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85.隠し部屋

 装置の開発者の気持ちになって見ればチェスには自明の理である。

 装置が永久に機能するという保証はない。

 その際に修繕するための道しるべを必ず用意する。

 


 可能性の一つは帝国魔導学院。しかしその学者たちが調べても見つからなかったということはそちらにはないのだろう。

 喪失した可能性もあるが、その場合は喪失した記録が残る。それにチェスなら不特定多数の研究者がいる遠く離れた学院には残さない。


「おれなら、唯一の拠点であるこのモンティゴ城に遺す」


 それにはエメラルたちも同意した。

 しかしそれらしい文献は見つからない。


「ふぅん……考えすぎじゃない?」

「いや、絶対ここにある」


 チェスは城の古い設計書を見つけた。

 それを見ながら思考を巡らした。

 そしてその答えに行きついた。

 

「おい、ここは?」


 城を隅から隅まで探した兵士たちに尋ねるがその部屋を確認した者が見つからない。


(これだけの人数がいて、ここだけ誰も行っていない。それに何のための通路だ?)


 自分で行ってみる。

 


「あぁ?」


 目的ににたどり着けない。


(何らかの付与魔法か。いや、これは結界装置と同じ。認識に影響を与える魔法)


 認識を誤認させられ、そこにあると分からない部屋。

 千年以上も誰もたどり着けなかった、不自然な突き当り。


 チェスは目をつぶって壁伝いに進んでみた。


「うっ!!」


 顔に蜘蛛の巣が張り付く。

 たどり着いた。


「全員来い!!」

「もう、あいつおれらに命令してんな」

「ふぅん、いいんじゃない。素敵だし」

「この城にも認識を阻害する結界装置があったんかい」

「しかしただの壁です」



 突き当りの壁。

 ドアも何もない。


「ここに来るのが錬金術師ならそれは問題ではない」



 チェスは『錬金分解』で突き当りの壁を粉々にした。


 すると壁の奥から部屋が現れた。



「まさか」

「ふふぅん。でかしたよ、チェス」

「だから言ったじゃですか。彼は『便利屋』なんです」


 チェスが見つけた隠し部屋には結界装置のレプリカがあった。これが城の中の通路を一つ認識から除外させていた。


 すぐに帝国魔導学院から学者団が詰め寄せ、結界装置のしくみが調査された。

 部屋にあった文献から森の奥にあるであろう装置への道順についても調べがついた。



 ◇



 一行が進むすぐ横をタラクスが通り過ぎた。

 黒いサソリ型の魔物で、遭遇すれば毒で溶かされる。

 ここにはタラクスのような【死滅級】の魔物や魔獣が溢れている。適性討伐クラスはS級相当。


「学者たちが怖気づいたのもわかる」


 チェスは結局結界装置の修繕まで出向くはめになった。


「あいつら、調子のいいこと行っておいて逃げおって」

「城では随分と威勢のいいことでしたが」

「所詮御用学者など当てにならんわい」



 これまで明かされなかったモンティゴ城の隠し部屋をチェスに発見されたことを出し抜かれたと思ったのか、学者たちはチェスを任務から追い出そうと躍起になった。

 しかし、エメラル他、バザード、ラシャラン、ガガゴルンが強く反対したため、不服ながらもチェスの同行を許したのだ。

 ところが結界装置へと至る安全な順路―――それは結界でできたトンネルだった―――を進むとすぐにすれ違う魔物に腰を抜かし、大声を上げ、結界の外に出ようとした。


 チェスが『吸着』の付与を施さなかったら結界の外に飛び出て死んでいただろう。


「ふふぅん。いいじゃない。『便利屋』がいるのだから」

「違いない!! グハハ」


 当初、チェスに抱かれていた疑心はすっかり消え失せ、信用を得た。


「しかし、不思議です。千年誰も気が付かなかった部屋をなぜあれほどあっさり見つけられたのです?」


 ラシャランは考えたが答えが出ず、とうとうチェスに聞いた。


「どれだけ魔法で隠しても、城の図面を誤魔化せばどこかがズレるだろう」

「しかし城に隠し部屋や隠し通路はつきものです」

「隠し部屋と隠し通路は逃走や安全確保を目的とする。それ以外にあるとすれば宝物庫だ。あんな辺鄙なぼろい城に宝物庫なんてあるか? 無いな。ならどうして逃走経路に不便な城の中央の、しかも厨房の裏にスペースがあるのか。厨房の裏に空きがあったら食料庫にでもするだろ」

「確かに」


 そのスペースを図面を見て見つけられたのは元盗賊の才覚ゆえ。


「……|天授技能《天授技能(スキル)》じゃなかったんかい」

「そうだ。ぼくもチェスには特別な天授技能(スキル)で解析したのかと思っていたよ」

「ヴァレオン、おれの天授技能(スキル)を探るな」


 ヴァレオンはチェスににらまれ両手を上げる。



「ふぅん。秘密の多い子だね。ソロならそれでいいけど、チームワークは大事だよ」

「おれはソロだ」

「ずっとソロで活動するわけにはいかないさ」

「チェスよぉ。天授技能(スキル)を隠して有利なのは中堅までだ。お前が考えんのは天授技能(スキル)を隠すことなのか?」

「どういう意味だ?」

「メイビスがわしらと組ませたのはお前の考えを改めさせるためかい」

「やれやれです」



 チェスには何のことかわからない。

 天授技能(スキル)を隠すのは冒険者の基本だ。

 それは高位冒険者でも変わらない。



(おれが間違っている? いや、天授技能(スキル)を明かしておれにメリットはない。どうせこのメンバーと仕事をするのもこれきりだ)



 チェスには目的がある。

 聖遺物の情報。それを老師から聞き出す。そのためにメイビスの仲介を得る。

 全てはシルヴィの呪いを解くため。



 一行は森の奥深くの霧に包まれた遺跡を発見した。




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