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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第三章 高慢に偏見
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11.魔力測定器




 へファイス国に滞在している間、イーリヤはフェンネラ様のお傍につきっきりでいた。昼間は研究所に付き添い、夜はフェンネラ様とお話をする日々。

ヘファイス国は精霊たちへの研究にとても熱心で、何をしているのかわからない子どものイーリヤでもその様を見ていると楽しかった。

そもそも実験に協力してくれる精霊たちを見ているのが不思議な感覚がした。精霊達は常にイーリヤの傍にいたが、それを研究観察するという発想は全くなかった。精霊は力の源でありそれを実験するなんて、と始めはドキドキしながら見ていたのだが、精霊達との信頼があるからできる事なのだと観察しているうちに理解した。


 魔道具はたくさんの種類があり初めて見るものばかりでとても新鮮だった。何気ない日常の中でいろいろな魔道具が使われていて驚いたし、エノシガルで使用されている魔道具もほとんどがヘファイス国で開発されたものであることに驚くばかりだった。



 イーリヤは魔力測定器について、結局のところよくはわからなかった。

当たり前だ。十歳やそこらの小娘が魔道具の仕組みなんてわかるはずもない。フェンネラ様のように才女で小さい頃から触れていたものならともかく、イーリヤは魔力量の大きいただの女の子だ。



 ただ唯一わかった事は魔道具の目をくらませることができると言う事実だった。



 魔力測定器は一見した感じ、チョコレートオパールのように見える。光にかざしてみると石の中に幾重にも魔方陣が展開されぐるぐる回っているのが見える。その魔方陣が感知して持つ者の魔力を読み取るのだ。

だが、そのことが分かったからといって、イーリヤが測定器を欺けるかと言ったら、現状無理だ。



「この魔力測定器はエノシガル国の女性の魔力量を測るためだけのものなんだ」



 昔、エノシガル国に頼まれて作ったと王宮で殿下とフェンネラ様と三人でお茶会をした時に殿下が教えてくださった。エノシガル国の女性が持つ魔力にのみ反応する魔道具らしい。



「だからエノシガルの男性にかざしたって全然反応しないのよ」



 そうフェンネラ様は教えてくれた。



「そもそもエノシガル国の男性も計れるほどの魔力を持っているの?」


「それは持っているだろう。あれだけ精霊の加護がある国だ。エノシガルの女性に限定した測定器を作ったということは、男性と女性の魔力の種類が違うのだろう。私が研究開発したわけでは無いし、論文も目を通したことがないからはっきりした事は言えないが」


「この間旅行に行ってみて環境的に男性も少なからず魔力があると私は思ったわよ。それに開発者の観点から言えば、エノシガルの魔力もいろんな種類があると考えられるわね」


「そっか、そうなんだ。知らなかった」


「それで敵を欺くヒントでも見つかったかしら」


「うーん、多少は誤魔化せそうだけれども、でも高魔力を隠すのは無理っぽい。何か魔力を隠すような方法でもないかしら」


「そうだな。今からそういった魔道具を開発するって言っても多分時間がかかるしな」


「そうだ!ミミルファ国の魔導師様に相談してみましょうか」


「ええ!そんなことできるの?」


「月に何度かはお会いするから、その時にプライベートな世間話としてお聞きする事は可能なはずよ。魔導師様も魔法研究に熱心で、イーリヤの話にきっと興味を示されると思うわ。いつもより長めに時間をとっていただけないか事前にお伺いしておくわね」


「魔導師様とお知り合いだなんて、フェンネラ様ってやっぱりすごいのね」


「研究員だからよ。元々は外交上のお付き合いだったし、知り合ってまだそんなに経ってはいないんですけれど、それでも友人と呼ばせていただける間柄だと思っています」



 そう言うフェンネラ様の横で、殿下が少し複雑そうな顔をした。



「もちろんイーリヤ、あなたのことも友人と呼ばせていただいてもよろしいかしら」


「もちろんっ!でも、私は

フェンネラ様をお姉様とお呼びしたいわ」



 そう言うといつもは表情を変えないフェンネラ様がくしゃっと顔を綻ばせた。眼福です。







 ミミルファ国の魔導師様がいらっしゃったのは、そんなに遠くない日だった。イーリヤの滞在期間が限られている為フェンネラ様が調整してくださったらしい。感謝を伝えると「私も興味があるし、事によっては私の研究に結びつくかもしれないからしただけよ」とあっさり返された。謙虚なフェンネラ様も素敵です。


 フェンネラ様のお部屋のサンポーチで三人でのティータイム。

フェンネラ様はクールビューティーだけど、魔導師様は、陽だまりの様な輝きだった。



「私、エノシガル国のリゾートホテルに泊まったことがあるのよ」



 挨拶もそこそこに魔導師様は気さくにその時のことをお話ししてくださった。



「そこ、うちのホテルなんです!」



「そうなんですってね。だから、是非会ってお話してみたくて。あんなに素晴らしい所、精霊たちの加護もいっぱいあってとても美しい島だったわ。それにね。初めての旅行だったの」



 聞けば魔導師様は婚約者の竜王様と一緒に、うちのホテルに泊まったことがあったらしい。

魔導師様は平民の私に普通に接してくださり、会話も態度も気取ることもなく、それはもう外見だけではなく中身も素晴らしい方でした

類をみない強大な魔力の持ち主で、美も智も持ち合わせているというお噂は、この世界で知らぬ者はいないと言われているというお方なのに。



「わたしのことは、もやって呼んで。ユーリがつけてくれた愛称なの」



 そう言って朗らかに笑う。竜王様のことを話すもや様は魔導師様というよりは恋する乙女で可愛らしい。

私から魔力の隠匿方法を聞かれたもや様は、ほっこりとした表情を私に向けた。



「ねぇ、これって運命よ。私が魔力を隠匿する方法が思い浮かんだのは、それこそエノシガル国にいる時だったのだもの。魔力を隠してエノシガル国のお城に伺ったら国王様は大変驚かれていたわ。だって、精霊がいる国ならわたしの居場所なんて常に筒抜けになるはずで、先ぶれを出さなくても精霊達が教えてくれると思っていたからね」



 そう言って悪戯っ子の様にもや様は笑った。砕けた話し方にフェンネラ様と仲の良さが窺える。



「魔力の隠匿方法はわかるけれど、それが出来るかどうかは貴女次第よ。習得するのにイーリヤは1カ月かかるか一年か。しかもそれを維持し続けるつもりでしょう。見たところ結構大きな魔力を持っているみたいだから、隠すにはそれ相応の魔力が必要になるわ」


「はい。魔力を隠せるなら、どんな努力もします」


「ただ、どうして魔力を隠したいのか教えてもらえる?精霊のお導きだから悪い事に使われるとは思わないけれど、教える以上私にも責任があるわ」



 イーリヤは自国の女性の婚姻事情、そして誰とは言わないが、女性を魔力の大きさでしか判断しない高位貴族の高慢な態度を掻い摘んで話した。話の後、隠匿方法を悪用しない旨の念書を書いた。



 もや様は、


「他国のことに口は挟めないけれど、魔導師としての言葉を一言だけ。いろいろな立場によって物の見方は違うということだけは、イーリヤに知っていて欲しいわ」



 ただそう言った。

幼い私はその時、魔導師様のいう言葉の意味がよくわからなかった。





******





 いつもは溢れ出ている魔力を体内の器に流し込むようにイメージする。

器にするものは明確に描けるなら、グラスでも家でも小石でもなんでもいいというので、魔力測定器のイメージのチョコレートオパールを想像した。



「初めは少しずつね」



 頷く。



 魔力が流れ込むイメージを思い描く。



 何も起きなかった。それでも根気よく続ける。

もや様が肩に優しく手を触れてくださった。なんだろう。心が凪のように穏やかになる。もや様の魔力に包まれ、自分の魔力の散らばりが川の流れのように一筋の糸となって器に注がれた様が浮かぶ。

ある瞬間、体がふわりと浮遊したような感覚に陥って慌てて意識を強く持つ。目をしっかり見開くともや様がニッコリと微笑んでくださった。



「今の感じを忘れないで」


「はいっ」



 嬉しくって大きな声で返事をしてしまった。

もや様の隣で、驚愕の表情のフェンネラ様がいた。


 次の日から殿下とフェンネラ様の研究材料にわたしが加わったのは言うまでもない。


 ヘファイス国にいる間に流石に一気に習得するまではいかなかったけれど、エノシガル国に戻ってもひたすら研鑽を積んだ。十歳の年の魔力測定日までに少しでも隠したい。そうして、時間はかかったけれど徐々に力を隠すことにイーリヤは成功したのだった。












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