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蒼ノ旅人 ー蒼風のヘルモーズー  作者:
『オルカストラ』編〈2〉
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第99話 平野に轟く『大砲声』

 静かでありながら暖かく、この世すべての自然が芽吹く命明の春から始まって、陽光照りつける夏で完全に成った、枯れ果てた命でさえも涙する美しき緑葉に染まった自然を見るも無惨な姿へと枯らし果たし、いつ如何なる時も生命の終わりは呆気ないと。

 そう酷薄にも思える無心なる世界で生く命に教示させてくる秋という季節が、この世の果から迫り来る白と灰の色をす冬から、その枯れ果てた身を守るための逃げに入るが如く、僕達の前から長きに渡り姿を隠そうとしている途中で、僕達は四年に一度の周期で迎えられるオルカストラの祭事『聖歌祭』が始まり、それと同時に終わる日を、この国に住まう民全員が迎えた。


「…………うん。やっぱりコートがあった方がいいな!」


 一一月三〇日の午前六時ごろ。久方ぶりに仮眠と取り、体力と精神ともに『完全回復』した僕が、寝巻きからいつもの服装に着替えを終えると、僕の前に立つ姿見の前には、ミファーナに到着してから、いまの今まで一度も着用することが——アロンズの『クソ野郎』に至る所を切り裂かれていたせい——できなかった、爺ちゃんからのお下がりで、溶けてしまいそうなくらい暑かった夏でも肌身離さなかった『茶色のコート』を完璧に着こなす僕の姿が映っていた。


 全身鏡を自発的に使用するのは僕の柄ではないのだが、約一月ぶりに感じるコートの重さと、それを着用している僕の姿をこの目で確かめるため、鏡を使うのは必要不可欠だったのである。

 そんな感じで、超が付く『ビンテージ物』らしいコートの重みを全身で受け止めている僕は、故郷の村を旅立つ時の感覚を思い出しながら、絶対に失敗できない魔王戦前だというのに至極落ち着き払っていた。身支度を終えた僕が借りている部屋を出てると、僕の部屋の前にある廊下の壁際で、着替えをしていた僕が出てくるのを待っていたのだろう、ラーラと顔を合わせた。


「あははっ! ちょっと『おじさん』臭いんじゃない?」


「え……? やっぱりダサいの、この格好……」


「うーん……ダサいとは思わないかな。ちゃんと似合ってると。ふふ。かっこいいわよ?」


 やや照れ臭そうに頬を赤らめながら、かっこいい、そう褒めてくれたラーラに、僕は『本当にぃ?』と疑うような顔で、以前にアミュアちゃんから言われた『誹謗』を口から出す


「この格好さ、半年くらい前にも『田舎臭い』って言われたことあるんだよねぇ……」



「? 誰にそんなこと言われたの?」


「え? アミュアちゃんっていう『エルフ族』の人だよ」


「…………女の人?」


「うん。これくらいの女の子」


 何かしらに探りを入れるような目で、アミュアちゃんの性別を問うてきたラーラに、僕はまあまあ——かなり——誇張しつつ、彼女の身長を自分の腰の高さくらいであると答えた。


「あ、子供か」


「うん。子供」

 

 あの人を子供呼ばわりしたら、ツインテールの鞭打ち刑に処されるだろうな。

 まあ、流石の地獄耳もここまでは聞き取れまい。大丈夫。……大丈夫だよな。


「ふーん……じゃあいいや。ほら、はやく一緒に朝ごはん食べましょ。私が朝早くから頑張って手作りしたんだから。一緒に食べたら『ミファナ平野』に出発よ。ほらほら!」


 なんだったんだ。今の質問。僕はそう思いつつ、その疑問を別に口に出すことはしなかった。


「え……あ うん。分かった」


「ほらほら! 早く早く!」


「べ、別に押さなくてもすぐに行くってば」


「いいからいいから! ほらほら! 早よ早よ!」


 そうして僕とラーラの二人は、先に食卓についていたものの、僕達を食卓を囲むために待ってくれていたボイラさんの三人で、ラーラが作ったという、やや黒く焦げてしまっている、弾力が凄まじすぎるパンと、適当に切ったのだろう、ざく切りの野菜がゴロゴロ入ってる薄味の鶏がらスープを食し、魔王戦の支度を終えて、屋敷の前に待っている馬車に乗るため外に出た。


「ラーラァッ! お前はこの三日間、みっちりとアタイが鍛えてやったんだ。下手こいてアタイの顔に泥塗ったら承知しないからねッッ!! 返事!!」


「押忍っ!」


 まるで武術の師範と弟子だ。完全に置いてけぼりになっている僕が堪らず汗を流していると、今から魔王封印へと臨むラーラの覚悟を問うように、嘘を吐けない腹の底からの声を打ち上げることを求めたボイラさんの一言で、ラーラは腹の底から引っ張ってきた『逃げない勇気』を喉奥から大きく吐き出して、それを聞いたボイラさんは口角を上げて、よッシャ——と頷いた。


「ハッ! ガキのくせに良い声じゃねえか……よっしゃ! 魔王をテメエの歌で聴き惚れさせてこい、バカ娘!!」


「ラジャー!!」


 バシンッ、と。ボイラさんに背中を強烈に叩かれたラーラは『痛ったぁ!?』という苦悶の表情を浮かべつつも、しかしそれを声には出さず。見上げればある蒼天のように美しく晴れた笑顔と、竦みかける背中を叩き押してくれたボイラさんに背を向けて、パリオットさんが運転する、あの時と同じ、ニューギルスたちが引く豪奢な馬車へと乗り込んでいった。

 その豪奢な馬車は、聖歌祭の特別仕様で、天井がオープンされている。

 大衆によく顔を、そして堂々たる姿を見せるためだろう。

 腰に僕の鏡面剣を差しているそんな彼女の後ろ姿を眺めていた僕が、借りっぱなしになっている『兵士の剣』を持って、先に行ったラーラを追いかける形で馬車へと向かうと、突然、


「待ちな」


 と、ボイラさんに呼び止められてしまった。


「? どうしました?」


 背を向けていた僕は、彼女の方に向き直る。急に呼び止めるなんてどうしたんだろうか。

 まさか、僕の背中を奮起奮闘させるように蹴ろうとしているのか。

 痛そう。僕はそう思いながら、来いとジャスチャーしているボイラさんの元へ向かった。

 

「ソラ坊、オメエ、そんな剣で戦うつもりかよ」


 ボイラさんは、僕が手に持っていた『兵士の剣』を指差し、唐突にそんなことを言った。


「え? あ、はい。僕が持っていた鏡面剣は、前見せたとおり半分になっているので、これを

使わないと……」


 剣身が半分になってしまっている鏡面剣は、御守りとして、ラーラに渡している。 

 歌姫が剣を腰に差すどうなの? なんでそんなに欲しがるのさ。これ壊れてるよ。

 僕は彼女にそう言ったのだが、戦乙女ってやつよと押し通されて、渋々譲渡したのである。


「んなもんよりも良い物があるぜ——ほらよ」


「うえ? こ、これは?」


 急に呼び止めて、どうしたんだ? と思っていた僕に、謎にニヤッと口角を上げているボイラさんは、脇に抱えていた白い布に包まれている『何か』を僕へと放り投げた。 

 それを慌ててキャッチした僕が、ボイラさんの『その布を取れ』というジェスチャーを受けて、白布に包まれている『何か』を取り出すと、中から現れたのは、一本の『細剣』であった。

 細身の刀身をしまっている鞘は、おそらく僕のコートの補修に使われた、バルムッサの剛皮と、なんらかの大樹。剛強な木材を使用しているのだろうと思わせ、この鞘だけでも一つの武器になり得ると僕に考えさせるほどの、途轍もない『力強さ』というのをヒシヒシ感じさせる。

 そんな剛強すぎる鞘にしまわれている『細剣』の柄は、以前に僕が見たことのある『銀の輝き』を煌々と放っており、ただの鞘だけでも一級品だろうそれは、僕なんかじゃ到底手が出せない代物であると確信させた。

 一級の武器なのであろう物を手に持って、興奮を隠しきれない僕は、我慢できるわけがないとばかりに、今も僕の手中にある細剣を、その威力を封じている剛強な鞘から引き抜いた……。


「————おお…………眩しい」 


 右手で持たれた柄の先、鞘から姿を現した刀身は、鏡面剣以上の輝き。

 陽光煌めく『銀』の煌めきを放っていた。


「それは、今から千年前。最初の魔王封印の際に『風の勇者』が実際に使ったっていう逸話がある、オリオンシルバーっつうラーラの腕輪の材料にもなっているもんで打ち造られた剣さね。一応、聖歌祭の時に使う祭事用の剣ってことになってるが、今の今まで使われた試しはなかった。だが! お前なら、風の加護を授かってるソラ坊ならば、それを使うべきだと、アタイは思ったんだ。だからね、それで愛娘に怪我をさせようっつう魔王をぶった斬ってやんな!!」


「…………あの、魔王は倒したらいけないんじゃ……?」


「細けーこと言ってんじゃねえ!! アタイの娘を傷つけようとする奴は魔王だろうが勇者だろうが関係なく殴る! そんだけだ。いいかい、ソラ坊。魔王は聖歌の影響で力が半分以下になってるつう話だ。だけどね、くれぐれも舐めたりせず、気を抜くんじゃないよ」


「…………押忍ッ!」


「ハッ……いいじゃねえか。行ってこい馬鹿息子!!」


「っっ——行ってきます!!」


 じいちゃんを思い出させるような豪快な笑みを浮かべているボイラさんに、


 バシン——ッッッ!!


 と、ラーラ以上の力で思いっきり背中を叩き押された僕は、スッキリした覚悟を決めた顔で、ラーラが待つ馬車へと向かっていく。

 そんな僕の腰には、借りパクしていた兵士の鉄剣ではなく、ボイラさんから託された『宝真銀の細剣』が差されていた。

 万全なる準備。完成した心意気。

 生まれも育ちも違うけど、確かに同じものを持っている勇者の卵と新人歌姫の二人は、ミファーナ北に存在している『ミファナ平野』へと、国民総出で見送られながら向かうのであった。


 + + +


「見えてきましたよ!」


 大衆に見送られながらミファーナを出て、さすがの豪速で『北』へ駆り進むこと、約一時間。 緊張した面持ちでニューギルスたちを操っていたパリオットさんの一言で、屋根のない馬車に乗っていた僕とラーラは、操縦兵の彼女が前方へ向けている指の先を、視線で追いかけた。


「あそこが、ミファナ平野です! あそこの平野にある魔封土の下で、魔王が封じられているのです! ラーラ様が向かうのは、魔封土から離れた壇上で、前線を張るソラ様の配置は魔封土の側の『魔王戦地』です!」


 僕とラーラの視界に広がっているのは、事前に聞いていた『ミファナ平野』と呼ばれる、凄まじい広大さを誇っている、オルカストラで歌姫の次に有名な『魔王』が封じられている名地。

 そこには、百人を超えるオルカストラの兵士たちが待機している、超大掛かりな待機所があった。あの四人の聖騎士が待機しているのだろう、クラウディア聖王国の国旗が刺繍されている、白一色の大きなテントも設置されている。さすが聖王国のエリート。待機所の質は別格だ。

 僕達は先に平野に入り、早くから待機していたオルカストラの兵士たちに挨拶を済ませた。

 そして、各人は決められた配置に着く。

 百数人もの兵士と、騎士である僕。さらに三人の聖騎士は、魔封土と呼ばれている、泥を上から滴らせ、積もらせたような歪な三角形をしている、黒紫の土がある『魔王戦の最前線』へ。

 そして、残り五十数人の兵士たちと、たった一人の女性聖騎士は、聖歌の壇上と呼ばれる場所で、十分間『封印ノ聖歌』なる歌を歌い続けなければならない、歌姫・ラーラの守護に就く。

 復活の時間。正午の時に間に合うように、僕達戦闘隊は馬を危険に合わせられないため、徒歩で絶対侵入禁止地魔封土へと向かう。


「ソラ!」


「? どうしたの?」


 猛々しい熱を周囲に感じさせるほどの、人外じみた莫大な戦意を立ち昇らせながら、決戦の場へ向かおうとしていた僕に、全四つの擬似宝具全てを装備しているラーラが話しかけてきた。


「…………ううん。ふふっ、一緒にがんばりましょ!!」


「————うん。全力で、ラーラを護り抜くよ」


 頑張って。気を付けて。そう言おうとしていたのだろうラーラは、至極万全に仕上がっている僕を見て、それは不要だと思ったのか、ふるふると首を振って、晴れやかな笑みを浮かべた。


「ずっと信じてるからね。行ってらっしゃい!!」


「行ってきます!!」


 + + +


 音が遠のく決戦の地——魔封土の前。そこに、僕達はいた。

 毒々しい色の土が作る、歪な三角形の前。魔王戦の最前線に立っている僕は、腰に差している『宝真銀の剣』を引き抜き、眩い銀光を周囲にチラつかせる。

 陽光と同等の眩さをしている銀光に呼応するように、数メートル後方で配置についていた百数十の兵士たちが、一斉に各々の武器を装備した。

 数時遅れて、正午を迎える数分前。僕の隣、僕と同じく最前線に立っている二人の聖騎士が、槍を、戦斧を構え、静かに目を瞑っていた。

 隠しきれない『魔族への憎悪』を周囲に発散している、聖騎士隊を任されているエリート。

 マキシオス小隊長が、その左腕で、腰に差されていた、僕の銀剣とは対極の、太陽のような輝きを発している『黄金の剣』を抜き、そして構えた。その構えと同時刻。ついに時が満ちる。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。


 大地が小刻みに揺れ動き、僕の目の前で、歪に積み重ねられていた魔封土が、ぽろぽろと上部から崩れ落ちていく。心も体も確かに構えられている『戦士』たちの間に緊張が走り抜ける。

 これから何が起きるのか知っている者も、何一つ知らぬ者も。等しく高まり続ける緊張感を共有する中。武者震いで汗を流しそうになっている僕は、ゴクリと、静かに息を呑んだ。

 そして、僕達の目の前にあった『魔封土』が、大きく爆ぜる。


 ドンッ——ゴロゴロ


 鼓膜を傷めるほどの爆音が轟く中、目前の魔封土の爆砕により発生した粉塵で視界が奪われてしまっている僕達は、困惑しつつも混乱はせず。皆が目の前に居る、この世のものと思えない常軌を逸した存在感を発している気配の主——復活した『魔王』への最大限の警戒を続けた。


『キヒッ、キヒャヒャヒャ! おっはぁよぉ〜〜〜〜!』


 警戒を続ける僕達の耳に届いたのは、まだ見ぬ魔王の声。世界の害悪『魔族の王』という架空の敵を想像していた僕達・魔王戦未経験者の驚愕を一気に掻っ攫う。あまりにも幼い……声変わりをしていなさそうな高い声の主は、土煙が風で吹き飛び去った中から、その姿を現した。


「なっ!?」


「こ、子供……!?」


「あれが、魔王なのか……!?」


 口々に混乱を吐き出す『魔王戦未経験』の兵士たちと同じく、僕は目の前に立つ魔王……なのだろう、アミュアちゃんと同じくらいの背丈をしている『子供』に視線を釘付けにした。

 黒緑色の髪と目。やや猫背気味になっている身長は『百三十センチ』後半くらい。

 しかし、僕の目を引くのはそんなところではない。

 皮が弛むほどに異常肥大化している喉。

 そして、羊のようにうねった歪な形をした、自身の後方へと向かうように頭から生えている、鬼人とは毛色が異なった二本の角。その子、否〝魔王〟は、嫌な奴——アロンズ——のことを思い出させる独特な笑い声を上げながら、動揺する僕達に気の良い挨拶を吐く。

 あまりの動揺で顔を引き攣らせてしまいながら、この中で一番の実力者であろう僕をじぃーっと見つめる魔王の視線により、全く身動きができない僕は、ただ、魔王と視線を交わした。


『お? おお? おおお? おおおおおおおおおお!! キヒャヒャア! おっひっさ——んんん? ありゃりゃ別人かぁ……』


「…………何を言ってる?」


『んーー? 君には関係ないよぉ〜ん! キャハッ!』


 僕を見つめていた魔法は、まるで『僕のことを知っている』かのような、至極楽しそうな顔で声を上げようとして、ピタリと止まる。

 唐突に顔を怪訝にした魔王は、何かを探るように、再び僕に視線を集中させる。

 すると自身の知っている者とは何ら関係がなかったようで、どうした? という顔で問いかけた僕に『なんでもない』とその会話を終わらせるように手をひらつかせた。やけに緊張感のない魔王に僕が目に見えて戸惑っていると、立ち止まったままの僕の隣で『地面が爆砕』した。

 

「魔オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウッッッ!!」


「————はっ!? マキシオスさんっっっ!?」


 戦意を一切感じさせない魔王に、両手で構えた黄金剣の切っ先を向け、叫び突撃していくのは、聖騎士隊の小隊長マキシオスさんだった。

 彼が実行した突然の『特攻』に、驚愕した僕は汗粒を周囲に散らしつつ、無謀にも思える彼の突撃に合わせて駆け出そうと力強く地面を踏み締め——


 今までの気の抜けた会話の中で、僕が魔王に対して先陣を切らなかったのは、なにも考えがなかったというわけではない。

 僕達は『封印ノ聖歌』をラーラが歌い終える十分の間、ただ、魔王を足止めすればいいのだ。

 それを先程まで行っていた会議で聞いていた僕は、魔王を倒せないという制約もあるため、その『足止め』に納得し、賛同していた。

 だから、先の会話を無理矢理にでも続けて、今この時も着実に進んでいる時間を稼ごうという下心があったのである。

 それを、彼、マキシオスの特攻で完全に崩された。

 今この時、避けられぬ戦いが始まってしまったのである……。


 それを一瞬で理解した僕は、不殺の制約で締め付けていた、魔族への憎悪と殺意を解放、莫大な戦意を体外へと放出しながら、剣を構え、先を突き進む彼の後を全速力で追おうとした。


 しかし——!!


 ドゴォッッン


 という轟音と共に空へ打ち上げられたマキシオスの姿を視界に入れた僕は時を止めてしまう。


「ゴォ————ッッッアガ!?」


 今の一瞬で、一体なにが起きたのか。この場で理解していたのは、いや。

 魔王の動きを目で追えていたのは、この場で僕だけだった。

 僕よりは遅いものの、人外じみた速さで突撃していくマキシオスさん。

 よりも速く、魔王は動き、奴は僕ですらも目で追えなかった拳速を以て、突撃の走を止めかけたマキシオスさんの腹部を『強打』したのである。


『魔王は『封印ノ聖歌』の影響で、元の半分の強さだ』


 馬鹿を言うな。

 半分? 半分の強さだと? 

 僕は、僕は、魔王の動きを全く目で追えなかった! 

 奴の速さは僕の体幹で、トウキ君やカラス以下だ——がしかし!

 僕以上の強さを持つ、強者だったアロンズよりも、断然速い!!


『【ボアアアアアアアアアアッッッ!!】」


 致命的なミス。緊張で足を止めてしまった僕はそう悟った。僕の役目はコイツの足止め。前線で、兵士たちを置き去りにするほど戦わなければならなかった僕のミス。それは、そのミスの結果は——魔王の焼け爛れたかのように異常肥大化している喉から発せられた、十分という、長すぎる時間も続くこととなる、戦いの開戦を告げる『大砲声』の轟によって、僕に示された。


「ぐぅぅぅっ……ぅぅぅっ!? なんだあっっっ!?」


 魔王の大砲声——振動による攻撃を防げたのは、風の加護を持つ僕と 震攻対策のためにと過去の人間が用意した、空の耳飾りをつけるラーラだけだった。


『キヒャッヒャハハハハハハハハハハハハハハハ!!』


 全・滅。

 僕とラーラ以外の全戦力が、先ほどの魔王の大砲声によって、戦闘——

 否、行動すらままならないほどの、穴という穴から血を流すほどの重傷を負った。

 魔王封印・決戦を行う『ミファナ平野』に立つ者は……。


『遊ぶなら、あの時みたいに三人で! キヒャヒャヒャ!!』


 その死刑宣告のような言葉は、雲一つない絶望写す蒼穹へと吸い込まれていく。

 戦場に転がる戦闘不能者達を背にする僕は——流れる汗を、地に落とす……。

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