30. 真実④
「魔王様! ……あっ、この部屋……」
イーダは召喚された場所を見渡した。
知っている部屋だった。
(忘れもしない……)
いい思い出はない、あの儀式の間だった。
「どうしてここに?」
「えーっ、『どうして』って本気で聞いてる?」
魔王が大袈裟にショックを受けてみせる。
「まさかすぐに婚姻の儀式をするために?」
「そうだよ!」
「魔王様、せっかちすぎません?」
イーダは笑ってしまった。
「ち、違うよ! ここでずっと待ち構えてたわけじゃないんだ。君が僕を呼ぶ声が聞こえてから、ここに転移すると同時に君を召喚しただけで、」
イーダは魔王の胸に飛び込んだ。
「マティアス様、私の名前はイーダです」
「イーダ! やっと知ることができた! って、まだ魔法陣も出してないのに、イーダのほうこそせっかちだ」
魔王も笑いながら、イーダを抱きとめてくれた。
足元が青白く光った。
「それですぐさま魔法陣を出すなんて、やっぱりマティアス様のほうがせっかちですよ」
「そういうことでいいよ。だってようやく名前を教えてもらえたんだ。待ちきれない」
魔王のことを揶揄いながらも、イーダはうれしかった。
「だけど、すでに名前を教え合ってしまったからなー。人間界のやり方を少し真似てみようかな」
魔王は『コホン』と咳払いをした。
「僕マティアスは、イーダを妻として愛し敬い慈しむことを誓います」
イーダももちろんそれに倣った。
「私イーダは、マティアス様を夫として愛し敬い慈しむことを誓います」
光が強くなり、ふたりを取り巻いた。
「誓いのキスをしてもいい?」
「あーっ! もしかして、それがしたくて人間界のやり方を?」
「正解!」
「ふふっ、ふふふ」
イーダはこみ上げてくる笑いを我慢できなかった。
けれど、魔王によってすぐに止められてしまった。
やたらと長い誓いのキスが終わる頃には、光はふたりの身体に納まっていた。
「この魔法、何ですか!? めちゃくちゃ強力じゃないですか?」
「うん。死がふたりを分かつまで効力は消えないから。これで僕らが夫婦だってこと、魔族にはひと目で分かるよ。浮気なんてできないと覚悟して」
「浮気なんてしませんよー。それをいうなら魔王様こそ……」
言いかけて思い出す。『お嫁さんはひとりでいいんだ』と言っていたことを。
「まずは僕が王妃を迎えたことを城中に知らせたいなー」
魔王は機嫌よくイーダの手を取り、歩き始めた。
儀式の間を出ると、侍従長が待機していた。
「おめでとうございます」
「侍従長、王妃のお披露目をしたいから準備を頼む」
「かしこまりました」
恭しく下げた頭を上げながら、侍従長は『そうそう』と、さも今思い出したかのように付け足した。
「夫婦の寝室は準備ができています。本日からお使いくださいね」
魔王とイーダは仲よく同時に顔を真っ赤にしたのだった。
END
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