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最弱な能力に異世界転生した僕こそが最強の勇者に間違いないっ!  作者: ぴこたんすたー
第5章 勇者今こそ剣を振るい、運命を斬れ

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第23話 結果が分かっても空回りー3(現実世界シリアス編、全貌)

『ビュウウウー!!』


 太陽が見えない荒れた大陸に、激しく吹き上げる風。

 日光がよく映えるアメリコーン大陸から海を渡り、東にあるロッシーア大陸は雪にすっぽりと包まれていた。


「しかし、ナモナキ島も凄い吹雪だったが、ここも負けていないな……おじさん、お会計は?」


「いえいえ、運転席にて、話を聞いていました。魔王討伐をする勇者様ご一行ならば、無料タダで結構ですよ」


「よく僕が勇者って気づいたな」


「そうですね、強いて言えば、そのブローチが何よりの証ですから」

 

 どうやらこのアクセは、一部の人には有名な代物らしい。


「頑張って下さい。未来の運命を君らに託します。あと寒いですから()()を」


 長方形の白い包みを二つ貰う僕。

 このアイテムには見覚えがあった。


「これはリアルで重宝したカイロじゃないか」


「いえいえ、少しでも暖まってもらえばのこちらからのサービスです。この先は寒さが厳しいので……。

色々と大変でしょうが、道中気をつけて下さい」


「ああ、ありがとう」


「おじさん、お気遣い感謝します。ありがとうございました」


 心優しい運転手に見送られ、僕とミヨはロッシーア大陸の地に足を下ろした。

 

****


 ──空へと飛び立つ運転手が見えなくなり、しばらく雪の大地を歩いていると、何かの異変に気づいた。

 隣にいたはずのミヨがいないのだ。


「ミヨ、どこだ。こんな所でかくれんぼとかしたら凍えるぞ?」


 僕がミヨを捜して前方へと進むと、いつの間にか雪は止んでいた。


 いや、正確には止んでいたのではない。

 上には天井があり、そのせいか雪が降って来ないのだ。


 蛍光灯の灯りの少ない足元に広がっていた、リノリウムの床。

 扉を通した覚えはないはずだが、僕は知らないうちに、とある建物に入ったみたいだ。


『キーンコーン、カーンコーン~♪』


 暗がりの室内に、ふと流れる無機質なメロディー。

 このチャイムには聞き覚えがある。

 どうやら僕は、どこかの学校内に入ったようだった。


「……ねえ、あんた。今度こそ、うまくいくんじゃろうな」


「ああ。今関係を結んでいる娘の母親が、結構な金を蓄えていてな。これでワシらの借金もチャラになりそうじゃ」


 近くの灯りのついた扉から、何やら話し声が聞こえる。

 僕は近くまで来て、扉の上にあるネームプレートを見上げて、思わず衝撃を受ける。


 そのプレートには『職員室』の文字。


「まさか、ここは?」


 目の前の廊下を二人の女子高生が過ぎ去るのを、傍目にしながら思った。


 見慣れた制服に、ブレザーに刺繍してある校章。

 ここは僕がリアルで通っていた高校、そのものだということに。


「これであっしの企業ミスでできた借金とかも、すべてチャラやけん。あんたは大した男じゃな」


「まあ、それだけ、君のことを大切に思っているんじゃよ」


「ふふ、その金のちからで、姉の鋼音はがねを引き入れた癖にの」


「まあ、そうでもしないとな。彼女は勘が鋭いから、こちら側に引き入れるのには苦労したがな」


 部屋の中から、男女二人の声が聞こえてくる。

 声からして、両者とも年配の声。

 この声には聞き覚えがある。

 男の方は、あの蔭谷かげたに教師の声に他ならない。


 ()()()とは、異世界のあの姫のことだろうか。 


(だとしても、まだ情報が足りなすぎる……)


 僕は会話の内容を探るため、ドア越しに聞き耳を立てる。


「散々働いて、途方もない借金を返すのと、和賀わが家のことはワシらに任せて、ワシらの提供する新たな家で気楽な生活を送る……どっちの判断にするかは、明白じゃったが」


「……まあ、そのお陰で、こんな風に好き勝手できるわけじゃからの」


 扉の隙間から見える片方の男は、やっぱり黒いスーツ姿の蔭谷教師か。

 話からして、もう一人の女性は……。


『チュウチュウー!』


「わわっ!?」 


 予想外のネズミの鳴き声に驚き、勢いあまってバランスを崩し、体が前につまずきそうになる。


「誰だ!」


(ヤバい、見つかったか!?)


 心臓が張り裂けるような思いで扉が開く。

 その時間ときは一瞬だった。


 蔭谷教師が僕の存在を気にも止めず、今度は静かに扉を閉める。


「誰か、いたのかえ?」


「いんや、ただのネズミじゃよ。それより、今日は先に帰ってくれぬか」


「どうしたん、いつものように一緒に帰らんのかえ?」


「いやな、ちょっと大きなネズミもいてじゃな。そいつを駆除してから帰るからな」


「分かったわ。好物の肉じゃが、わんさか作って待ってるかんな。ダーリン♪」


 職員室から出てきたベージュのビジネススーツを着たおばあちゃんに、僕の背中が凍りついた。

 彼女があまりにも、あの人にそっくりだったからだ。


 その女性は急いでいるのか、僕に気づかない素振りで廊下を突っ切っていった。


「さて、邪魔者は消えたのお」


 女性が帰ったのを見届けた蔭谷教師が、僕の隠れている姿を見かける。


「ずいぶんと大きなネズミがいたもんじゃ。なあ、次悠仁じゆうじんよ」


「……やっぱりバレていたか」


 手洗い場に備え付けてあったゴミ箱から、のそのそと立ち上がる僕。


「頭隠して、尻隠さずと言いたい所じゃが、お主の隠れ方はモロバレじゃぞ」


「蔭谷、一つ聞いてもいいか?」


「ほお、何なりと?」


「実は異世界では、なんちゃって手強い敵さんなんて、やっていたりもするか?」


「ふっ……」


 僕のすぐ横に強風が吹き荒れる。

 軽量仕様の防寒具を少し裂き、肌に刺さる感覚……これは、かまいたちか?

 いや、窓も閉めきった閉鎖な空間で、風が起こるはずがない。


「人工的な風、フワリ系の呪文か」


「ほほう、中々、詳しいのお」


「忘れはしないさ。その呪文で殺られた時もあったからな」


「ふむ、この変装に薄々気づいてしもうたか。ならば!」


 蔭谷が物凄いスピードで飛び込んでくる。

 そして、僕の胸元に手をそっと当てる。


『オムレツ愛憎、あぢぢのぢー!』


「わっ、何するんだよ!?」


 僕は慌てて飛び退き、蔭谷から離れる。


 その途端に脇をかすめる、炎の直線的な攻撃。

 ゼロ距離で呪文をぶちかますなんて、とんでもない教師だ。

 

 下手をすれば、己も一緒にダメージを食らう。

 自爆技もはなはだしい。


「フフフ。やるのお。中々の身のこなしじゃないか……。

病欠生搾りグール!」


「わっ、危ない!?」


 間一髪で避けたのも最中、ひょうの呪文が前方を塞ぐ。

 早くも僕は逃げ道を失った。


「やはり、勇者とは名前だけか。いくさ馴れしていない若僧など、()()の敵じゃないのう」


「えっ、今、何て言ったんだ?」


「じゃから、所詮しょせんは勇者もどきじゃと」


「そうじゃない、自分のことを()()と言ったよな?」


「それがなんじゃ?」


(やっぱりそうか。やっと、確信が持てた!)


 僕は背中に提げているはずの見えない鞘を掴んで、呪文で塞がれた氷の山を砕き、その先にいる蔭谷に攻撃する。

 素人には逆上して、鞘で殴りかかったとかにしか見えないだろう。


 だが、蔭谷に当たった瞬間、その鞘が輝き出し、彼の体を瞬時に切り裂いていた。


『グハアアアー!?』


「今度こそ終わりだな。ジイ・エンド」


 この世界でも、背中に透明な武器があったのは、肌で感じていた。

 ただ、知り得た情報の相手は強敵なうえ、先手をついて攻撃するしかなかった。

 全ては僕の計算のうちだった。


「まさか、勇者の剣を持っていたとわね……。しかも現実世界にその剣を出現させるちからを持つなんて。ヘタレだった以前と違い、凄まじい勇者の魔力だね」


「ジイ・エンド。お前は罪を犯しつづけてきた。僕が代わりにお前に罰を与える」


「……あと、人間をあまりなめるなよ!!!」


「グアアアアー!?」


 僕による上下四段の攻撃が蔭谷に当たり、彼の体が職員室の奥へと吹き飛んでいく。

 周りにあった、デスクや資料の束を道連れにして……。


「ふふふ……」


 しかし、蔭谷だった者はスーツは乱れてボロボロだったが、一滴の血も流してなく、目立った外傷もない。


「ひょっとして不死身かよ?」


「そうでもないさ。本来なら勇者の剣を振るえば、我輩なんて一撃さ。

君のちからが未熟なだけ。真の勇者に目覚めるのが遅すぎたのさ……ぶつぶつ……」


 蔭谷が、何やら呪文を唱える。


 すると、職員室だった場所が切り替わり、見覚えのある城内に景色が変わる。


「ようこそ、新生の魔王城へ。歓迎するよ。勇者ジン」


 深い青緑の長い髪と、同じ色の瞳の相手……。

 蔭谷だった者は、黒い装束を着こなす少年のジイ・エンドに姿を戻す。


「やっぱりお前だったか」


「ご名答。いつから気づいていたんだい?」


「さっき、ここから出ていった老婆の教師が、()()()()に似てたからな。もしやと思って……。

彼女は死ぬ間際に、お前のことを恋仲のじいやとも呼んでいたからな」


「ふふふ。父親に似て、鋭い観察眼だね」


「まあ、親父みたいな、できる勇者じゃないけどな」


 勇者の剣をジイ・エンドの前方に突きつける。


 もう、僕はヘタレじゃない。

 沢山たくさんの勇気を仲間たちが教えてくれたから。


「さあ、みんなのいる場所を教えろ。どうせミヨも捕らえたんだろ」


「あははは。中々察しがいいじゃん。悪くない駆け引きだよ。

でも、その答えが知りたいなら、我輩を倒すことだね」


「ああ。みんなもう少しだけ待ってろよ!」


「ふふふ、早くも勝利宣言かい。我輩に歯向かうとどうなるか、じっくり教えてあげるよ」


 今、まさに最後の戦いの火花が散ろうとする時。

 松明のかがり火に踊るように揺れていた、二つの黒い影。


 その暗闇が大半の城内にて、勇者の僕と、子供な魔王との一騎討ちが始まろうとしていた……。

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