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蒼ノ旅人 ー蒼風のヘルモーズー  作者:
『オルカストラ』編〈2〉
110/139

第100話 VS 魔王メロ〈1〉

「…………ふぅーー」


 完全なる無意識。

 目の前にいる『最大最悪最強』の敵。

 から視線を意識を逸らさなかった僕がとれた、たった一つの正解。

 まるで生物が当たり前に行う『呼吸』なる生存行為をするかの如き『超自然』さ。

 自身から発せられた、限りなく重さのない花綿を吹いて飛ばすような至極繊細でありながら、百数十人の武装した集団を『一人残らず吹き飛ばす』ほどの力強さを持つ。

 背後に転がっている負傷者達にさらなる傷を負わせないよう『最高・最適』な加減がなされている『強風』を発生させた僕は、身動きひとつできなくなった戦闘不能者全員を、これから僕と魔王の二人で繰り広げられるだろう『血肉飛ぶ激戦』の範囲外へ。

 弱者など絶対に居てはならない『真の戦場』から遠ざけることに成功する。


『キヒッヒャヒヒヒ…………!』


 無意識の僕が行い、魔王が意識的に見逃した。

 この世全ての生物が諸手を挙げて絶賛するだろう絶対弱者の退避。

 これにより、この洗浄に立つ者は。周囲三キロメートル圏内に存在している者は。

 僕とラーラ、そして魔王だけとなった。

 こう言ってしまうと、限りなく悪口になってしまうのだが。

 数十秒もしないうちに始まるであろう戦闘の際に、巻き込まないように意識せざるを得ない邪魔がなくなって動きやすくなったのは、正直に言ってありがたい。

 魔王からしてみれば、九割九分が戦闘不能になっているこっち側の戦力など知ったこっちゃないと、戦場に転がしたままにして、僕の動きを大幅に制限できる大幅なアドバンテージを持つことができたはずなのだ。

 しかし、さっきの『遊ぶなら、三人で』などという意味不明なことを言って、強引に行われた『退避』を見逃したというのだから、なんとも言えない『複雑』な気持ちを抱いてしまう。

 相手の考えを推し量ることができないでいる僕は、ただただ魔王のペースに乗せられていた。

 下手に隙を見せたら、先程の超スピードによる強打で決着がついてしまう。

 そう可能性を考えて、僕が動けずにいると……


『キヒッ! さーてと! オイラは『メロ』っていうんだ。君のー……名前は?』


「…………ソラ」


『ええ? なんか他にも付いてる名前があるでしょ?』


「あぁ……? …………ソラ・ヒュウル」


 唐突に始まった自己紹介の強要。

 正直に名乗っていいものか悩んだ末、僕は正直に自身のフルネームを名乗った。


『キヒャヒャッ。そっかそっか。それじゃあ遊ぼう!!』


 遊ぼう。

 その辺にある、なんの変哲もない公園で。

 人生という有限を余すことなく使い、無限かに思えるほど溢れ続ける、恒久に残る思い出を至極全力で作っている、真の無邪気を持っている裏表のない子供がいいそうな。

 スルリと『嘘偽りない真実』であると確信してしまいほどの。

 魔王メロの『本心』を言葉にした、紛れもない本音。

 それを真正面から聞かされてしまった僕は、このような状況に置かれてなければ、相手が魔王でなければ、時間が許す限り、一緒に遊んであげただろうと思えてしまっている。

 しかし! 

 その言葉を発したのは無邪気な子供の形をした、この世全ての邪悪の化身『魔王』その者であり、それを前に僕は滴る汗の感触を緊張で強張っている肌で感じつつ、ボイラさんから託された宝真銀で造られた『オリオンの細剣』を魔王に向けて構え、一歩足を前に踏み込んだ瞬間。

 

 ものの数秒のうちに張り詰めた『戦争の糸』が——

 プツンという音を幻聴してしまうくらい……確かに、はち切れた。


「————ッッッ!! はァあああああアアッッッ!!」


『————キヒャッ! ヒャヒャハアアアアッッッ!!』


 緊張犇めく戦場で、先に動いたのは僕だった。

 両の脹ら脛を『ボンッ』という音と共に肥大化させた、僕ができる全力の肉薄。

 右手に持つ、今まで僕が持ってきた剣の中で随一の威力と強度を誇っているだろう『オリオンの細剣』を、強すぎる友の拳技『鬼拳』に倣い、軽く背に溜めて撃ち放つは。

 アロンズ戦の際に考案して、実行して、確かな痛撃だったと豪語できる、自身の脚力を剣突に乗せる絶大無比な一撃。

 それを自らの無策か策謀か、はたまた、ただの気まぐれか。

 僕以上の『速さ』を持っているに違いない魔王は、僕の後手に回る形で、僕が繰り出す自身の最速最大威力の攻撃の到達に対し、避けることなき意志を示す仁王立ちにて——


「————なっっっ!?」


 この上なく完璧に防ぎ切る。

 あろうことかこの魔王は、僕の『武器』での攻撃に対し、何かしらの武器を用意するまでもなく、繰り出された剣突を真正面か待ち受け、剣先が狙われた自身の胸部に到達する瞬間。

 奴は超速で迫り来る拳先の軌道上に自身の左手を置き、その親指と人差し指を使用して。

 まるで自身の周りを飛翔する鬱陶しい小蝿を摘むが如き呆気なさを以て。

 僕の全力の攻撃を。最大最速最強の剣突を。難なく、平然と、摘み止めてしまったのである。

 

『ヒヒャ! 全っ然軽いねッッ!!』


「————ッ!? うおぉォオっっっ!?」 

 

 魔王メロは、片手で軽々と摘み止めた剣先を、自身の身の丈にあっていない埒外の膂力をふんだんに使い、上へと放り投げるように持ち投げた。

 唯一の武器を手放すわけにはいかない僕は、持ち上げられた剣柄を掴んだまま、宙を踊ってしまう。しかし、戸惑いつつも、混乱はしない。

 依然、僕の頭の中は無色透明だ。

 事前に立てられていた、兵士と聖騎士達との作戦から大きく外れてしまっている現状にあろうと、冷静さを保てている僕は咄嗟に風の加護を使用して『空に風の足場』を作り出す。しかし、僕が魔人戦で披露した急拵えの空中移動を行う間もなく、メロは僕に対して次手を取った。


『【ボアッッッ!!】』


 地上六メートル地点まで投げられている僕に向け、大きく口を開いたメロから発せられたのは、この戦闘前に数多の兵士全員を戦闘不能にしてしまった、魔王が誇る大砲声。

 おそらく、この『大砲声』の真価は大地と天空を揺るがすほどの音量ではない。

 その真なる本領は『振動による肉体の内部攻撃』であると、僕は先の初見で確信していた。

 凄まじい声量による超音暴力から生まれる、致命傷になりうる激しい振動、所謂『震攻』と呼ばれる超攻撃の影響で、臥した兵士は目や耳鼻から多量の出血をしていたのだろう。

 この振動攻撃を直撃することは『終わり』を意味している。

 それを、ゆっくりと進んでいる時の中で思考した僕は——


「はああああああああああああああああッッッ!!」


 魔王の大砲声に付属する『震攻』についての情報は、事前にボイラさんから聞かされていた。

 しかし、方向性を持たせた声音という、文字通り『音速』で突き進んでくる強力な攻撃を防ぐ手立ては、人力ならば皆無に等しいと言えるだろう。

 そんな、その辺の魔法以上の攻撃を、比喩抜きの『完全初見』で僕が防げたのは、全身から汗を噴き出し、身体が小刻みに震えてしまうほどの襲いくる猛烈な悪寒によって、命令系である脳を抜きに、迫り来る死を拒否した肉体が勝手に行使した『脊髄反射』によるものであった。

 僕の『無意識』が行った最適な行動。最適なアクション。

 それは、風の膜を膨張させて作り出した『風のドーム』の中心に、僕を置くというものだ。

 それにより、僕は外界を震わせる震攻による攻撃を受けることなく、今もなお、隔絶した実力差が存在している『メロ』と相対し、戦えている。

 そして二度目の震攻に襲われつつあった僕は、自身の肉体が『自動』で行なった震攻の防御方法を『能動的』に行うことによって、音速で突き進んでくる攻撃を防ぐことができた。


『キヒッ————』


「————ふぅー」


 今この瞬間。お互いの『一番の武器』を見せ合って、撃ち合って。

 そして防ぎ合った僕とメロの両者は、一辺倒に自身が持ち得る『必殺』を使い続けても、お互いに『封印ノ聖歌』が歌い終わるその時まで、無視できぬ傷を負わせることはないと悟った。

 そう悟りながら自由落下に入った僕は、どうすれば封印ノ聖歌が歌い終わる、残り九分というまるで無限に錯覚してしまう長き間、この強すぎる魔王を足止めできるのか。そう思考する。

 対して、一度目の『震攻』を防いだ僕が、もう一度震攻を『防げる』と踏み、最悪、千年ぶりに始まった楽しい『遊び』が終わってしまうという可能性がありつつも、選別とばかりに撃ち放った『半分以下に威力を調整』した砲声。それをものの見事に防ぐことができた、今も宙に身を躍らせている僕のことを地に立って見ている魔王メロは……ただただ、無邪気に笑った。

 そうして地面に着地し、対面した僕とメロは、お互いを見つめ、静かに、身体を前傾させる。


「『————」』


 お互いに最大の武器を封じられた騎士と魔王が並ぶ戦場、微かに聞こえる、絶世の歌声を世界に轟かせる、歌姫の『封印ノ聖歌』を耳に入れて——


「————ッッッ!! がああああああああああああああああああああッッッ!!」


『————キヒャ、ヒャヒャヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!』


 これにより始まるは——何人も近寄るべからず!

 激戦に次ぐ熱戦に次ぐ絶対死戦!! 

 血肉踊り散る、地力で難攻不落の敵を制すだけの、熾烈な肉弾戦であるッッッ!!

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