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蒼ノ旅人 ー蒼風のヘルモーズー  作者:
『オルカストラ』編〈2〉
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第97話 収集が終わり、開戦を待つ

 昼。太陽が中天から少しずれた時間帯。僕達はラッパリオの門前にて顔を見合わせていた。

 

「それじゃあね、パリィ」

 

「ラーラもまたちょ。新年にボイラ様ん家に行くから、美味しい料理屋に連れてってな」


 ハイタッチし合うのは、乗車する手前のラーラと、ラッパリオに残るパリィだ。

 仲睦まじい二人の少女。それを見て、僕も離れている友人たちのことを思った。

 仲良さげ。歳も近い。お互いにいい意味でさっぱりとしている。

 ここだけ切り取ってみると、二人は姉妹のようだ。

 まあ、服の好みとかがまるで違うから、似ているとは言っても赤の他人としか思われないか。

 淑やかだけど根底にパワーがあるラーラ。

 ふざけてるけど意外としっかりしてるパリィ。

 うん。似てるようで似てない。そっくりなようで別人。そういう結論に僕は至った。


「美味しいパスタ料理屋を探しとくわ」


「いや、熱々の鉄板料理がいい」


「いや、私はパスタがいい」


 おいおい、二人は似てるって言った瞬間に相違が生まれちまったよ。前言撤回だよ、マジで。

 お洒落なパスタ料理が食べたいラーラと、豪快な鉄板料理が食べたいパリィ。

 食の好みも違ったのか。甘いもの好き同士なのに、そこは違うんだな。

 

「えぇ? まっ、いっか。じゃあ、来年よろすく!」


「はいはい。それじゃ、また来年」


 さっぱりしているところはやっぱり似てるんだけどなぁ。僕はそう思いながら、馬車に乗り込もうとするラーラに手を伸ばした。そして優しく引っ張って、彼女を乗車させる。

 すると『ヒューヒュー』とラッパリオ家の人たちが囃し立てる。僕はなんなんだよと思った。


「ウィー! またねーん」


「ラーラたん。魔王様のことは頼んだっちよ」


 唯一、リヴィラさんを庇ってくれた守護者、ラッパリオ家現当主のお婆さんが、ラーラになんらかを託した。僕はピクっと眉を揺らしたものの、しかし追求することができなかった。


「はいはい。お婆ちゃん、また来年ね!」


「あい。ボイラっちによろしく言ってって」


 ボイラっち? ボイラっち!?


「うん。またね!」


 ……して、現在は一一月の一七日の正午前。ラッパリオ守護町に到着してから、かれこれ三日ほど滞在していた僕とラーラ他、擬似宝具収集隊は、次なる目的地。

 何物にも染まることのない『世界樹のドレス』なる最後の擬似宝具を貰いに、ドラムッタ守護村へ向かうため、この四日間で十分に体を休めたニューギルスたちを繋いだ馬車に乗り込む。

 この滞在中に世話になった、今まで出会ってきた擬似宝具を守護者する貴族たちとはまるで毛色が異なっている、こう言ってはなんだが、発言や行動が非常に軽々しいラッパリオ家の人たちに旅立ちの別れの挨拶を済ませた、

 そうしてラッパリオに住む陽気な人達と、チャラい貴族達に見送られながら、僕達ラーラ一行はラッパリオを出発し、次なる目的地がある南の方角へと駆けてゆく。背を向けたラッパリオの景色が遠のき、見えなくなってしまったことを、身体を捻りながら確認した僕は向き直り。

 対面に腰掛ける、パリィから貰った——というか、お揃いの物が欲しいと言って、パリィに無理やり奢らせていたような——二人お揃いのブレスレットを見ているラーラに視線を向けた。


「よかったね、お揃いで」


「ん? ふふっ、いいでしょ?」


「うん、似合ってると思うよ」


「……! もうっ……ありがと」 


「こらこら! 私に聞こえるところでイチャつくなぁ!」


 僕とラーラの、別にイチャついているとは思えない会話に混ざり、やや嫉妬の念を感じさせる大声を張ったのは、重要な職務中に地酒を一瓶丸々呑んで、案の定、重篤な二日酔いに罹り。

 小腹が空いたからと、数日前に秘密裏に購入していた鶏卵で作られた『煮卵』を食べて腹を壊し、出発を予定日から一日もズラす原因を作った、なんちゃって操縦兵のパリオットさんだ。


「ソラ様、なんか失礼なこと考えてませんか?」


「…………いやいや」


「いやいや! 今の間はなんですか!?」


「まあ、傷んでると理解できる卵を食べるのは、大人としてどうなのかなぁって思いました」


「……あ、なんかお腹が変だな。ちょっと黙りますね」


 妙に勘は鋭いくせに、毒煮卵を食べてしまったパリオットさんは、自分の形勢が圧倒的に不利だと瞬時に理解し、すぐさま僕と繰り広げようとしていた『舌戦』から撤退した。

 堪らず「はぁ」と大きな溜め息を吐いてしまった僕と、体裁が悪いからここは逃げるぜ! と手綱を握りながら肩で耳を塞ぐパリオットさん。

 そして、僕達の至極くだらない会話を聞き、面白おかしそうに「クスクス」と笑っていたラーラの三人は、他兵士達を乗せた馬車を追従させながら、普通の馬とは比較にならない凄まじい速さで道路を駆り進んで行き、三日間の移動の末、四つ目の守護地であり『最後の目的地』でもある『ドラムッタ守護村』に到着した。

 そして特に何事もなく、ラーラは最後の擬似宝具である『世界樹のドレス』を『ドラムッタ一族の当主』から受け賜わった。一ヶ月近い長旅の目的を達成した僕達ラーラ一行は、三日ほど掛けて、長旅の出発点であり、僕達の旅の帰還を首を長くして待っている——とは思えないが——だろう、ボイラさんが居る、オルカストラの首都『ミファーナ』へと帰還したのだった。


「ただいま、お婆ちゃん! お土産があるわよ!」


 屋敷へと入り、開口一番にラーラが言ったのは、ボイラさんへの『ただいま』だった。


「今帰りました、ボイラさん」


 僕もラーラと同じように、自分が無事に帰還したことを伝える。


「おう、おかえり。って、おいコラァ、ラーラ! テメエ、手洗いうがいをしてねえのにソファに座ってんじゃねえ! おい、ソラ坊! お前はさっさと飯を作るんだよ!!」


「はーい!」


「わ、分かりました…………」


 変わらないなぁ、この人も。ブレないというか、芯が大木並みというか、なんというか……。

 言われるまでもなく、手洗いうがいを実践した僕はラーラとすれ違いつつ、彼女に言われるがまま、キッチンへと直行。何を作るかなぁ、と食糧庫で悩んでいると、ボイラさんが言った。


「テメエら! 今日は祝賀だよ! 思っクソ贅沢するぞ!!」


「「ラジャー!」」


 * * *


 四つの擬似宝具を各地で収集していく長旅を終えて、約一ヶ月ぶりにミファーナの地を踏んだ僕とラーラの二人は、相も変わらずと行った、とても力強い『おかえり』を言ってくれたボイラさんと、長旅で疲れただろうといった感じで、事前に用意してくれていた高級食材を活かした贅沢——贅沢とは言っても、長旅を終えたばかりの僕が料理を作らされたのだが——を尽くし、知らず意外と溜まっていたらしい疲労を癒すように、ぐっすりと床に就いた、翌日の朝。

 僕は一人で街中に出て、南大通りにある『ロッキィの仕立て屋』へと向かっていた。


「…………たしか、この通りだよな」


 魔王復活の日まで残り『六日』という差し迫った状況の中、


「聖歌祭の日まで自由だ。やりたいことがあるなら、勝手にやるんだね」


 というボイラさんの一言と共に、最前線で歌姫を護る騎士である僕は、聖歌祭を迎えるまでの六日間の休暇——もとい、魔王戦に備える『準備期間』を与えられて、今に至る。

 ロッキィさんはコートの補修は『一週間』くらいで終わると、そう言っていたのだけど、なかなか時間が作れなかったので未だに取りにいけてはおらず。

 かなり遅れてしまいながら、今とりに向かっているのである


「ここだ! ……すいませーん! 遅くなりました!」


「……? ああ、ソラ君!」


 鼠が我が物顔で走っている路地の路地。小綺麗で洒落ているその扉に手を掛けた僕が勢いよく押し開けて声を出すと、店のカウンターの側、そこに置かれている椅子に腰掛けながら、今日の日付をした新聞を読んでいたロッキィさんが顔を上げて反応する。彼は久方ぶりに姿を現した——アロンズに切り裂かれたボロッボロコートの補修を依頼した僕を見て、和かに笑った。


「よく来たね。コートの補修は無事に完了したよ」


「あ、取りに来るのが遅くなってすいません! ちょっと外せない用があって……!」


「あの歌姫の『騎士』に選ばれたんだろ? それで歌姫が身に着ける宝具を回収しに行ったとか。長旅だと聞いてたけど、無事に帰ってきてくれて安心したよ。ほら、これだよ、これこれ。補修っていうか、ほぼ修復だったけど、君が依頼していた——ブリンゲッツ作のコートだ」 

  

 爺ちゃんのお下がりコートの『製作者』の名前を言いながら、カウンターの横に置かれているハンガー掛けを指差すロッキィさんの指の先を視線で追った僕は、布製の衣類カバーに覆われている『一着の衣類』を確かめ、興奮抑えられぬとばかりに駆け寄って、そっと手に取った。


「ぉ、おぉー……! 色まで、完璧に直ってる……!」


「修復に使用した材料は、年中温暖な気候をしている『オルダンシア』で生育された『剛牛バルムッサ』の剛皮だよ。並のことでは傷一つつかない出来になっているから、多少無茶しても修復前のような状態にはならないはずだよ」


「……ありがとうございます、ロッキィさん!!」


「いえいえ。仕事ですからね。来たる魔王封印——頑張ってね!」


「————はい!!」


 こうして、僕は夏場でも肌身離さなかった大事なコートを手に入れて、ウキウキした心持ちで仕立て屋を後にした。

 しかし僕の心の中には、木のささくれのように引っ掛かる、今まで少なからず感じていた違和感が存在していた。


『魔王封印』


 なぜ、聖歌祭の主な目的が『魔王封印』なのか。

 なぜ、魔族の王を冠している魔王を討伐せずに『封印』するのか 

 それが、僕が今までで感じていた違和感の正体。

 それに、ラッパリオ家の当主である老婆が言っていた。


「魔王様のことは頼んだ」


 まるで魔族という『害悪』を指している風ではない、物腰柔らかな意味深すぎる発言。その引っ掛かる言葉の記憶を心と頭の片隅に入れつつ、僕は屋敷へ戻る、帰路に着いたのであった。


 * * *


 魔王復活。そして魔王封印。それらをたった『一日』で終える、オルカストラで最も有名なさいじ『聖歌祭』が行われる日まで『残り三日』という差し迫った状況の中。

 本日の午後二時、雲一つない晴天の下に、西方大陸から出兵してきた聖王国の重要戦力——四人の聖騎士達がミファーナの地を踏んだ。

 銀の装備と白一色の畏まった服装をする彼等彼女等は、世界三大劇場『ミファナの星』の地下に設けられている『国会議事堂』で待っているラーラとボイラさん、そして魔王封印の最前線に立つ僕と、オルカストラの国政を担っている複数の大臣達が居る場所に、その姿を現した。

 

「歌姫様他、大臣の皆様、お待たせして申し訳ありません。私は『クラウディア聖王国』から派遣されてきた、聖騎士——名を『マキシオス』と申します。以後お見知り置きを……」


 大きな大きな円卓を囲むように、円形、等間隔に並べられている豪奢な椅子に腰掛けている僕達を、失礼にならないようにか、ゆっくりと静かに見渡して、深々と腰を折って名乗りを上げたのは、いかにも『好青年』といった風貌をしている、おそらく派遣されてきた聖騎士隊の小隊長を勤めているのだろう『マキシオス』という名の聖騎士であった。

 切長な瞳と端正な顔立ちをしている美青年な彼は、この中で一番の実力者である僕を警戒の意思を孕んでいる流し目で見つつ。

 今回の聖歌祭の主役である、僕の隣で、屋台に売っていたイチゴ牛乳——擬似宝具の回収に必要だからって、旅立ち前に渡されていた活動資金が余っているんでしょ? と言って、僕に無理やり奢らせた——を飲んでいるラーラを真っ直ぐに見つめ、ゆっくり歩み寄った。

 そして彼女の前で片膝をつき、胸に手を当てて、今回任されている任務。

 歌姫を守るという意志と行動を示すように宣誓する。


「聖歌祭の日、必ずや御身の身を魔王から守り切ることを、我々、クラウディア聖王国の聖騎士一同が、誓います」


 彼の宣誓に呼応するように、彼の後ろで敬礼を取っていた他の聖騎士達が跪き、ラーラに絶対死守の誓いを掲げた。


「ええ。よろしく頼みましたよ、聖騎士方」


「「「「————はっ!」」」」

 

 ラーラが発した、今まで聞いたことのない、畏まった声での敬語。

 それに、身体をムズムズさせてしまう僕は、歌姫の専属騎士に任命されているからか、それとも別の理由があるのか。

 その辺はよく分からないけれど、謎に僕に対して『敵対心』の視線を向けてくるマキシオスさんに、漠然とした不安を感じてしまっていた。

 そんな感じで、僕達は聖歌祭の日までの短い時間を『魔王戦と魔王封印』を行うための『最後の準備期間』に費やすため、海を渡ってきた『聖騎士達の挨拶会合』を解散した。


「よし! 帰りましょ、ソラ、お婆ちゃん」


「おし、ソラ坊! さっさと帰って飯を作りな!!」


「ら、ラジャー……」


 やはり、畏まった場でなければいつもと変わらずの横暴、ゲフゲフ。

 いつもと変わらずの態度で接してくれるボイラさんと、畏まった場であったにも関わらず、誰にも見えない足元で僕の足に自分の足で悪戯していたラーラに、ホッと僕は強張っていた全身の緊張を解くのだった。



 魔王復活まで——残り『三日』

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