第1話 独裁政治
ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ…
機会音とともに目が覚める。汗でじとっとした身体を気にしながら、重いまぶたを無理矢理あける。時計は午前7:00を指していた。今日もまたいつも通りの1日を迎えるのか…そう思いながら政宗は重力が無駄にかかる体を起こし朝の支度にとりかかった。
今日も何気無い1日が始まろうとしていた。夏真っ只中。気温は30度を簡単に超え、おそらく今日も猛暑日となるのだ。温暖化も進み平均気温も上がった。今では東北の方ですら雪がほとんど降らない地域が増え始めている。
しかし悪いことばかりではない。気温と並んで上昇しているものがある。それは景気だ。日本は不況を乗り越え1980年代のバブル時代を上回る勢いで景気を盛り上げてきた。景気だけではない。日本はあらゆる分野で活躍の場を伸ばし、世界の頂点にまで登り詰めた。あの日を境に日本は生まれ変わったのだ。そう、あの日を境に…
「わりー 待たせな!」
「なんで上からなのよ!それにしても遅すぎよ!!!」
横から何かが政宗の顔に迫って来たが、気づいた頃には頬をかすめていた。
「イッタ、これだから空手やってる女は怖い。」
「うるさい!もうさっさと行くわよ」
こんなやりとりは何回目だろうか?小学生の時から一緒に通っているから数えきれないほどだ。もう日課になってしまった気がする。それだけ俺がダラしないということか?と政宗の頭の中を過ぎり、なんだか腹立たしさと恥ずかしさが入り混じる。
空手家で優秀、立花彩香とは家が近く、小さい頃から家族ぐるみの付き合いで仲が良い。女性にしては大柄でどこにでもいる活発な女の子。周りからの人気も高く非の打ち所がない高嶺の花だ。父が空手道場の先生ということもあって5才から稽古をしている。文武両道が彼女より似合う人はいないのではないか?
「ふぅ〜 今日もギリギリだな」
キーン コーン カーン コーン…
今日も彩香のおかげで遅刻せずに済んだ。待たせたら喝が飛んでくるプレッシャーは何よりの目覚ましだから。と政宗は心の中でつぶやく。
早いことにこの学校に通うのも3年目になる。田舎の高校だから敷地の広さだけしか自慢するところはないが、政宗は友達にも先生にも恵まれ充実した日々をおくっている。
間もなく活気に満ち溢れた男が教室に入ってきた。
「おはよー!はい、みんな席につけ!それにしても今日も暑いな〜」
朝から大きな声で、むさ苦しい体格の良い男はあいさつをするのだった。
「今井先生!おはよう」
騒ついている教室の端の方からそんな声が聞こえてきた。今井先生は彼らの担任で、もちろん体育の先生であり、柔道部の顧問だ。見るからにゴツゴツしていて、格闘家のジェロム・レ・バンナによく似ている。影で「バンナ!」と呼んでいる生徒も多かった。
「よし。出欠をとるぞ!1番 秋山 祐樹」
「はーい」
面倒な出欠確認が始まった。高校にもなれば普通は先生が確認するだけで、いちいち名前まで呼んだりしない。見れば誰がいないかなんて簡単にわかる。
でも今井先生は違った。朝のコミュニケーションだ!とかなんとか言ってやり始めたが、誰も否定はできず渋々やっている状況だ。
「19番 吉永 政宗!」
「………あっ、はい!」
「おい!ぼけっとするなよー、もう熱い1日は始まったんだ!」
「はぁ…」
松岡 修造か!とツッコミたくなる気持ちを抑え、政宗は意識を今井先生に戻した。
聞いてわかるように政宗の父は歴史好きだ。仙台の独眼竜 伊達政宗からそのままとったのだからわかりやすい。シャイな政宗はいじられるからといってその名前はあまり好きではなかった。
ネームバリューに負けたのか、政宗はリーダー的存在とはかけ離れていた。いざとなれば多少頼りにはなるが、ドジでバカ。スポーツしかできない、言わばどこかの漫画の主人公のような人格だった。
しかし、この世の中、バカでは生きていけない。脅しではない。本当に生きていけないのだ。もう一度言おう。バカに生きる道はない。
今から30年ほど前に遡る。当時日本は不況や震災の影響、高齢化といった社会現象で借金大国になり破産してしまったのだ。
前々から借金はしていたものの、震災という大打撃を受け、立ち直すことが出来なくなってしまった。政府も機能しなくなり、失業者も続出、人口の約8割が無職に。そして65才以上の高齢者が人口の約4割までに達してしまった。
この状況で日本をあきらめ海外に移住するもの、はたまた自らの命を絶つもの…。日本はかつてない暗闇に迷い込んでしまった。
だが…それでは終わらなかった。ある党が立ち上がったのだ。それは織田 辰徳を党首とする「覇民党」だ。いかにもやばそうな連中じゃないかと考えてしまうが、それは当てはまってしまう。政権を握るなり、物凄いスピードで政策を打ち立てるのであった。今までどこの国でも前例がない、恐ろしい法律を目の前にし、国民は戸惑った。しかし、誰も反対するものはいなかった。自分たちが追い詰められ、これ以上どうしようもないことを知っていたからだ。そして何よりも理に叶っている。誰しもが1度は描いた冷酷な無駄のない理想を覇民党は実現するのであった。経済回復と共に国民の信頼を得て、非のない独裁政治を保持し、新大日本帝国を作り上げていった。




