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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第一章 竜の番 竜王編
22/108

22.転移魔方陣

 



 もやの手を取り、ユーリは私室へと導く。向かう先がユーリの部屋とわかりもやは一瞬表情を動かしたが、ユーリの部屋でお茶したり読書した過ごすこともあるので、たいして気にも止めずに歩き出す。

 部屋に着くと続く寝室へともやの手をひく。さすがに戸惑うもやに、「何にもしないから」と何処ぞの軽薄男かのようなセリフを吐きながら寝室へと連れて行き扉を閉めた。



「ユーリっ!寝室の扉を閉めるのはっ」

「誰かに見られると困るからさ」



 慌てるもやの言葉を遮って近づいて来るユーリに思わず後ずさるもや。がしかし、すぐに壁に追い詰められたもやの顔の直ぐ横の壁に、ユーリは手をついた。



(知ってる。これ、壁ドンとかいうやつだ…)



と思った瞬間、壁は消えた。




 もやの後ろには、ユーリの執務室と同じくらいの大きさの空間が広がっていた。



  「ここ、俺しか知らない、俺の秘密の部屋」



そう言って、悪戯っ子のように笑うユーリ。

(やられたぁぁぁ)と、もやが思った瞬間ユーリが手を広げて言った。





「もや、ここに俺だけの転移魔方陣を作って!」







 *****







 大きな広い空間に時折、光の輪が浮かび上がり人が現れては、部屋を出て行く。その逆もしかりで、光の輪の中に人が消えて行く。人影はアドニスに気がつくと皆立ち止まり頭を軽く下げていくが、その光景を焦点も定まらずただ眺めていた。

しばらくすると他と違う色の光が部屋の奥で放ったのを見て頬を緩めた。


 魔導師様がお戻りになられた、そう思っただけで、胸の奥が熱くなる。

一瞬あの、魔導師様が戻らなかった日々を思い出し息が出来なくなるが、澄んで泉のような煌く光の瞳を思い出すと途端に幸福感に包まれて、ふぅっと息を吐いた。

 がしかし、行きは普通の魔方陣で行った筈だ。この魔方陣が光ったという事は、と瞬時に頭を働かせて、顔を引き締める。



「おかえりなさいませ。魔導師様」



「アドニス、待っていてくれたの?わたしの留守の時は休んでって言ってるでしょう。アドニスが体を壊すんじゃないかって心配よ。でも、ありがとう」



 アドニスは一緒にやって来た竜王をちらりと見る。このまま部屋まで送るとか言うんじゃないだろうかと思ったが



「今日は楽しかった。今晩、わたしは今までにない安心感に包まれて眠れるだろう。なんだか、わたしばかりが幸せで申し訳ないな」


「うふふ。それは良かったです。ゆっくりお休みになってくださいね」


「ああ、ありがとう。おやすみ、もや」



そう言って竜王はもやの額に口づけると、光の輪の中に消えて行った。



「お部屋まで、お送りします」


「ありがとう、アドニス」


 長い廊下を魔導師様に付き従う至福の時。

こちらから魔導師様に声をかけるのは躊躇われるので、独り言のように呟いてみる。



「…竜王、あっさり引きましたね」


「そお?まあ、いつでも来られるという安心感が得られたことで満足したのでしょう」



(おかしいな?いつもの竜王なら魔法陣ができた喜びにあんな風にあっさり帰るはずがないのだが。そもそもこんなに早い時間に送ってくるなんて)


今までのしつこい、嫉妬の塊の竜王しか見ていないアドニスには、さっぱりあっさり味の竜王の態度が不思議でならない。

「魔導師様の前では、格好つけているのだろうか」と思わず心の声が漏れてしまったアドニスに魔導師は


「ユーリが格好つけているというなら、それはアドニスがいるからよ。わたしの前ではもっと子犬みたいで可愛いのよ」



と幸せそうに笑った。アドニスは言葉にならないほどの衝撃を受けたが、魔導師様の側にいたいが為に身につけたポーカーフェイスでかろうじて乗り切った。



「そうですか。さすがは魔導師様。あの竜王をも子犬に変えてしまうとは恐れ入ります」


「でしょ?うふふ。…ねえ、アドニス。このままわたしはあの部屋に行くわ。魔方陣を二つも設置したし、なんだか疲れてしまったから」



ふと思いついたように言うもやに



「そうですか。では、そちらまでお送り致しましょう」



アドニスは、いつも通り魔導師様を部屋の前までお送りした。







 *****







「では、おやすみなさい」



 そう言ってもやは、庭にある魔導師の部屋に入る。ここは、本当に一人になれる、心休まる場所なのだ。なのにユーリったら、こともなげに



「もやのあの部屋にも転移魔方陣作ってくれるかな?」



なんて、軽く言う。だけど、一つだけ我儘をきくと約束したのだから仕方ない。それにしても、ユーリにもアドニスにも申し訳ないことしちゃったな。アドニスに気取られない為とはいえ、子犬だなんて言ちゃって。本当は狼なのに、しかもかなりやばい種の狼なのに。

 さっきの壁ドンからの、悪戯っ子のユーリを思い出して顔が赤くなる。

いけない、いけない。魔方陣をつくらなくては。ただ、この部屋はわたしが本当にくつろぐだけのスペースしかない。

「とりあえず、もう一部屋作っちゃおう」そう一人呟き壁に手をあてる。部屋のイメージを頭の中に思い描き、精霊達を感じながら魔力を手から壁へ、空間へと放つ。ぽっかりと空間が広がり、程よい大きさの部屋が出来上がった。

「さてと…」休む間もなく、今度は転移魔方陣を設置する。



「良いのかな~。内緒で竜の国との魔方陣、設置しちゃって」



 遠国への転移魔方陣を二組設置して、秘密の部屋も作っちゃって、ストックしてた魔力もちょっとつかって。さすがに一日に使用する魔力量としては多過ぎたなと疲労を感じたもやは、隣の部屋に戻って少し休もうとした。がその時、転移魔方陣が黄緑色に光って、輪の中心にユーリが浮かび上がった。











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