第八話 私たちの『Story』
―――眩しいよ。
ステージの真ん中から見た世界。
二人でぺこりとお辞儀。
陽ちゃんはピアノへ。
私は、スタンドマイクの前へ立つ。
……あれ?
足が、震える。
止まらない。
だって、いっぱいの視線が……。
胸が、ぎゅっと小さくなる。
怖い。
逃げたい。
その時―――
タララン……♪
やわらかな旋律が、耳に落ちた。
―――陽ちゃん。
最初の一音だけで、分かる。
―――『Story』。
何度も、二人で練習した曲。
何度も、何度も歌った私たちの『Story』。
さくら、大丈夫。
ココにいるよ。
陽ちゃん―――。
そっか。
ひとりじゃ……なかった。
すぅ――――っ
深く、息を吸って。
陽ちゃんの音に、歌を重ねる。
ふたりの道が、ひとつの物語になりますように―――。
……楽しいね、陽ちゃん。
わたし、幸せ。
胸の奥から、まっすぐ伸びていけ―――!
・
・
・
気が付いたらね。
拍手の海の中にいたの。
歓声と。
拍手の波と。
眩しい光でいっぱいの海。
海の中で、体がふわふわ浮いて、足の感覚がなくて……。
客席の隅で、深山くんが泣いてる。
くしゃくしゃの顔で。
袖で目をこすりながら。
それでも、誰よりも大きな拍手を送ってくれてる。
……ああ。
届いたんだ。
私たちの『Story』。
◇ ◇ ◇
校門を出たら、夜風が少しずつ。
夢から目を覚ましてくれた。
「……終わっちゃったね」
「うん」
アスファルトに伸びる。
仲良しの影。
「ねえ、陽ちゃん。……いま幸せ?」
「うん。人生で、一番しあわせ!」
陽ちゃんが笑う。
私も笑う。
街灯の下で、影が一つになる。
「……ねえ、陽ちゃん」
「ん?」
「もしね」
なんとなく。
本当に、何となくね。
「私がいなくなっても……ピアノ、続けてね」
「はぁ?なんでぇ?」
その声がおかしくって。
思わず、ふたりで笑っちゃった。
「ふふ。何となく……言ってみただけ。
―――ごめん」
「……変なのぉ~」
その声やさしすぎ。
―――ちゃんと、覚えておこう。
指先が、そっと触れる。
公園が近づいてくると。
ふたつの手は自然に一つになる。
……あたたかい。
―――ちゃんと、覚えておくね。
風が吹く。
木々が揺れる。
世界が、白く霞んだ気がした。
―――どうしてだろ。
少しだけ、胸が……。
「帰ろっか」
「……うん」
―――ねえ、陽ちゃん。
この時間ね。
ふたりの『Story』がね。
ずっと、ずっと―――続けばいいね。




