス国へと誰かが移動した形跡はある。
へファイス国の魔方陣に不具合があったのか。
ミミルファ国が何らかの意図して使用者を隠蔽したのか。
今水面下ではざわめき立ち、国を揺るがす大事件となっている。
ミミルファ国とへファイス国との移動は竜の国とミミルファ国間と違って、移動できる人数が大勢だ。秘密裏に探し出すのは無理かもしれない。
ユーリは居ずまいを正すと、もやに向かって話し始める。
「大魔導師殿。該当者はいないと言ったがその他の時間も調べた方が良い。その日の前後を順に出入国者を一斉に洗い直した方が良いだろう。不正があってもなくても、必ず記録は残っているはずだ」
「そうですね。その時間にこだわった為に見えていなかったものがあるはずです。早急に取り掛かります」
魔導師がそう言い視線で促すと、壁に控えて立っていた文官の一人が部屋から退出した。
「それでへファイス国はなんと?」
しかめっ面のまま問うユーリにオシアノスは内心ビクつきながらも表向きは冷静に返す。
「まだフェンネラ様の言動しか把握していない。フェンネラ様は探究心でいっぱいのご様子だったので、まずこちらでやれることはやっていた方が良いだろうと判断した」
「そうですね。ひと月程記録を遡ってもわからないようでしたら、へファイス国へ参ります。我が国より不審人物がへファイス国へと入国したという事実はあってはならないことですから」
とそこまで言って、魔導師様は何かに気付いたように目を輝かせた。壁側に控えていたもう一人の文官に視線をやると文官は直ぐに魔導師様の側にやってきて腰を屈める。文官の耳元で何かを囁いたようだが、文官はそのまま低頭で部屋を出て行った。
三人で<今後の国の対応について>という内容でお茶会が行われた。ユーキは相変わらず固まったまま直立不動。それだけ見ていれば騎士の鑑のようなポーズだ。
各国の文官達は「お茶会っていうよりもはや首脳会談だろっ」とツッコミを入れたい。確かに以前なら本当に気のおける者の集まりのお茶会だった。
だが、最近オシアノス殿下の成長が目覚ましい。イーリヤとの出会いが彼をさらに成長させた。竜王や魔導師と話すオシアノスは一国を背負ってる感がある。
ミミルファだけでなく、竜の国とミミルファ国の文官達の感慨もひとしおだった。オシアノスとユーキのわちゃわちゃぶりを知っている竜の国は特に。
そんな中、慌ただしく部屋の扉がノックされた。
扉を開けるとそこにはミミルファ国の文官に付き添われた女性が、深々と頭を下げたまま立っていた。




