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竜の愛し子と魔法使い  作者: 中村悠
第一章 竜の番 竜王編
20/108

20.転移魔方陣と魔法石

 



 部屋を出て廊下に立つイフーとユーキに指示を出すと、もやの手を取り客間へと案内した。



 客間に入ると知らせを受けてすぐに駆け付けた宰相と文官が既に控えており、もやをソファへと促す。



「約束もなく晩餐の前に急にお時間を取らせてしまい、申し訳ございません。実は、ユーリ様に贈り物がございます」



 そう言ってアドニスに合図を送ると、アドニスは美しく装飾された小さな箱をテーブルの上に置いた。箱全体に彫られた模様は、蔦が絡まり合い花がところどころに散らしてあるミミルファらしい装飾だ。もやが蓋を開き中身を確認すると、箱をこちらに向けた。なかには、青緑色の輝石。



「ユーリ様の為にお作りしましたの。是非、お受け取りくださいませ」



 もやの言葉にそばに控えていたエーチが箱に手を伸ばす。



「よい。もやからの贈り物に確認は必要ない」



 そう言ってユーリは、エーチの手を遮って箱を手にした。魔法石は親指と人差し指で輪っかを作ったくらいの大きさ。鎖を通せるように金細工で加工されている。石を手に取り光にかざしてみると中に、揺らめくような渦巻くような輝きがあった。



「これは?」


「転移魔方陣用の魔法石です」



 うふふっともやは、可愛く笑った。



「この魔法石を持つものは、ミミルファとの転移魔方陣を使って移動出来るのですよ」



 どう?すごいでしょ~と得意げな表情を隠しきれないもやが、もう天使すぎて尊い。

 なんでも隣国のへファイス国に協力してもらい開発したらしく、とりあえず一つだけと出来立てほやほやのユーリ用を持って来てくれたらしい。


 始めは個人的に渡すつもりのもやだったが、真面目なアドニスに共同開発した隣国への配慮を求められ、形式だけでもとアドニスを伴って来たのが、このような形になってしまったのだ。アドニスに咎められるようにじっと見つめられ、



「だって、公式の贈り物にすると渡すまでに日数がかかってしまうんですもの」



 と悪びれないもやに



「次回からは、きちんと手続きを踏んでください」とアドニスが、ふふっと笑って応えた。


 なんだーっ、アドニス良いやつじゃんって思ったのも束の間、アドニスがもやの斜め前に跪き、



「ただし、魔導師様がおっしゃれば、わたしはどんなご命令でも従います」



 ともやの手を取り真っ直ぐにみつめる。



「ありがとう。アドニスの忠心にはいつも感謝しています。これからも、ずっと、よろしくね」



 そう言って後ろに下がる様に合図されたアドニスは、下がりながらもやに見えない様にユーリにチラリと視線をやるとフッと不敵な笑みを浮かべた。



 この野郎~~~っ、と波立つ気持ちをどうにか抑えてユーリは、お礼の言葉を述べる。



「ありがとう、もや。すごく嬉しいよ。これでいつでも直ぐに、もやに逢いに行けるね」


「???まだよ。これだけでは行けないわ」



 もやの後ろに控えているアドニスが、ククッと表情を弛める。瞳がキラリと輝き、お前あほだなぁって顔に出ている。



「今ある魔方陣は魔法石を使って転移できないから、新しい魔方陣を設置しなければならないの」



 すると、ユーリは手を伸ばし、もやの白い手を取ると



「わたしの部屋と、もやの部屋を繋ぎたいな」

先程のアドニスの手の感触を俺の手で上書きしてやるぞと内心唱えながら、あま~く囁いた。



「そうなると、多くの役人がユーリ様のお部屋を利用する事になりますけれど、よろしいでしょうか?」



 残念ながらもやから聞こえたのは、魔導師仕様の冷たい声だ。

アドニスは、社交用の表情を作る事もせずニヤニヤ笑っていやがる。だが、アドニスにはわかるまい。もやがこんな声の時はいつも以上に動揺していて、それを隠す為に必要以上に繕っているのだ。

 そんな可愛いもやをお前は知らないだろう~と内心勝ち誇ってみるが、笑われっぱなしでは男が廃る。



「わたしともやの仲の良さを知ってもらいたいから、わたしは一向に構わないよ。それに……

 一秒だって、早く会いたい」


「……」



 ふっ。これで完璧ノックアウトだな。もやが耳まで真っ赤になって俯き、アドニスがギロリと睨んでいるが気にせず続けた。



「では、魔方陣を設置しに行こう!」









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