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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第三章 高慢に偏見
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19.魔力測定器と魔道具と

 



 その後、エノシガル国はへファイス国と正式にやり取りを重ね、魔力測定器改良の手筈を整える。


 測定器の改良は、男女関係なく魔力量を測れるようにすること。微細な量はあえて測らず、どちらかというと魔力の性質がわかった方が良い。何の精霊の加護が多いかわかれば尚良いけれど、それらは追々改良を重ねる予定だ。


 優先は男性の魔力も測れるようにすること。


 強大な魔力を持つ殿下が魔力協力という体でへファイス国のイーリヤに頻繁に会いに行く口実を作る為の研究課題のようにも思えるが、迅速な開発をするため魔力は沢山あった方が良いからとオシアノスは言う。

職権濫用じゃない?とイーリヤは言ったが、議会で通ったらしいので良しとした。


 測定器が開発でき次第、男性にも高魔力があるものがいることを国民に公表することになっている。それによってこの国の慣習は大きく変わるだろう。変革時、穏やかな治世ではなくなるかもしれないが、リアとなら乗り越えて行けるとオシアノスはこれから迎えるであろう激動の未来を思い描く。







******







 全ての手続きが終了し、イーリヤとともにヘファイス国へと向かう。もちろん、ユーキの背に二人乗って。といっても、向かう先はへファイス国の隣国ミミルファ。へファイス国へはミミルファから転移魔方陣で移動する。

 現在竜の国とミミルファ国、そしてへファイス国の三国は転移魔方陣で繋がっている。今後は、エノシガルも各国と繋がって行く予定だ。これで、互いに研究開発が進むことは間違いないだろう。




 竜の背で、婚約式も済ませ心の距離が更に縮まった二人は初々しさは感じられるも、イーリヤは殿下の腕の中が自分の居場所であることは疑う余地もないといった様子でくつろいでいる。収まり良く座るリアに殿下はご満悦のようだ。残念なのは、二人きりではないという物理的現実。


「俺の事は、ただのドラゴンで無機質な乗り物だと思ってくれ」とユーキは言ったが、背の二人の会話に度々割り込んでくるのは、ただのドラゴンには出来ないし、無機質でもない。

エノシガルで長期休暇を取り城もリゾートホテルも満喫したユーキはイーリヤともすっかり意気投合し、ミミルファへの空の旅はおしゃべりしながらあっという間のひとときだった。





******





 ミミルファ国につくと、へファイス国からはフェンネラ様が迎えに来られていた。始めに出迎えてくださった魔導師様に感謝の意を伝え、フェンネラ様の前へと移る。

「久しぶりね」と言葉を交わしながら意味深長な視線をイーリヤに送る。イーリヤも笑みを深め、軽く頷きながらフェンネラへと視線を返す。フェンネラ様の様子にお願いしていたことは順調であることを知りイーリヤは、ほっと胸を撫で下ろす。

そんな様子にも気が付かず、オシアノスとユーキは別れの言葉を交わしている。




「何度目かの別れか数える気にもならん。どうせすぐ会えるんだろ」


「そうだな。毎日会えるってことはさすがに無いだろうけど、半年会わないってこともないだろうな」


「はぁ、なんの感慨ももうないわー」


「そう言うなよ。俺は寂しいぞ」


「…シアっ!」


「お前にシアと呼ばれたくない」


「なんだよ、持ち上げて落とすなんて傷つく。いや、これが押して引いての恋愛達人か!?」


「お前に駆け引きしてどうすんだよ」


「俺のときめきを返せ」



 相変わらず仲が良いねと周りが生温かい目で見ているのも気付かずに笑って、「じゃあな」と言って挨拶する二人はイーリヤが妬けるほどに仲睦まじい。





******





 転移魔法陣でへファイス国に移動する為、魔法陣の間に移動する。オシアノスにとっては初めてのヘファイス訪問なのでとても楽しみにしていた。ヘファイス国への魔法陣が光り輝く。淡い砂色の光陣が浮かぶとあっという間にヘファイス国の転移陣の上だ。



「おかえり、私の女神!」



 移動した途端に聞こえたきた声に「ああ、ヘファイス国に到着したって感じがするわ~」とイーリヤは思った。否、声に出てた。

ヘファイス初訪問のオシアノスにも目もくれず、真っ先にフェンネラ様に駆け寄るメイテウス殿下に今日もヘファイス国は平和ねと、日常を噛み締める。隣を見るとシアは目を見開き、メイテウスとフェンネラの二人をじっと見ていた。

「毎日のことだから、すぐに慣れるわよ」と小声で教えてあげたら「メイテウス殿下のお気持ちはよくわかる」と返された。



「そうよね。フェンネラ様は本当に女神様なの。見かけだけじゃなく中身もお美しい方で」

「そういう意味じゃないよ」


イーリヤの言葉を遮るようにオシアノスは、でも優しく言葉を重ねる。


「??」


「私にとっては、リアが女神だ」



 突然の甘いセリフに驚いて言葉が何も出てこず、ぱちくりとシアをみつめていたら「んっ、うんっ」とわざとらしい咳払いがする。音のした方へ恐る恐る顔を向けると、メイテウス殿下とフェンネラ様がにやにやしてこっちを見ていた。


 いや、二人がその反応するの、おかしいよね。





 オシアノスは王太子殿下としての務めを果たすため数日ヘファイス国に滞在した。研究に貪欲なヘファイス国は新しい魔道具、新しい魔力に研究員も意欲的だそうだ。最終的に共同研究開発の調印を済ませ、オシアノスは帰国することとなった。


 オシアノスがエノシガル国に戻る日。かねてよりフェンネラ様にお願いしていた魔道具をシアに渡す事にする。

 


「シアにこれを」



 イーリヤの魔力を込めた魔石だ。シアが王妃に包まれて守られていたようにイーリヤの魔力で包み込んで不快感を緩和できたらいいなと思い、フェンネラに頼んでいたのだ。


受け取ったシアは目を見開く。



「ありがとう!驚いたよ。めちゃくちゃ嬉しい」



 イーリヤの魔道具案を聞いたフェンネラ様は、楽しそうねと言って早速取り組んでくださった。イーリヤの魔力は小さなころから研究対象だったし、定期的にヘファイスに訪れていて(それをフェンネラ様は定期検診と呼んでいた)ので、従来の魔道具と組み合わせればさほど時間はかからないだろうと引き受けて下さった。新しいこと、面白いことには目がないフェンネラ様によって、あっという間に出来上がったらしい。心なしか、目の下に隈があるような気がする。フェンネラ様には随分迷惑を掛けたのだろうけれど、「新しい研究課題と豊かな魔力量は精霊の恵み」と目を輝かせていたので、気にしないことにする。



「リアが私のために用意してくれただけでとってもうれしいのに、こんなすごい贈り物もらえるなんて」



 シアのあまりの喜びように若干後ろめたい気持ちが湧いてくる。

フェンネラ様から受け取った時、「これさえあれば安心してシアと離れて研究開発に専念出来るわ」とガッツポーズをしてしまったイーリヤだからだ。

自分がいないことでシアが不快な思いをしてるんじゃないだろうかとか、レイに迷惑を掛けてしまうなとか、そういったことを日夜気にしないで済む、利己的な考えから生まれたものだ。


 これで、レイも文官に戻れるかな。外交官になって、世界を飛び回れるといいなと考えていると



 「私からもリアにプレゼントがあるんだ。フェンネラ様、お願いします」



 そう言って、あれよあれよという間にフェンネラ様とシアの二人で魔法陣の間に新たな転移魔方陣を設置してしまった。

エノシガルへの転移魔法陣は、海の色で波しぶきが飛んだような輝きだったが唖然としてしまい、ただ茫然とイーリヤはみつめていた。



「リアがフェンネラ様と、こそこそしていたのはわかったからね。私も驚かせようと思って。それに、

これでリアがへファイス国に行きっぱなしになんかならないよ。もしくは行きっぱなしになっても大丈夫」



 ニヤリと笑うシアの目があんまり笑っていないようだ。



 ああ、私の考えることなどお見通しですね……。




 しかし、恐るべきはフェンネラ様。どちらも短期間で同時に開発してたなんて。

シアにプレゼントをする魔法石の仕上げに私の魔力を提供していたのだが、その魔力を利用して魔法陣開発の最終調整も行っていたらしい。転移魔法陣開発の折には魔力提供すると約束していたけれど、すでに研究が行われていたとはね。

「イーリヤの魔力のお蔭でサクサク進むのよ。それにきっとこうなると思っていたから、事前に対策は練っていたのよ」とフェンネラ様は嬉しそうだ。目の下、隈だけどね。さすが過ぎます!


 付け加えるとこの後フェンネラ様はシアと共にエノシガル国に転移陣設置に向かった。シアとの二人旅を許さないメイテウスも同行し時間短縮のため船旅は選ばず、ミミルファから竜の国の護衛騎士に送ってもらった。シアの乗る竜はもちろんユーキだ。



「お前、こうなることわかっててこの間別れたんだろ」


「当たり前だ。あの時既に決定事項だ」


「じゃあそう言えよ」


「お前に別れを惜しんでもらいたかったからさ」


「バッカじゃねえの。そんなのにはだまされない。俺をもてあそんだんだろ」


「俺は、お前に対して何時でも真剣だよ」



といったやりとりが上空で交わされていたわよ、とフェンネラ様が帰国後教えてくださった。

「あの二人も良い研究材料になりそうよね」と呟いていらっしゃったフェンネラ様。フェンネラ様が人間に興味を持つ日がまさか来るとは、私も感慨深いです。





 フェンネラ様はエノシガルでメイテウス殿下と数日のんびりされたようで、目の下の隈はなくなっていた。


 そして。



 転移魔法陣で瞬間移動できるようになったので、海の精霊シレーネ様とエノシガル国の許可を貰って、カニカムリを数匹連れ帰ってきた。

「エノシガルでの自由時間は、殿下と二人、この子達を観察してたわ」と話すフェンネラ様。

結局研究ばかりの毎日を送ってのそれって、のんびりしたことになるのでしょうかね?





 そしてこの後、イーリヤは案の定ヘファイス国の研究所にこもりっぱなしで、オシアノスが公務の合間を縫ってヘファイス国に押しかけるのが日常化……。

その甲斐あって出来上がった、たくさんの煌く魔方陣を内包した魔力測定器は、アイアンオパールのような輝きを放ちエノシガル国を男女平等の世へと導くのだが、それはまた後の話……。








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