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第20話:ツーショット(新堂亜紀)

 ――正直、油断していた。


 ウェディングフォトのジャンケンで、まさか保奈美ちゃんが勝つとは思っていなかった。

 いや、勝つだけならまだしも――あの展開は、誰が予想できただろう。


 旧帝国ホテル前の石畳の上で、真っ白なドレスを着た保奈美ちゃん。

 そして、それを抱き上げる白いタキシードの直也。

 最後に――あの “頬へのキス” 。


(あれはダメだよ……完全に反則でしょ)


 あまりの光景に、思わず声を上げてしまった私の横で、

 玲奈が「条例違反!」

 麻里が「モラル崩壊!」

 莉子が「これはズルい!」

と叫んでいたけれど、全員、目が離せなかった。


 出来上がった写真は、まさに “奇跡の一枚” だった。

 いや、どの角度から見ても奇跡。

 カメラマンの腕とか構図とか、そういう次元じゃない。

 あれはもう、時代を超えた“本物の愛情写真”だった。


 でも――。


 不思議なことに、嫉妬というより、むしろ闘志が湧いた。

 あの一枚を越える瞬間を、自分でも作りたくなった。


 その後、直也くんと保奈美ちゃんが再び明治風の格好に戻り、5丁目の聖ザビエル天主堂へ向かった。

 青空に映える白い尖塔。

 木造のステンドグラスが、春の光を受けて柔らかく輝いている。


 観光客が少ないその時間帯、私は思い切って言った。

「ねぇ、直也くん。

 ……ここで、ツーショット撮ってもいい?」


 彼は少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに笑った。

「いいですよ。

 どうせ、もう否とは言えないんでしょ?」

「ふふ、わかってるじゃない」


 カメラを構えてくれた玲奈に軽く手を振り、

 私は直也の隣に立った。

 光が差し込み、ステンドグラスが二人の影を淡く染める。

 彼が少し照れたように肩を傾けてくれて、

 自然に笑顔になった。


「……はい、撮りまーす!」

 玲奈の声とともに、シャッターの音。


 画面を確認した瞬間、思わず息を呑んだ。

 保奈美ちゃんの “奇跡の一枚” とは違う、

 けれど負けていない。

 落ち着きと凛とした雰囲気。

 ――大人のツーショット、という感じ。


(うん、悪くない。

 むしろ、こっちのがアリでしょ)


 私が満足げにスマホを覗き込んでいると、

 背後から聞き慣れた低い声がした。


「では――提案があります」


 侑里香だった。

 いつもの整然とした表情。

 けれど、その瞳にはどこか柔らかい光があった。


「各スポットごとに、ツーショット撮影権をジャンケンで決定しましょう。

 ただし、保奈美さんは先ほどのウェディングフォトと、COOにキスをするという反則行為により――本日の全権利、消失とします」


「ええええええーっ!?」

 保奈美ちゃんの悲鳴が響いた。


 私と玲奈と麻里と莉子、思わず爆笑。

「うわー、急に仕切りがイベント事務局的になった!」

「完全にGAIALINQモード!」

「でもフェアね」


 直也が苦笑しながら言った。

「まぁ、侑里香の言う通りだな」


 保奈美ちゃんは唇を尖らせ、頬をふくらませた。

「……うぅ、わかりました」

 その顔が可愛すぎて、全員がまた笑ってしまう。


※※※


 それからはもう、まるで“ミニゲーム大会”だった。


 内閣文庫、裁判所法定、監獄、派出所――。

 誰もが「ここはビミョー」と言いながら、なぜか毎回ジャンケン。

 確かに映えるかどうかはちょっと微妙でも機会は逃せない。

 勝った人が直也と並んで写真を撮る。

 負けた人はその構図を撮るカメラマン役。


 最初は静かに見守っていた侑里香も、

 気づけば本気モードでジャンケンに参加していた。

 勝負のたびに、表情が少しずつ和らいでいく。


「……侑里香、今ちょっと笑った?」

 私が尋ねると、

「いいえ。

 ……たぶん、風のせいです」

 と淡々と返す。

 けれど、その頬は確かに緩んでいた。


 玲奈が小声で囁く。

「ねぇ亜紀さん。

 彼女、変わってきましたね」

「うん。たぶんね」

 桜の花びらがまた風に乗って流れる。


(……まぁ、まだこの戦いは続くけどね)


 私は髪をかき上げ、次のスポットの案内板を見上げた。

「次、どんどん行くよ。

 そろそろ3丁目かな?」


 背後から、みんなの声が弾む。

 笑いながら、ジャンケンの掛け声が重なる。


 明治の空の下、GAIALINQの新メンバー侑里香を含めて、

 少しずつ、ひとつのチームになっていった。


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