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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第一章 竜の番 竜王編
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21.転移魔方陣と晩餐

 



 もやが驚いた目でこちらを見ているが、気づかない振りでもやの手を取り移動する。何も言わないもやにアドニスが何やら言いたげな表情だが、竜王と魔導師の会話に口を挟む訳にもいかず、ただひたすら付いてくる。長い廊下を歩きながら、ミミルファと簡単に行き来が出来るようになったらしたいことをひたすら羅列した。ああ、夢が膨らむって素晴らしいことだな。

 しかし、したいことの半分も言い終わらないうちに転移魔方陣用の部屋に着いた。もやは途中から私がからかい始めたことがわかったので何も言わずについて来たのだが、アドニスは私室ではないことにどうやら安堵したようだった。



 キラキラと光の粉が舞い散る中、ゆっくり手を広げて魔術詠唱を羅列するもやは美しい。何度も言うが、魔術詠唱をするもやを見ているのが好きだ。大好きだ。

光の粉と表現するが、正確には精霊の輝きだ。ミミルファ国の魔法は精霊のご加護による魔力によって展開されている。


 ミミルファ国側の魔法陣は、出立前すでに設置して来たそうだ。これで本当にいつでも、もやに逢いに行ける。



「アドニス。今日はここで戻って良いわ。遅くまで付き合わせてしまってごめんなさいね」


「かしこまりました。くれぐれもお気をつけくださいませ」



 って気をつけろってどういうことだーっとイラッとしたが、微笑みをもやに向けた。



「では、食事にしよう。今夜はいつも以上にもやを美味しく食べられそうだ」


「ユーリ様。お言葉を違えていますよ」


「ああ、嬉しさのあまり言い間違えてしまったかな」



 こちらを睨みながら魔法陣の上で消えていくアドニスを見送ると、もやをエスコートし部屋を出る。



「わたしもいつも以上においしくお食事できそうです。ユーリ様用の魔法石が出来たと報告をもらい、嬉しくってすぐに連絡したの」



 魔導師の仮面が剥がれたもやが、素直で可愛い。わたしは立ち止まり恥ずかしそうに俯くもやの顎に手を寄せ、持ち上げる。



「さっきのは冗談じゃなく、このまま、もやのことも美味しく食べちゃいたいな」


「それはダメです~~っっ」




 両手でユーリの顔面を押さえつけてもやは大きく仰け反った。







 ミミルファの隣国へファイスでは、魔法道具の研究、開発が熱心なのだそうだ。ミミルファ国は精霊が多く住み精霊からの加護を多く受けられる為、魔法道具というものをほとんど必要としない。国内で生活する分には、大抵のことは魔術詠唱すれば済む。もやに至っては、念じるだけで事足りることが多い。なので、隣国からは今まで協力を求められることはあっても、こちらからお願いするような事はあまり無かった。

 今回、他国へ通ずる転移魔方陣を作りたいと思ったものの、そもそも魔方陣の仕組みが分からない。ミミルファでは魔法は精霊の恩恵と魔導師の力で、そこにいつもあるものだったからだ。精霊達はただ感謝し祈るべきものであって、その魔力を研究しようと考えたことも無かったのは愛し子が時折生まれる魔力の潤沢なミミルファ国ならではで、今回それならへファイス国からお知恵を拝借しようと相談したのだった。


 魔法研究の国ヘファイスの研究者の見解は、焦らなくとも竜の国に巨大樹と泉が創造された現在、竜王と魔導師が契りを交わせば精霊の力が竜の国へと正式に流れ、お互いの国を転移魔方陣で往来出来るようになるだろうと言った。

話を聞き、その方向でもやが《書》を検索するとヒントになりそうなものが見つかった。

だがその話を聞き「それでは遅すぎる、二年も先の話になってしまう」とユーリは絶望した。

ならばと、石に精霊の魔力を込めると良いだろうと提案された。ただし、どの精霊の力が竜の国に適しているのかはわからないし、それを試し研究するだけの魔力も隣国にはない。そこでミミルファとヘファイスとの共同研究となったのだ。ユーリは遠距離のため日常的に協力することもできず、魔力量の比較的多い文官を特使とし数名派遣するにとどめた。武に頼っている竜の国にはいい勉強にもなるはずだ。



 ミミルファの膨大な魔力で研究はさくさく進む。なにせ、失敗を恐れず何度でも実験出来るのだ。隣国には、羨ましい魔力量だ。

 結局、転移用魔法石は、水と風の精霊から力をかりることになった。竜の国と非常に相性の良い水の精霊とスムーズな移動を補助し相性もいい風の精霊。その精霊の力を転移にふさわしいバランスで注入する。魔法石を覗くと見える揺らぎは、精霊の魔力なのだろう。光の色合いが見ているとなんだか安心するのは気のせいだろうか。

 今後も共同でこのまま研究開発を進めることにしたそうで、竜の国の魔法石が完成した後には、へファイス国のバックアップで魔法研究施設を設置する予定だそうだ。




「それからね、今作っている魔法石とユーリの石とは、少し違いがあるの。ユーリの石は転移してくると、わたしにわかるようになってるの。そうすれば、すぐに駆けつけられるでしょ」



「お揃いよ」って言って、もやは首にかけてあったネックレスを取り出して見せてくれた。先には、ユーリの魔法石と同じ色の魔法石がぶら下っていた。




「わたし用の…とは、どうやって作られるのだろう。実に不思議だ」


「…………怒りませんか?」


「わたしが怒る?」


「……軽蔑しませんか?」


「もやを軽蔑?」


「……」


「大丈夫。どんなもやだって受け入れてみせるよ」







「……、鱗を使用いたしました」


「鱗?」


「はい。ユーリ様の鱗です」





 研究の途中でユーリ用の魔法石を作ることを思いついたもやは、研究者に相談した。すると、髪の毛や爪などその人のものがあれば出来るだろうと言われ、ユーリに秘密でことを進めたいもやは、こっそりと竜の鱗で作らせたようだ。研究者からはもったいないと散々言われた。しかも貴重な素材は扱いが難しくかなり苦労したそう。なんたって強度を誇る竜の鱗。薬剤で液状に溶かすにもかなりの時間がかかるようで、それだと転移魔方陣用の魔法石に利用するには時間がかかりすぎる。なので鱗そのものが魔法石の内部に嵌め込まれているのだ。道理で魔法石の光の揺らぎに懐かしいような安心感を覚えた筈だ。



「今まで魔力を研究開発するなんて考えたこともなかったから。とても楽しいの。これもみんなユーリと出会ったからね。この研究がさらに国力をあげる事につながるだろうし、でも何より、わたしがただ楽しい」




 魔法の話をするもやは本当にとても楽しそうで、話しているうちにあっという間にデザートまで食べ終えてしまった。




「久しぶりに会えたのに、なんだかあっという間に時間が過ぎてしまったわ」


「そうだね。本当はこのまま帰したくないのだけれど。転移魔方陣も出来た事だし、もやをミミルファへ送って行こうかな」


「ふふ。悪いわ。今日は無理に時間を作ってくれたのでしょう。いつもわたしの予定に合わせてくれて、わたしの我儘ばかり聞いてもらって申し訳ないと思ってるのよ」


「わたしがもやの言うことなら何でも聞いてあげたいと思っているのだから、わたしの我儘でもあるんだよ。だけど、もし、申し訳ないと思っているならこれから一つだけ、わたしの我儘をきいてもらえるかな」


「ふふふ。良いわよ。わたしに出来ることならね」











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