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17.踊る赤と黒(1)

 短くきれいに整えられていた爪は、にょきにょきと伸び、赤黒い鉤爪(かぎづめ)へと変わっていく。

 それだけではない。滑らかだった乳白色の肌も徐々に赤みを増し、金属にも似た独特の光沢を放つようになっていった。

 

 ギラつく皮膚の表面には、いつしか沸騰しているかのようにブクブクと(あぶく)が現れる。泡が生まれた場所からは黒く粘ついた物質が漏れ出し、網目状に手を覆っていった。それはまるで黒レースの手袋のように見える。


 著しい身体の変化に伴い、部屋はみるみる熱くなっていく。ムッとする熱気に、風呂に入り清涼だったミーティアの体はじっとりと汗ばみ始める。なのに、体の芯は驚くほど冷え冷えとし、危難を告げるように胸が速鳴りするのだった。


 向かいに座るエリオスは、涼しい顔を崩してはいなかったが、やはりこの熱さは(こた)えたらしい。さりげなく襟元のボタンを一つ二つと外すのが見える。


「さて、この辺にしておきましょうかね」


 それまで自身の腕だけを見つめていたアンティゴンが、(おもて)をあげて観劇者達に視線をよこした。


(あっ!)


 食事の時とは明らかに違う、残忍ささえ感じる瞳と目が合った瞬間、獰猛(どうもう)な獣に身竦(みすく)められたかのように、身体がピクリとも動かなくなる。


(こ、こわい……!)


 だが——非常に残念なことに——この反応は、事実とはまったく逆の捉え方をされてしまった。


「ほう。ミーティア様は、あまり驚いていらっしゃらないご様子。それでは、もう少しだけ」


 言い終わるや否や、アンティゴンの左腕は何倍もの大きさに膨れ上がった。筋肉が太く隆々とし、血の管がメキメキと浮き出る。はじめの華奢な姿形とは、完全に別の生き物のようだ。


 身体と比べ明らかに大きく、アンバランスになったその腕に、指先から生まれた赤黒い炎が戯れるように巻きつく。手の表面を覆っていた黒のレース模様は、その熱に()てられ、松毬(まつかさ)の如く反り返っていった。



「は……」

 思わずミーティアは自分の口元を覆い、息をのむ。

もう十分だと思い切り叫びたいが、もはや声が出ない。


 部屋はどんどん熱くなり、際限なく薪がくべられる蒸し風呂のようだ。


(もう、だめっ……!)


 あまりの熱さにクラクラとし、助けを求めようとしたそのとき――

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