12.オシアノスの決断
イーリアに別れを告げられ、オシアノスが王城から姿を消したところに話は戻ります。
「ユーリ殿!」
竜の国の王城にオシアノスの声が響く。
「なんだ、オシアノス。お前ついこないだも会ったばかりじゃないか。しばらく来られないと言って、半年も経っていないんじゃないか」
「そ、それは。双子が可愛くてだな。また顔を見に来てしまったのだ」
「表向きの理由はそれか。で?一体何があったんだ」
「……もう一度、一から根性を鍛え直してもらおうと思って」
「ふーん。どうでもいいが、他の国の王にそのような弱気な顔を見せたら、まずいんじゃないのか」
「今更ユーリ殿の前で格好つけて、威厳あるふりしたってどうしようもないだろ。ユーリ殿にかなう者なんていないだろうし」
「まぁ、そんなヘタレな顔じゃ、お前の国に戦を仕掛ける気にもならんしな」
どの国にも戦なんて仕掛ける気なんてないだろうに、ユーリは冗談めかして言う。姿勢を正し、オシアノスは真っ直ぐな視線を向けるといった。
「とにかく少しの間この国において欲しい、です」
竜の国では、竜王の元に男の子と女の子の双子が生まれたばかりだった。
竜王とミミルファ国の魔導師が大恋愛の末結ばれたことは、このあたりでは有名な話だ。なんでも市井では恋物語として語られ、吟遊詩人は方々の国で語り継いでいるらしい。
竜王は現在、愛妻のほかに双子の子ども達を溺愛中だ。
「お前にかまっている暇は、俺には無い」
やれやれといった動きでそう言うと、後ろに控えていた護衛騎士に声をかけた。
「おい、ユーキ。お前をオシアノス殿下の側仕え兼指導係に任命する。よってお前の行動には全て私が責任を持つ。オシアノスに何をしても構わん。以上だ」
「テキトーだな、りょーかーい」
「なんだよその返事は。久しぶりに親友の俺様がやってきたんだから、もう少し喜べよ」
「何が親友だよ。この間、エノシガルに戻らなければならないとか、流浪の生活は終わりだとか、今生の別れかのように去っていったのに。来んの早すぎんだよ!」
「会いたかっただろう」
「全っ然、全く」
「お前たち、仲良しはあっちでやれ」
「へーい」
「はーい」
仲良しなのは否定しないんだと思うユーリを尻目に、二人は修練場へ向かった。
ユーキは、竜王が王子の頃から仕えている優秀な騎士だ。オシアノスや竜王とも年齢が近い。オシアノスが竜の国に滞在中は、今回と同じように側仕えという名目で一緒に過ごし、オシアノスと対等に接してくれた気の置けない友人である。ただし、武闘においては対等ではない。竜人とそれも騎士団員とまともにやったらオシアノスは即死だろう。ユーキが自分自身に魔力で程よく負荷をかけハンデをくれている。
修練場に入ると二人は慣れたように上着を脱ぎ棄て、そのまま何も言わず剣を交わす。竜の国で修業した一年間、毎日行われていた鍛錬だ。息も上がりひとしきり汗をかいたところで一旦終了とした。
二人で地面にぐったりとへたり込む。
「で。どうしたんだよ」
「うん……。ようやく運命の相手に出会えたんじゃないかと思ったんだ」
「へえ。良かったな」
「けど、なんか怒らせちゃって、彼女もう会わないって」
「王子のお前から逃げられるわけないじゃんか」
「彼女は俺が王子だって知らないんだ。それに多分、彼女は貴族じゃない」
「お互い素性を知らないのか」
「ああ」
「でも、お前がその気になったら探せるだろ」
「探し出して、拒否されたらと思うと」
「それでここにやってきたのか」
いつの間にか背後に微笑むユーリが、立って二人を見下ろしていた。
「!!!」
「その様子では、まだまだ鍛え方が足らないようだな。私が相手しよう」
「なんで俺まで…。巻き添え食っちまったじゃねーか」
その後、あっさりさっくりとユーリの指導が入り、地に倒れ起き上がらない二人の姿がそこにあった。ユーキとオシアノスは立ち上がり起きる気力もなく汗びっしょりで、しばらく横たわっていた。
「竜王、相変わらずバケモンだな」
「ああ、衰えるどころか、進化している気がする」
「精霊の加護もどんどん増えているんじゃないか?」
「そうかもな。竜神と呼びたいくらいの強さだが、人間性がな」
「ああ、人間性がな」
「奥方様は、女神なのにな」
「ああ、女神だな」
体を地に投げ出して、オシアノスは焦点の合わないまま天井をみつめる。
頭を空っぽにしたかった。心を開放して、無になる。今のままでは、彼女を迎えに行っても嫌われるだけだろう。さらに強い男になろうとオシアノスは、竜の国でしばらく研鑽を積んだ。




