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第52話:神セブン誕生(神宮寺麻里)

 ――この会議は、たぶん今後のGAIALINQを決定づける。

 私の中で、そんな確信が最初からあった。


 水曜日の午後。

 会議室の空調がわずかに唸りを立てる中、新人7人と私たちコアメンバー――亜紀、玲奈、そして侑里香が向かい合って座っていた。


 ホワイトボードには一行。

「GAIALINQ ARC:次の戦略的進化」

 その文字の下に、私はペンで小さく書き足した。

 “攻撃は最大の防御”――。


 このブレストの主導役は、私。

 テーマは明確だった。


「中国のAI×エネルギー覇権構造を、どう“構造的に凌駕”するか」


 司会として場を見渡す。

 全員の顔に緊張と高揚が入り混じった色が浮かんでいる。

 玲奈が静かに頷いた。

「……始めましょう」


 私がうなずき、口を開く。

「じゃあまず、前提を共有するわ。

 中国のAI戦略の中枢は、“国家主導による再エネ制御OSの囲い込み” 。

 その弱点は三つ――信頼性、オープン競争、そして国際包囲網への脆弱さ。

 私たちは、この三点を同時に突く必要がある。」


 沈黙のあと、最初に手を上げたのは芦原天空海。

 眼鏡越しに冷静な光を宿した瞳で、彼は淡々と語った。


「“オープン規格化” から始めるべきです。

 国家が主導できない領域で、GAIALINQが “Trustless OS” として立ち上がれば、中国をはじめとする権威主義国家系AIはそもそも関与できない構造になる。

 透明性APIと監査ログを標準仕様化し、ISO審査のスキームに組み込む。

 ―― “見える化” こそ、最大の防御線です」


 玲奈が頷いた。

「いいわね。

 倫理審査と技術規格をセットにした国際標準…… “透明性の条約化” 」


 その横で、真帆が身を乗り出した。

「それに、“地熱×AIデータセンター” の連携を軸にしては?

 GAIALINQのようなゼロエミッション構造を標準リージョン化できれば、既存のビッグテックデータセンターサービスに “クリーン競争” を仕掛けられます。

 環境正義を掲げる方が、世界の資本が集まりやすい」


 その言葉に、私の胸が少し熱くなった。

 八幡平の雪原の風景が、ふと脳裏をよぎる。

 直也が語っていた「地熱は地球の鼓動だ」という言葉を思い出した。


「確かに…… “地熱” のプラットフォームを中心に据える。

 悪くない。」

 私は短くメモを取る。


 次に、成原が発言した。

 彼の声は落ち着いているが、その中に外交官のような緊張感があった。

「“非同盟圏AIエネルギー圏” 。

 ASEAN、インド、中東を巻き込むべきです。

 “一帯一路” の逆ベクトルを作る。

 GAIALINQ ARCを “中立AIインフラ” として国連ESCAPやADB経由で制度化できれば、政治的にも非常に強い防御になります。」


「……非同盟圏全体にとっての “祈りの環” ね。」

 玲奈がつぶやいた。

 その言葉に、全員の視線が一瞬だけ彼女に集まる。

 でも、誰も口を挟まなかった。


 沈黙を破ったのは、真田海音。

 法務の若き天才だ。

「“暗号化API+倫理審査”。

 ここを制度化できれば、国家主導のAIは技術的に接触できなくなる。

 アクセスキーを “量子耐性署名” にして、

 認定AIのみが制御権を持てるようにすれば、

 GAIALINQ ARC自体が “国際的防壁” になります。」


「量子耐性署名……いい響きね」

 私は笑って言った。

 その瞬間、空気が少し柔らいだ。


 高遠亥が、静かに資料をめくりながら口を開いた。

「……地熱の呼吸を感じるセンサー。

 あれをARCに直結すれば、“地球そのものの声” を監査ログとして残せます。

 つまり、倫理ではなく “自然そのもの” をルートキーにする。」


 会議室が、一瞬で静まり返った。

 その表現は詩的でありながら、誰よりも論理的だった。

 GAIALINQの思想を、誰よりも深く体現しているように思えた。


 玲奈が微笑んだ。

「あなた、詩人ね」

 亥は少し照れたように目を伏せた。


 そして最後に、岡島彩羽。

 彼女の声は軽やかだったが、その言葉には真っすぐな熱があった。

「“日本発の信頼アーキテクチャ” をSNSでも打ち出したいです。

 “Energy beyond borders. Trust beyond nations.” ――このコピーを世界に拡散させるだけで、GAIALINQの立ち位置が一瞬で変わる気がします。」


 私は思わず笑ってしまった。

 そのフレーズを、メモ帳の端に書き留めた。


 “Energy beyond borders. Trust beyond nations.”

 ――直也なら、きっとその言葉を気に入るだろう。


 全員が発言を終えた時、私はホワイトボードを振り返った。

 そこには、7つの矢印が交差するように描かれている。

 それぞれの専門領域が、まるで神経網のように繋がっていた。


「……これが、GAIALINQの “神経系” になる。」

 思わず、そう口にしていた。

 玲奈が頷く。

「ええ。彼が創った “骨格” の上に、私たちが神経を通す。

 それが、今年の新人7人の役割。」


 直也という始祖を基点として、そのフィロソフィーを継承する最初の7人だ。


 “神セブン” ――

 それが、この日から自然に呼ばれ始めた名前だった。

 誰も最初に言い出したのか覚えていない。

 でもGAIALINQのベテランメンバー全員が、その響きに一瞬で納得していた。


 私は深く息を吸い込み、ゆっくりと言った。

「……このブレストの議事は、侑里香にまとめてもらうわ。

 あなたの言葉で、GAIALINQの “火” を灯して。」


 そう告げた瞬間、

 侑里香の目が、静かに、しかし確かに光った。


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