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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第三章 高慢に偏見
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16.高慢と偏見




「無知で幼かったのは、私だわ」



 そう言って、イーリヤは堰を切ったように話し始めた。



 イーリヤは自分の魔力の大きさを感じ知っていた。魔力測定器もそうだが、日々、海や山に囲まれた生活の中で、知る機会は沢山あった。


そしてこの国の慣習を理解する様になると、魔力の小さい男性にいいように利用される事は嫌だと、そもそもそんな男性は自分にふさわしくないと思っていた。



 高慢だったのは私の方。



 女性の社会進出を促したい、男性には負けたくないと思っていた。それに男性は、女性の魔力の大小でしか見ることができないのだと偏見を持っていた。



「だからあなたに<連れて行ってあげる>と言われた時、私の人生を塞ごうとしているとしか思えなかった」


「私だって、女性の、ましてや魔力の小さいイーリヤがよその国に行けるわけがないと、そこで生活することなんて出来やしないと偏見を持っていた」


「私たち、互いに間違っていたわね」


「そうだな。魔力の大きい者を娶らなければならぬと、自分の価値観が正しいのだと、そう信じて疑わなかった。魔力の大きさなど、大した問題じゃないのに」



「いいえ、あなたはこの国を導く王にいずれなるお方。娶る相手に強大な魔力を求める事は、間違ってはいないでしょう」



「だが私は、魔力が小さくとも君が良いのだ。イーリア。私と結婚してほしい。あなたと共にエノシガル王国を良い国に、一緒に作り上げていきたい、導いていきたい。

……いや、今のは嘘だ、綺麗ごとだ。

私がイーリヤと一緒にいたいんだ。私と共に歩んで欲しい。どうか、私の手をとってくれないか」



「シア……、いいえ、オシアノス殿下。私もお慕い申しております。ですので…、私のすべてをお見せいたします」



 そう言って、イーリヤは今まで心の体の奥の奥に閉じ込めていた魔力を一斉に解放した。途端にオシアノス殿下の表情が、体が崩れ落ちる。



「なんて、温かい……」



 体中がすっぽりと包まれる幸福感に、瞳からは涙が止めどなく溢れる。膝をついたオシアノスにイーリヤは手を差し伸べて言った。



「私の手をお取り頂けますか」


「参ったな」



 そう言うと、二人は互いを見つめて笑った。







 イーリヤは「ねえ、知ってる?」とシアに聞いた。



「エノシガル国の男性も、大きな魔力があるかもだって」


「確証は無いが、そうではないかと思っていた」



 シアは、竜王と魔導師の発する波の様子を見れば、エノシガル国の男も持っているのではないかと考えた。もちろん、気がついたのは大分経ってからだけど。



「覚えている?私達が初めて出会った時、私、浜辺の木陰で寝ちゃってたの。あの時、シアに王妃様の魔力が心地よいからって言われてそう思っていたけど、あれってシアの魔力に反応したんじゃないかなって」


「そうだね。自分には魔力がないって思っていたからそう言ったけれど、今思えば、あの時から惹かれ合っていたんだね。だけど、あの時感じたものより、今の方が断然心地良いよ。あの時は、ふわりと温かい心地がしたけれど、今はなんていうか、互いに混ざり合ってるような、それでいて大きく包まれている様な、なんとも言えない感覚」



「…ねえ、もや様と私、どっちのが良い?」


「!!そんなの比べ物にならないよ。イーリヤのがとびっきり良いよ」


「本当に?」


「ああ、もちろん。それに魔導師様の魔力は、自分のとは混ざり合わない。自分が成長してよくわかったよ」


「そっか。そうなのね」



イーリヤは安心したのか、ふふっと笑った。







 扉がノックされる音がする。扉横に佇む侍女に合図し開けてもらう。にこやかに微笑むもや様とフェンネラ様のお姿が、そこにはあった。



「お邪魔してもよろしいかしら」


「もちろんです。ご配慮くださいましてありがとうございました。お陰で、イーリヤときちんと話せました」



 そう言って、オシアノスは深々と頭を下げた。イーリヤもそれに続く。



「イーリヤ様の魔力が解き放たれた様でしたので、仲直りされたと思ってやって参りましたの」



 もや様が微笑まれて、一緒にいるフェンネラ様をオシアノス殿下に紹介してくださった。



「それにしても、良かったですわね、イーリヤ様。でも、仲直りされてしまわれたら、直ぐにエノシガル国に戻られてしまうのかしら。私としましては、一緒に魔導具研究を続けたかったのですけれど」


「フェンネラ様。私は、彼女を無理矢理連れて帰ろうとは思っておりません。ただ、折を見て一度国に戻り、婚約式を行いたいとは思ってますが」



 そう言ってオシアノスは、イーリヤをじっと見つめる。イーリヤは慌てたように顔を伏せるが、耳が真っ赤だ。



「今回、イーリヤとのすれ違いを教訓にし、魔力についての考えを根本から見直したいし、魔力測定器も改良を加えたい。それには私が国に戻り、下準備をせねばならないだろうと考えています。時間もかかるし、測定器については、へファイス国の協力も仰がなければならない」


「あら、新たな課題には、喜んでお手伝させていただきますわ。イーリヤ様の魔力は大きいので、実験も捗るでしょう」


「私、手伝ってもいいの?」


「お手伝いされた方が、きっと捗りますよ」


「シア、良いかしら?」


「いつでも君の希望を支援します」



「それには、まず転移魔法陣を設置しましょうか」


「やったー!もや様、ありがとう!」


「まだ直ぐには出来ませんよ。フェンネラ様にご協力頂かないと、ね」


「新たな国との魔法陣開発も、興味深いです。もう、こうしていられないわ。イーリヤ様、私、先にへファイスに戻ってます。オシアノス殿下とゆっくり話された後、我が国へおいでくださいませ。では、御機嫌よう」





「…さすが、フェンネラ様。研究の事となると迅速が過ぎますね。まあこれで、へファイス国への根回しはスムーズに行く事でしょう。お二人は、しばらくうちに滞在なさって、今後についても、ちゃんと話し合われた方がいいかと」


「重ね重ねご配慮くださり、ありがとうございます」



「それに!オシアノス殿下の運命の方に、ユーリもお会いしたいと申すに決まってますものね。ああそうだ。ユーリの護衛にユーキ様に付いてきて頂かなくては。なんだか、いろいろ、楽しみだわ」



 魔導師様の様子が、ただの世話好き親戚のおばちゃん化しているのは気のせいだと思いたい二人であった。











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